「でもわたしはまだマシな方よ」

「マシ？

あんたも十分綺麗だと思うけどな」

ふふふ、と嬉しそうに笑うランは上品で恋歌とは違う美しさがある。

「ありがとう

でもね、星の魔女は魔女の中でも別格なの

それを…教えてくれる人がいない事は、とても怖い事」

『……ランさんは、なにか、知ってるんですか？』

恋歌の家族が近くにいない事を確認した上でこの話をしたという事は、何かランが伝えたいことがあるのかと首を傾げれば、言いにくそうに手をもじもじと動かし始める。

「わたしも星の魔女に会ったのは初めてだけど恋歌ちゃんの容姿は、星の魔女の名に相応しいわ

星に愛され、星を魅了する魔女はあらゆる魔女の中でも一番優れた容姿と、美しい声を持っていて…魔女以外の人間から一番狙われる存在

そんなあなたが…こんなことで、素顔を晒すのは危険よ」

『…わたしは、魔女である事を、誇りに思って、います』

「？

ええ、それはわたしもよ」

『だからわたしは、”こんなこと”とは、思いません』

「……そう」

全てをわかった上で手伝おうとしてくれているという事がわかり、ランはこれ以上何も言うまいとふぅ、と息をはいた。

「じゃあ、魔女の底力見せてやりましょ」

『はい』

ぐっと握り拳を作ったランに笑顔で頷いた恋歌は、複雑そうな顔をしているローに気づくことはなかった。






そこからすぐにいつもよりは遅いが開店準備を始め、ランはいつも通りにキッチンで商品の準備を始める。

『これで、どうするの？』

「まずはここの紅茶と食事が美味いってのを思い出してもらう

けどここは少し立地が悪いから、どんなに可愛い店員がいても誰かの目に留まることは少ないと思う

だから最初はこれだ！」

首から下げられる紐がついた木の箱を渡された恋歌は、それを持っていきいきとしているペンギンに視線を向ける。

「この中にランが作った紅茶と軽食を入れて、街の目立つ場所で売る

もちろん売り子は恋歌！

可愛い子が美味いものを売ってるとなればすぐに街中に噂が広がるはずだ」

『わかった、頑張る』

「じゃあ売り易くて、持って帰ってもらいやすいものがいいわね」

「「……」」

どんどん話が進んでいくが、その様子を面白くなさそうに見ているのがローとウィリアム。

２人がしかめっ面をしている理由は同じで、己の愛する恋人と妻がいつもより可愛い恰好をして人前に出ようとしているのが気にいらないのだ。

それでも恋歌とランが楽しそうにしているので止める事はできない。

「で、荷物持ちと護衛でベポ頼むな」

「アイアイ！」

「おれはここでランの手伝いしてるから、シャチは万が一の時のために恋歌の傍にいてくれ」

「おう」

ランの店にはローがいるため戦力過多にならないように分散し、恋歌とランを守る為の対策も考えた上の作戦。

「んじゃ、ベポこれ持って」

紅茶の入ったポットと、サンドイッチが包まれた包みを詰め、ベポの肩に紐をかけて木の箱を持たせた。

器用に箱にメニュー表を立てかけ、ペンギンが満足そうに笑う。

「まぁ今日は昼の時間も過ぎたからそんなに客は来ないかもだけど、試しに行ってみよう」

ペンギンの言葉に頷いた恋歌、ベポ、シャチ、シリウスは、街の中心部に向かうために喫茶店から出て行った。