「お前はあっち」

シャチに指をさされたのは恋歌の横だったので、言われた通りにペンギンが恋歌の横に座る。

「恋歌が寂しいんだって」

「お、じゃあお兄ちゃんたちにしてほしいこと言ってみな」

『してほしい、こと…』

横に座ったペンギンも嬉しそうに笑ってくれ、嫌そうな雰囲気は一切ない。

「何でもいいぞ

あ、でもちなみに夕飯は恋歌の好物だから、それ以外で頼むな！」

「おれたちにできることなー…」

うーん、とシャチが悩みだし、ペンギンも何がしてやれるだろうかと目を閉じて腕を組んでいる。

『ペンギン…』

「何かしてほしい事見つかったか？」

しばらく無言だったが、シャチの肩から恋歌が頭を離し、ペンギンのつなぎをちょん、っと引っ張った。

『…ペンギンにも、引っ付いてもいい？』

「…へ？」

『だめなら、いいの…ごめん…』

これはダメだったかと別の事を考えようとした恋歌だったが、それが落ち込んでいるように見え、恋歌の頭上からシャチが目線でぎろりと睨みつけてくる。

「だ、だめなわけないだろ！

恋歌の好きにしていいぞ！」

『ほんと…？』

「ああ！」

言葉に驚いただけで嫌なわけではなかったペンギンは、すぐににっこり笑って何でもどんとこい、という意味で両手を大きく広げた。

『へへ…』

「…あ、えー、と」

両手を広げたペンギンの行動に抱き着いて来い、と解釈した恋歌は、ペンギンの背中に手を回してぎゅっと抱き着いた。

それに戸惑っているペンギンだったが、嬉しそうにしている恋歌を引き剥がす事も出来ず、諦めたようにペンギンも恋歌の背中に手を回した。

「なんかほんとに兄の気分」

『ペンギンと、シャチは昔から、大好きなお兄ちゃんだよ』

「恋歌の声でお兄ちゃんって言われるのもいいな」

純粋に嬉しそうな恋歌に邪な気持ちも何も生まれず、抱き着かれているペンギンも、見ているシャチも机に肘をついて微笑ましげに見ている。

「たまにはお兄ちゃん、って呼んでくれよ」

『うん』

シャチがペンギンに抱き着いてる恋歌の頭を撫でてやれば、機嫌の良さそうな返事が返ってくる。

「昨日はキャプテンに優しくしてもらったか？」

『う、うん…』

だが、今度はあまりはっきとしない返事が返ってきた。

ローが恋歌に対して冷たい態度など取るはずがないとわかっているが、２人きりの時にどんな態度なのかは知らない。

まさかとは思うが、２人きりになると態度が急変するとは考えたくない。

「いじめられたら言えよ？」

「…誰が誰をいじめてるって？」

冗談のつもりで言った言葉に、聞きなれた音の後一番聞かれてはまずい人物からの返答があり、自分の背中から感じる気配に気づけなかったシャチは笑顔のまま固まった。