その後もペンギンと他愛のない会話をし、夕食の時間の前に帰ってきたシャチとベポと一緒に洗濯物を取り込み、いつもの夕飯の時間になってもローが戻ってこなければ先に夕食を食べようと、着々と夕食の準備は進んでく。

「あ、キャプテンだ！

おかえり」

「…ああ」

『おかえり』

「ああ、ただいま」

ちょうど全員で手を合わせたところで食堂の扉が開き、ローが島から戻ってきた。

「……はぁ」

疲れたように息をはきながら自分の席についたローは、鬼哭を机に立てかけ帽子を柄にかけた。

「目的の人とは会えたのか？」

この島に来たのは天才と呼ばれる医師に会うため。

だが、ローの表情は曇っており、会いたかった人に会えたという感じではない。

ペンギンが差し出した飲み物を受け取り、それを一気に飲み干してまたため息をついた。

「…会えたのは会えた」

「その割に嬉しそうじゃないじゃん」

シャチが頬杖を突きながらローに聞くと、ローの眉間に皺が寄り、ちらっと恋歌に一瞬視線が向きふい、と逸らした。

『？』

「……恋歌」

『はい』

珍しく気まずそうに恋歌の名前を呼んだローだが、その続きをなかなか話さず、全員が首を傾げる。

「…明日、一緒に島に来い」

『うん、わかった』

そんなに言いにくい言葉ではないはずだが、断る内容ではないため頷いて返事をすれば、それ以上話す事はなく手を合わせて食事に手を付け始めた。






そして翌日、留守を３人に任せ、変装をした恋歌はローと手を繋ぎながら島を歩く。

「…ここだ」

無言で道を歩き、たどり着いたのは１階が喫茶店になっている２階建ての住居。

からんからん、とローが開いた扉の鈴が音を鳴らすと、２階から足音が聞こえカウンターの後ろにある扉が開き、ひょっこりと女が顔を出した。

「あら、お客様？

まだ開店前なのよ

もう少ししたら来てくれる？」

『……』

申し訳なさそうにする女を見た瞬間、恋歌の瞳が驚きで大きく開いたが、ビン底の眼鏡をしている所為で女が気づくことはなかった。

「…あんたの旦那に昨日の客が来たと伝えてくれ」

「あら、あの人のお客様なの

そういうことならちょっと待ってて」

座って待つようにと言われ、適当にカウンターの前にある椅子に腰を下ろすと、ローが大きく息をはいた。

むすっとした顔をしているローに何か声をかけようかと思ったが、先ほどの女の事が気にかかり、ぐるりと店内を見渡す。

『(ここで…何をしてるんだろう)』

喫茶店内にはカウンターに4席、ソファ席が3席程度。

普通の喫茶店とあまり変わらない。

「お待たせしてごめんなさいね

あの人さっき起きたばかりでね

もう少ししたら降りてくるから、それまでこれでも飲んで待ってて」

しばらくして戻ってきた女はまた申し訳なさそうな顔をしながらお湯を沸かし始める。