引き止めたはいいがどう言えばいいのかわかっていないようで、口を開いては閉じてを何度か繰り返し、握っている手に力を入れた。

『ローは…？』

「……おれの事は気にしなくていい」

恋歌が言いたいことは、ローは欲を吐き出さなくてもいいのかということ。

自分だけしてもらった事に罪悪感があるのか、気にするなと言われても納得をしていない顔をしている。

「お前は体力を回復させることだけを考えろ

明日、魔法使うつもりなんだろ？」

『…うん』

するりと手を離せばローは恋歌の頭を一度撫でて立ち上がった。

腰に巻いたままのタオルをしっかりと巻き直し脱衣所に向かうローに、恋歌は何も声をかけることはできなかった。

『(優しすぎるのも…嫌だって思うのは、自分勝手だよね…)』

まだ濡れている髪を乾かすために、ソファにかかっていたブランケットを身体に巻いて、掌に魔方陣を発動させた。





その後ローが脱衣所から戻ってきてから、恋歌の魔法で髪を乾かし、キスで魔力供給をしてもらい、抱きしめられながら眠りについた。

ローに借りたパーカーを着ているが、洗いたての為洗剤の匂いがしローの匂いはしない。

まだ眠っているローに擦り寄るように顔を胸に押し付ければ、背中に回っている手に力が入った。

『…ごめん、起こしちゃった？』

「…いや、どうした」

顔を上げれば眉間に皺を寄せたローが、少し不機嫌そうな顔で見下ろしており、今恋歌が動いた事で起きてしまったらしい。

『ううん、なんでも、ない

そろそろ、朝ごはんの、時間だね』

「…今日ぐらい寝坊してもいいだろ」

時間を見て起き上がろうとしている恋歌の頭を抑え込んで、自分の胸に押し付けて頭の上に顎を乗せると、恋歌もぐりぐりと顔を押し付けてきた。

「気分はどうだ」

『もう平気

ローが、ずっと一緒に、いてくれたから』

「そうか」

そのまま頭を撫で続けてくれるローに甘えようと、ペンギンたちには心の中で謝った。

「今日は１日船にいろ」

『うん』

魔法を使うなら星の見える夜だとわかっている。

そんな時間まで寝る事はないと思うが、昨日まで冷たい地下牢に閉じ込められていたのであれば、今日ぐらいはふかふかのベッドで眠っていてもいいのではないかと思っているが、恋歌はそう思ってはいないだろう。

『みんなにも、会いに行きたい』

「…あとでな」

ローの腕の中にいられるのも嬉しいが、しばらく会えなかった仲間たちの事も恋しい。

渋々返事をしたローの声の後に控えめな音でこんこん、と扉がノックされる音が聞こえた。

「…はぁ」

『わたし、行く』

一応朝食の時間だと伝えに来てくれたのだろうと、恋歌がベッドから抜け出した。

「…おはよう」

『おはよう』

がちゃり、と扉を開ければ呼びに来てくれたペンギンが一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔になって挨拶をしてくる。

「朝飯どうする？」

『食べる』

「わかった

ゆっくりでいいから、着替えたらおいで」

ローのぶかぶかのパーカーを着ている恋歌の頭を撫でてやり、顔色も元に戻っている事を確認して頭を撫でてやると、ゆらりとベッドからもう一つの人影が動いた。

「キャプテンも来いよ」

「ああ」

「恋歌の着替えをベポに持ってきてもらうからしばらく待ってな」

『あ、ごめん』

ひらひらと手を振って歩いていったペンギンを見送り、ローは着替える為にベッドから抜け出してクローゼットを漁りはじめる。

「…恋歌」

『はい』

上着を着ながら恋歌の名前を呼べば、不思議そうな顔をしながら返事が返ってきた。

「お前そういう格好でおれ以外のやつに会うな」

『ご、ごめん…』

百歩譲って仲間であり、恋歌の事を心配していたペンギンだから今回は許したが、基本的には自分のパーカーを着ただけの恋歌を、他の男の目に触れたくはない。

ペンギンたちはいくら恋歌が可愛くとも今さら恋愛感情を持つようなことはないだろうが、それと肌を見られるのは別問題。

「今度から気をつけろ」

『うん…』

その後すぐにベポが恋歌の着替えを持ってきてくれ、3人で食堂へ向かった。