そしてしばらくシリウスと話したり、ぼーっと星の図鑑を眺めたりしているとがちゃりと食堂の扉が開いた。

「あれ、恋歌ここにいたんだ」

『うん』

食堂に入ってきたのは少し顔を黒く汚したシャチ。

黒くなった手袋を取って冷蔵庫から水を取り出し、コップに移すことなく一気に飲み切った。

「ふぅ…」

水の入っていた容器をシンクに置き、恋歌の正面に腰を下ろしてもう一度息をはいた。

「ちょっと休憩ー」

『お疲れ様

手伝わなくて、ごめん』

「何言ってんだ

恋歌には恋歌にしかできない事があんだから気にすんなっていつも言ってんだろ」

『…うん、ありがとう』

甲板の掃除や見張りは順番に回ってくるが、力仕事や油で汚れてしまうような整備の仕事は恋歌がすることはない。

「んで、部屋にいないでどうしたんだよ」

いつもやる事がなければ自分の部屋にいる事の多い恋歌が、シリウスと一緒とはいえぽつんと食堂に残っている事に疑問を感じた。

『…そっちに、座ってもいい？』

「え？ああ、いいけど…」

話しやすいように正面に座ったが、立ち上がった恋歌がとことこと歩いてきて、横にちょこんと座った。

「え、っと…」

大人が４人程座れる長さの長椅子の為、２人であれば並んで座っても余裕があるはずだが、肩が触れる近さに恋歌が座ってきた。

「どうした？」

一瞬戸惑ったシャチだったが、ローではなく自分の傍に来てくれたのは純粋に嬉しいので、出来る限り優しい声で話しかけてやると、もじもじと指を動かし始めた。

『１人でいるのが、寂しくて…』

「そっか

キャプテン呼んできてやろうか？」

『ううん、シャチといたいの…』

「…おう」

昨日恋歌が捕まっていた場所も、捕まっていた時にさせられていた事もすべて知った時、恋歌の為にできることはあるだろうかと考えたが、ローが傍にいれば大丈夫だろうという安心感とは対照的に、何もできない自分に腹が立った。

だが、今求められているのは自分であるという事が嬉しく、ぽんぽんと頭を撫でてやれば、こてん、と頭を肩に乗せて体重を軽く預けてきた。

「おれさっきまで整備してたから汚いぜ？」

『汚くない』

所々油で汚くなっているのを気にして言ったが、恋歌は離れる気はないようで、さらに少し体重を乗せてきた。

『迷惑だったら、言ってね』

「そんなわけないだろ

可愛い女の子に頼られて迷惑なわけない」

にこにこと上機嫌に笑いながら恋歌の好きにさせていると、がちゃりと食堂の扉が開いた。

「お、おおぅ…びっくりした」

食堂に入ってきたのはペンギンで寄り添って座っている恋歌とシャチに驚き、扉に背中をぶつけていたがすぐにそんなわけはないと普通に入ってきて持っていた食材を机の上に置いた。

「ペンギンも呼ぶ？」

『…うん』

「え？何の話？」

食材を冷蔵庫に入れたりしていたペンギンをシャチが手招きで呼ぶと、不思議そうな顔をしながらも近寄ってきた。