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美しい女

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その頃、攫われた恋歌は目の前すら見えないような暗闇の中で、両手を後ろ手にロープで縛られて硬い床に転がされていた。

『(ここ、どこだろう…)』

意識を失う前に何かの薬を打たれ、身体の自由がきかない。

頭痛と倦怠感に何もする気が起きないが、ごろん、と石の感触がする床を少し転がり、近くにあった壁を使って上半身を起こす。

『(みんな心配してるだろうな…)』

意識を失ってからどれぐらいの時間が経ったかはわからないが、優しい仲間たちが戻らない自分を心配してくれているだろうという予想は容易にできる。

『(それになんだろう…

ここは嫌な魔力が充満してる…)』

身体に纏わりついてくるような不快な魔力が周りに満ちており、それだけで気分が悪くなりそう。

先ずは縄を切ろうとシリウスを呼び出すために口を開けば、ある事に気づいて眉間に皺を寄せる。

『(声が出ない…これ、意図的に出せなくされてる…)』

喉から出てきたのは乾いた空気で、普通の言葉すらも話せない。

これではシリウスを呼び出す事はできないと、仕方なく声を出さなくとも使える収納魔法を使おうとしたが、それすらも発動せずぐるりとあたりを見渡してため息をついた。

『(この気持ちの悪い魔力の所為か…

何の魔法かわからないけど、妨害…かな

声が出れば星の魔法は使えそうだけど、まだ使い慣れてない他の魔法は無理そうだね)』

思ったより冷静に状況を分析できていることに内心驚いていたが、海賊として、名医トラファルガー・ローのクルーとして、この程度で狼狽えるわけにはいかないと、壁に体重を預けながらずりずりと立ち上がった。

『(服も違うものになってる…)』

気になる事が多すぎたため気づかなかったが、いつもの服とは違う生地の感触と違和感にまた眉間に皺が寄った。

『(これは…ワンピースか…)』

いつも着ている服より上質な生地の半袖のノースリーブワンピースを着せられているようだが少し肌寒い。

今は気にしても仕方ないかと壁伝いにゆっくりと歩いていく。

『(空気の感じからしてこの部屋はそんなに広くない

出口がどこにあるかだけでも探さないと)』

壁伝いに歩けばいつかは扉のある場所にぶつかるだろうと、転ばないようにゆっくりと歩くと、肩に当たる感触が石から木に変わった。

『(木の扉か…

魔法無しのわたしの力じゃ蹴破る事はできない…)』

一度試しに蹴り飛ばして見ようかと思ったが、魔法と両手が使えない状況で誰かが来ても倒せないと、音を出す事はやめた。

『(でも…黙って助けを待つなんてこと…できないよね)』

なにか牢の中にないかと扉から離れようとすると、がちゃがちゃと鍵が開く音がして、ばんっと勢いよく扉が開かれた。

扉から入ってきた僅かな光のおかげで、自分が着せられているワンピースの色が白であることがわかる。

「…目が覚めていたか」

扉を開けると目の前に立っている恋歌を見て、扉を開けた武装した女騎士は驚いたように目を見開いた。

「…なるほど、あの方が直々に呼ばれるだけのことはある

出ろ、王女様がお呼びだ」

『(王女様…?)』

品定めをするかのように頭から足先まで視線を滑らせた後、恋歌と視線を合わせ後手に縛られた腕を引いて牢から出した。

『(こ、この臭い…)』

だが、牢から出た瞬間吐き気がするほどの鉄の匂いに思わず足がすくんでしまい、足が動かなくなった。

「おい、止まるな」

『っ…!!』

ぐいっと腕を引かれて無理やり動かされたが、恋歌より背丈の高い屈強そうな女騎士のおかげで転ぶことはなく、ずるずると引きずられるように石で作られた廊下を進んでいく。

『(ここは…いったい…)』

恋歌が入れられていた牢とは違い、廊下の左右には柵の中に恋歌と同じようなワンピースを着せられた少女たちが薄汚れた状態で入れられていた。

だが、見たところ大怪我をしているような子はおらず、こんなに血の臭いが充満するとは思えなかった。

「今からお会いするのはこの国の女王様だ

粗相のない様に」

しばらく歩いて階段を昇りきると、ひときわ大きな扉の目の前で立ち止まり、女騎士が扉をノックする。

『(この中から嫌な魔力の気配がする…)』

「王女様、ご所望の少女を連れてまいりました」

「入りなさい」

中からぴりっと威圧感のある声が聞こえ、女騎士がゆっくりと扉を開けた。
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