シャチは恐怖で後ろを振り返る事はないが、ペンギンは角度的にばっちりローと視線が合ってしまっている状態。

「…何してんだ？」

『１人に、なりたくなくて…』

ペンギンに抱き着いている恋歌にローが声をかければ、首だけを動かして眉間に皺を寄せたローと視線を合わせる。

「へぇ…」

不機嫌を隠す事もせずどかっとペンギンの横に座り、なぜか４人で横一列に並んで座っている。

ひしひしと背中に感じる殺気のこもった視線に、恋歌の後ろに回していた手をゆっくりと離した。

「あ、えと…ベポは？」

「あいつは部屋で海図を描いてる」

「そ、そっか

な、何か飲むか！？

恋歌が魔法をかけてくれてる紅茶でも飲もう！」

『あ…』

「う…」

肩を押して恋歌を離したが、寂しそうな顔をしている恋歌に罪悪感がペンギンの胸を締め付けた。

だが、後ろにローがいるならと、立ち上がって恋歌の背中をローの方に押した。

「寂しいならおれのところに来ればよかったじゃねぇか」

恋歌の腰に手を回して自分の方に引き寄せたローは、まだ寂しいならなぜ一番最初に自分のところに来ないのかと、少し拗ねたように聞けば、小さく謝罪の言葉が聞こえた。

『ローは、昨日も朝も、一緒にいてくれた、けど…

みんなとは、話せてなかったって、思って…』

「…寂しさは解消されたか？」

恋歌の顔を覗き込むと微妙そうな顔をしており、頭を撫でてやれば今度はローの肩に頭を乗せてくる。

『ベポと、お話したい…』

「後で部屋に行ってやれ

ベポも喜ぶだろ」

ベポも恋歌の事が好きで心配をしていた。

寂しいと言えばずっと一緒にいてくれるだろう。

それはこの船の仲間たち全員に言えることだが、”ずっと”ということであれば、ローから許可が下りるのはベポだけ。

「ほい、どーぞ」

『ありがとう』

ことん、と目の前に置かれたカップには、恋歌が茶葉に魔法をかけた紅茶が入っている。

後の２人とローにも同じ紅茶を準備し、机の上で丸まっているシリウスにはお菓子を出してやる。

『実は…みんなに…もう一つ、お願いが、あって…』

全員で一息ついていると、恋歌がカップの縁を指でなぞりながら視線を紅茶の水面に向けたままぽつりと話しだす。

恋歌の声は小さな声でも耳に届いてしまう為、全員が恋歌に視線を向けた。

『今日だけで、いいから…みんなと、一緒に寝たい』

「「「……」」」

叶えられない願いではないが、こんなお願いをされるとは思っていなかった３人は無言で視線を交わし合う。

だが、最終的に決定するのはロー。

ペンギンとシャチはローに頷きで返した。

「…わかった

今晩だけだからな」

『い、いいの？』

「おれたちがお前の願いを叶えないわけねぇだろ

まぁ限度はあるがな」

期待を込めた視線で最終確認をしてくる恋歌に肯定の言葉を返すと、嬉しそうに笑ってぎゅっと抱き着いてきた。

『ありがとう…

今日だけ、だから…』

「別に、このぐらいなら何回でも我儘を言えばいい」

自分以外と寝たいと言われるのはどこか悔しい気持ちがあるが、この程度の事であれば対象も仲間だけなので多少は寛容になれる。

「なら魔法を使った後すぐに潜水だ

ペンギン、シャチそのつもりで準備をしておけ」

「「アイアイ、キャプテン」」