その温かさに現実だとわかったのか、またぼろぼろと涙があふれ出てきた。

『ローっ、わ、たしっ…！

またっ…捕まって…、ごめ、んなさ…

迷惑かけて…！』

「いい、気にするな

無事でよかった」

助けに来てくれると信じていたが、いつも迷惑をかけてしまっている事に対して、泣いている恋歌に気にする必要はないと背中を擦ってやる。

『でも…わたしの所為で…人が、死ん…じゃって…！

わたしが、魔法を…使わない、って、言ったから…』

どういう経緯でそんなことになったのかはわからないが、恋歌の所為ではないことはわかる。

「恋歌の魔法は恋歌の為のモノだ

お前は悪くねぇよ」

『でも、でも…』

「恋歌

おれの言葉が信じられねぇか？」

『……しん、じてる…けど…』

ローの言葉は信じているが、自分が魔法を使う事を拒否した直後に関係のない人間の首が目の前に転がってきた光景は簡単には忘れられそうにない。

『でも…』

「…恋歌は捕まっていた女たちを全員助け出す方法を考えた

おれたちにちゃんと助けを求めた…それが最善だと信じて…

恋歌の魔法と、知恵で救い出せた命がある事も忘れるな」

自分自身の命が危ない時で、恐怖に心が支配されそうになっていても、海に出た理由である”人を助ける”という志を曲げることなく、捕らわれていた少女たちが助かるように動けた恋歌の事を誇りに思っている。

己が愛した女は極限状態でも人の事を考えられる優しく強い人だと。

また涙を流し始めた恋歌は、泣き顔を隠すようにローの胸に顔を埋めた。

「怖かったな

もう大丈夫だ」

何度目になるかわからない”大丈夫”という言葉だったが、やっとその言葉に頷いた恋歌の身体から力が抜けていき、他音が戻っていくのを感じて、恋歌を抱き締める力を強めた。





恋歌の泣き声が聞こえなくなり、規則正しい息遣いに変わってから数十分後、静かな室内でなければ聞こえない程度の音で、一度だけ扉の叩く音が聞こえた。

その後にゆっくりと扉が開かれ、戻ってきた３人がひょこっと顔を出した。

「ね、寝てる？」

「いや…」

とことことベポがベッドの傍に駆け寄って声をかけると、ローから返事が返ってきた。

ローから返事が返ってきたことで、シャチとペンギンもそっと室内に足を踏み入れ、ローに抱き着いて眠っている恋歌を見て、ほっと息をはいた。

「よかった…

ちゃんと眠れてるんだな」

「ああ…」

ペンギンが紙の束を持っている事に気づいて、ローが身体を起こそうと腕に力を入れた。

『…どこ、行くの？』

だが、ローのわずかな動きで目を覚ましてしまった恋歌が、ローの服を離さず不安そうに揺れる瞳を向けてくる。

「お前の身体に入れられた薬について調べる

副作用がないとも限らねぇからな」

泣いた事で少し腫れている目の近くを指で撫でてやると恋歌がその手を握った。

「全員近くにいる

だからもう安心していい」

その言葉に周りに仲間たちがいることに気づいて、むくりと身体を起こした。

「もう平気？」

『うん…ありがとう』

ベポがふわふわの手で頬を撫でてくれ、その手に安心したように笑う恋歌を見て、ローも身体を起こしてベッドから抜け出した。

「ペンギン、シャチ結果を報告しろ

ベポ、お前は恋歌を着替えさせて来い」

ローの指示に従ってペンギンとシャチは持っていた紙の束と、ポケットから何かの薬品を取り出してローに渡した。

「恋歌、おれたちは部屋に行こう」

『うん…』

ベポに手を引かれてベッドから立ち上がった恋歌は、にっこり笑って手を振ってくれるペンギンとシャチ、そして出ていくのをじっと見つめてくれるローに見送られ、着替える為にローの部屋から出た。