結局手伝い１日目は１人のお客も来ないまま終わったが、ランはいつもの事だと全く気にしていないようで、”お疲れ様”と笑っている。

閉店作業も終わり、着替えも済ませ今日の仕事は終わった。

≪明日は何時に来たらいいですか？≫

「開店時間なんてあってないようなものだから、ローくんと同じ時間に来てくれたらいいわ」

ふふっ、と柔らかく笑いながら、とんとん、と２階への階段を上っていく。

恋歌もランに手招きされ後ろについていくと、２人が勉強をしている部屋の扉をノックしてから、返事を待たず扉を開けた。

「さぁさぁ、もう今日は終わりにしましょ」

「…ああ、もうこんな時間か」

返事を待たずに入ってきたことに怒る事はせず、時間を確認してかけていた眼鏡を外し、指で目をぎゅっとおさえた。

「小僧、続きは明日だ」

「…こんなペースじゃ出航するまでに時間がかかり過ぎる」

「そんなことおれが知った事か」

不服そうな顔をするローを無視してウィリアムは立ち上がり、終わりだと言うように本をぱたんと閉じた。

「その子を１人で船まで帰すわけにもいかんだろ

それにそんな目をするのはおれが依頼したことを解決してからだ」

”その子”と言われて後ろに立っている恋歌を見ると、いつもの服装に着替え終わっており、恋歌の方も今日の手伝いは終わったのだとわかった。

「…また明日来る」

まだそこまで遅い時間ではないが、恋歌を１人で船まで帰すわけにはいかないのは事実なので、諦めて立ち上がり恋歌の手を取る。

「また明日ね、恋歌ちゃん」

ひらひらと手を振るランに頭を下げた恋歌は、ローに手を引かれて１階への階段を下りて行った。

「…どうだった」

喫茶店の扉の鈴が鳴り、２人が出て行った後、ウィリアムがランに話しかけると、ランは困ったように笑う。

「…嬉しいような、悲しような、複雑な気持ちよ」

「…そうか」






そして次の日。

留守番をしていた３人には事情を説明し、ローの用事が終わるまでこの島に長期滞在する事を話した。

滞在中の過ごし方については各々自由にしていいという許可も下りた。

朝食後にランの喫茶店に向かい、まだ開店準備がされていない店の扉を開く。

「おはよう」

「…あいつは？」

「今日はもう部屋にいるわ

あとで飲み物を持っていくから」

扉を開ければ開店準備をしていたランが笑顔で挨拶をしてくれ、ローは早々に２階への階段を上っていった。

「あら、今日は可愛い子も一緒なのね」

ローの無遠慮さにもランが特に何も言うことなく、恋歌の方を見れば、その腕に昨日はいなかった子犬がいる事に気づいた。

可愛らしい子犬に満面の笑みを浮かべ、恋歌の腕の中でおとなしくしているシリウスの頭を優しく撫でてやる。

≪この子もお店にいてもいいですか？≫

「もちろん、こんなに可愛い子なら大歓迎よ」

喫茶店に動物は入れる事は断られるかと思ったが、ランは嬉しそうにおとなしいシリウスを撫で続けている。

撫でられているシリウスも気持ちよさそうに目を閉じている。

「(恋歌の予想は正しかったみたいだな…)」

撫でられながら恋歌の方に目配せをすると、恋歌も頷いて返し着替えをするために更衣室へと向かった。

『(気になる…けど、聞いていいのかわからない…)』

昨日の制服に袖を通しながらランに気になる事を聞いてもいいか考えるが、事情があるのかもしれないと思えば聞くことができない。

シャチに頼んで昨日と同じ髪型にしてもらった為、最後に帽子を取ってヘッドドレスをつけて店に戻る。

「さぁ、今日もお店を始めましょうか」

シリウスはカウンターの椅子の上に座らされており、ランは既に開店準備を始めていた。

それを手伝おうと恋歌も少し速足で店に出た。