「あんたは…どうしたい」

「……」

ローが質問をしたのはラン。

恋歌の傍に昔からいたからこそ、”魔女”という種族がどんな種族かわかっているつもり。

「ふふっ、素敵な船長さんね

恋歌ちゃん」

にっこりと笑って恋歌を見れば、嬉しそうに笑っている。

「…ありがとう、わたしのこと気遣ってくれて

わたしは…このままでいいの」

「お前…店を持つ事が夢だっただろ…？」

ランの言葉に驚いたようにウィリアムは目を見開いたまま固まった。

「ええ…

でもわたしは、あなたと一緒にいられることの方が重要なの」

「…？」

「ほんとに、魔女ってのは厄介な性格してんな」

やれやれと呆れたように首を振ったローは、少し冷めた紅茶を一気に飲み干した。

「恋歌も、あんたも、もう少し欲を出して生きろ

おい、お前ら…何としてでもこの店を繁盛させろ

いいな」

「「「アイアイ、キャプテン！」」」

ローの言葉にびしっとポーズを決めた３人は、やる気を取り戻したようで勢いよく立ち上がる。

「え、っと…わたし、このままでいいって…」

「あんたは魔女であることがバレて、自分の旦那に迷惑がかかるのが嫌だったんだろ」

「…ええ」

大事なウィリアムとの今の生活を、自分の所為で脅かされるわけにはいかないと、ランは自分の夢である喫茶店の経営を諦めようとした。

しかしそんな事をウィリアムが喜ぶはずもないと、ローはわかっていた。

「お前…そんなこと考えてたのか」

「だって…ご、ごめんなさい…」

ウィリアムにむにゅ、っと頬を潰されているランは、涙目になりながら謝っている。

「お前も、似たような性格してるもんな」

『…そうかな』

近くに同じような性格をした恋歌がいるからこそ気づいた事。

”魔女”であるという事まではわからなかったが、他人に迷惑をかけるぐらいなら、自分のしたいことを諦める性格だと。

「最終的に決めるのはあんただ

おれが依頼を受けたのはこいつだが、あんたが決めろ

あんたが望むなら…おれの仲間たちは全力で力を貸す」

「…どうして？

ローくんはウィリアムから医学を学べればいいんでしょう？」

「…魔女だからだ」

「え？」

ぽかんとした顔をしているランに口元を緩ませたローは、横にいる恋歌の肩を引き寄せた。

「それ以外に、理由はねぇよ」

自由を求めるローが”D”であるという事を隠して生きているように、恋歌もランも”魔女”である事を隠して生きている。

『？』

自分が愛した恋歌と同じ理由で”自由”が奪われていると言うのであれば、手助けをしてやりたいと思う理由はそれだけで十分。

「さぁ、これが最後だ」

もう一度”どうする？”と視線で聞いてくるローに、ランは諦めたように笑みを浮かべた。