朝、目が覚めると、先に起きていたらしいローが、シーツに恋歌を包んで自分に寄りかからせながら医学書を読んでいた。

「起きたか」

『…おはよう』

「ああ、おはよう」

もぞもぞと恋歌が動いた事に気づいたローが恋歌の顔を覗き込めば、何度か目を瞬かせて笑顔を浮かべる。

ちゅ、と音を立ててローが恋歌の頬にキスをすれば、恋歌の頬がほんのり赤く染まるが、嬉しそうに笑って恋歌もローの頬にキスを返した。

「…朝から煽ってくんな」

恋歌の可愛い行動にシーツをはぎ取って襲ってやろうかとも思ったが、大きく息をはいてそっと恋歌をベッドの上に降ろした。

「もうそろそろあいつらも起きてくるはずだ

着替えておれたちも下に行くぞ」

『うん』






「あら２人とも早いのね

おはよう」

「ああ」

『おはよう』

着替えて１階に降りると、すでにランは朝食の準備を始めており、ほのかに香る紅茶の匂いがまだ少し微睡んでいる思考をすっきりさせてくれた。

『手伝うね』

「ありがとう」

ローはソファ席に座り、恋歌はすぐに袖を捲ってキッチンに入る。

『この紅茶も、魔法かかってるの？』

「そうよ

これはね…」

「……」

楽しそうにしている恋歌を横目に、先ほどまで読んでいた医学書を開く。

「(魔女の中で一番美しい魔女で、あの声はこの世界で最も美しい声、か…)」

恋歌が将来誰もが見惚れるような美女になる事も、声が美しい事もわかっているが、そこまでとは思っていなかった。

”星”という未知のもので魔法を使う恋歌は、たしかに珍しい存在ではある。

しかし美しい”星の魔女”だからローは恋歌の事を好きになったわけではない。

「(これから先…あの声ももっと綺麗になんのか…)」

今でも充分すぎるぐらいだとは思っていたが、これからさらにとなればどうするべきかと頭を悩ませる。

『これ、飲んでみて』

ぼーっと医学書を眺めていると、かちゃ、と目の前に紅茶が置かれ、目の前にはいつもと同じ優しい笑みを浮かべている恋歌がいる。

目の前の紅茶に手を伸ばし一口飲めば、いつもとは違い紅茶の味が濃く、一瞬で身体が温まり思わずほっと息をはいてしまいそうになる。

「…美味い」

『ほ、ほんと？』

「？

ああ」

『いつものと、どっちがいい？』

「あー…おれはこっちだな」

ずい、っと顔を近づけて確認してくる恋歌に、素直な感想を言えばぱぁっと嬉しそうな笑顔を浮かべた。

『これね、さっきランに教えてもらって、作ってみたの』

「へぇ…」

もう一度飲んでみれば身体を包み込むような優しい味に、今度は口元が綻んだ。

「美味いよ」

ぽん、と恋歌の頭を撫でてやれば、また嬉しそうに笑ってキッチンの方へ戻っていった。

「(まぁ今日は…別の事から守ってやらねぇとな)」

外から中が見えないようにはめ殺しのすりガラスがはまった窓と、木目調の壁に視線を向けてもう一度紅茶に手を伸ばした。