恋歌を抱えて自室に戻ってきたローは、そっと恋歌をベッドに下ろし、ローもその横に腰掛ける。

「体調は？」

『もう、平気』

シャチがうまく化粧をしてくれているおかげで、ローにも恋歌の正しい顔色はわからない。

桃色に色づいた頬に手を添えてやれば、いつも通りの体温が戻っている事にほっと息をはいた。

『あの…』

「ん？」

頬に添えられている手に自分の手を重ねてローと視線を合わせれば、優しい声で話しの先を急かすことなく待ってくれている。

『すぐに、出航しちゃう…？』

「……お前が気にする事じゃないって言ったよな？」

恋歌の考えも気持ちも大体予想ができていた。

やりたいことも、やろうとしていることも、何もかも。

『わかってる…』

「…体調が万全でないなら許可はしねぇ

それもわかってるな？」

『うん』

最後はちゃんと目を見て頷いたので、それならいいとローも頷いた。

「じゃあもう休め」

『うん』

軽く頭を撫でてやれば、とん、と肩に頭を乗せてきた。

「あいつらが風呂もすぐ入れるようにしてくれてるはずだ」

『うん…』

風呂には行きたいだろうと思ってそう声をかけたが、返事をした後も動こうとしない。

「どうした

疲れたならもう寝てもいいぞ？」

『…ううん、もう、元気…なん、だけど…

ちょっと…１人に、なりたくない、の…』

「……」

恋歌の言葉の裏を読み取ってしまい、どくん、と心臓が音を立てた。

「…ベポを、呼んできてやる」

その心臓の音には気づかないふりをして立ち上がろうとしたが、恋歌が肩に頭を乗せている為立ち上がる事はできなかた。

『ベポも、嬉しい、けど…

今は…ローと、離れたくない』

「……それ、意味わかってんのか？」

表情の見えない恋歌にどきどきとする心臓の音を悟られないように、平静を装いながら聞けば、少し間が空いてから頷きが返ってくる。

「わかった

おれの部屋のシャワーでいいか？」

また頷きが返ってきたことを確認し、頭をぽん、と撫でてやると肩から頭が離れ、準備をするためにローがベッドから立ち上がる。

「着替えはおれのを貸してやる

タオルはこれを使え」

『ありがとう』

クローゼットから出したものを恋歌に渡しながら、頭の中ではこの状況をどう切り抜けようかと必死に考えている。

「(恋歌と一緒に風呂…

何を試されてるんだおれは…)」

弱っている恋歌のためにできる事はしたいとは思っているが、こんなことを頼まれるとは思っていなかった。

「…行くぞ」

『…うん』

自分の分の着替えやタオルを持ち、まだベッドに座っている恋歌を促すと、ぎゅっと渡されたものを胸に抱いて立ち上がり、ローに続いて脱衣所に入った。