?「はい、これどうぞ」

出されたのは少しハーブの香りがする紅茶。

汚れ一つない白いカップに淹れられた紅茶に口をつけると、恋歌の淹れる紅茶とはまた違う優しい味に、身体が温まる感じがした。

『(これ…やっぱり…)』

「へぇ…美味いもんだな」

「あら、気に入ってもらえたなら嬉しい

でも最近お客さんがめっきり減ってね…

そろそろ閉めようかと思ってるの」

困ったように頬に手を当てながらため息をつく女だったが、この味で客足が遠のくのは何か理由があるのではと、ローが口を開こうとした直後、階段から足音が聞こえてきた。

「…なんだ、客ってのは昨日の小僧か」

いかにも寝起き、という顔で現れたのは無精ひげを生やした白衣を着た男。

「ふふ、おはよう

まだ寝癖がついてるわよ」

男が現れた瞬間に柔らかく笑った女は、男の寝癖を手櫛で整えてやっている。

「…で、その女はなんだ」

『？？』

髪型を整えられた男の眼光は鋭く、ぎろりと睨みつけられたような感覚がした恋歌は、びくっと身体を震わせたがローが大丈夫だと目配せをしてくる。

「あんたが昨日女手を寄越せって言ったんだろ」

「…そんなこと言ったか？」

「言っただろうが！」

まったく記憶になさそうな男の発言に怒ったローは机を叩きながら椅子から立ち上がる。

「まぁそう熱くなるな

冗談だ、冗談」

ひらひらと手を振りながらローの横に腰を下ろした男は、女に紅茶と朝食を要求する。

「はい、どうぞ」

「…ふぅ」

紅茶を一口飲んで一息ついた男は、じろっと恋歌を横目で見た。

『？？』

何故自分が連れてこられたのかと首を傾げ、不機嫌そうに眉間に皺を寄せているローに視線を向けると、はぁ、と小さく息をはいてもう一度椅子に座りなおした。

「あんたがこいつに何をさせたいのか聞いてなかったからそれを聞きに来たのもある

こいつに何をさせてぇのかを聞いてから考える」

女手を寄越せ、と言ってきたが何を手伝わせる為に必要なのかは教えてくれなかった。

医学の事を教えて欲しいのはやまやまだが、恋歌が危険な目に遭ったりするのであれば断るつもりで来た。

「…海賊って言ってたから仲間にも薄情かと思ったが、そうでもないようだな」

目の前に出された朝食を食べながら、何かを考えるように女に視線を向ける。

「…もう、気にしないでって言ってるのに」

「お前の夢をおれが気にしないわけねぇだろ」

その視線に女は何か気づいたようで困ったように、だが、どこか嬉しそうに笑う。

「お嬢さん」

２人の雰囲気に首を傾げていると、男から声をかけられ恋歌の視線が男に向く。

「あんた、接客は得意か？」