恋歌がベポに温めてもらっている間に、ローの能力内で何かをしているらしく、ペンギンとシャチも助手として手伝いをしている。

「何して…あ、恋歌…」

ベポが腕の中にいる恋歌に声をかけようとしたが、目を閉じて規則正しく息をしている事に気づき、咄嗟に口を閉じて近くにいるシリウスに視線を向けた。

「今回はかなり大がかりな魔法を使ったからな

魔力不足ってよりかは疲れたんだろ

ここも、気分がいい場所ではないしな」

「そう、だよね」

魔力不足であればローに声をかけようと思ったが、シリウスの言葉の通りいつもの魔力不足の症状は出ておらず、縋っているかのようにつなぎを強く握りしめたまま眠っている。

「怖かったんだよな、きっと」

死体だらけで死臭や血の臭いが充満するこの場所に仲間から離れて１人でいるなど、どれほど心細かっただろう。

ベポは恋歌を起こさないようにとことこと歩いてローの背中をつついた。

「ねぇねぇキャプテン、もう帰ろう」

「あれ、恋歌寝ちまったのか」

「ほんとだ」

ちょうど憂さ晴らしも終わったのか、鬼哭を鞘に納めたローはベポの腕の中で眠っている恋歌の頭を撫でてやる。

「そうだな…

船に戻るぞ」

「「「アイアイ、キャプテン」」」

恋歌を起こさないように小声で返事をした３人は、先を歩くローの背中を追いかけて、ばらばらにされた女王の事を振り返ることなく城から脱出した。






城から出ると捕らえられていた少女たちが家族との再会を喜んでおり、ローたちに取引を持ちかけてきた男も娘を見つけたのか一人の少女と抱き合いながら涙を流している。

「あ、あんたたち！！」

男が何も告げずに立ち去ろうとしているローたちを見つけて声をかけると、足を止めて男を振り返った。

「娘さん無事だったんだな」

「よかったじゃん」

一緒に駆け寄ってきたどこか男に目元が似ている少女は、女騎士に捕らわれていた少女。

ペンギンとシャチに笑顔でよかったなと言われ、海賊らしくない言葉に目を見開いたが、自然に口元に笑みが浮かんだ。

「あんたたちのおかげだ

礼を言う」

「おれたちは自分の仲間を取り返しただけだ

礼を言われる筋合いはねぇ」

「あ、あの…！恋歌は…無事、なの…？」

さっさと立ち去ろうとしたが、少女、フィーリが口にした恋歌の名前に、ローがぴくりと反応した。

「えっと…恋歌は最初、声を出せないように…薬を打たれてて…

血も…たくさん抜かれたみたいで…

さっきも…魔法？を…」

フィーリの言葉にベポに抱えられている恋歌を見下ろし、腕をとると小さな針が刺さった痕が複数ある事に気づいた。

「ペンギン、シャチ」

「「アイアイ、キャプテン」」

ローに名前を呼ばれた２人は、やるべきことはわかっているらしく、出て来たばかりの城の中に戻っていった。

「ベポ、おれたちは船に戻るぞ」

「アイアイ」

「…お前たちの中で体調に異変がある奴がいれば船まで来い」

「え、あ、うん…」

それだけを告げて足早に海の方角へ向かって行った２つの背中を見送り、恋歌が無事であるようにと手を組んで星に祈った。