3人は人気のない場所に腰掛け、恋歌とベポは男が話し始めるのを待つ。

しばらく沈黙が流れた後、ちらりと男が恋歌をじっと見つめた後口を開いた。

「…お嬢さんはこの島の女王が卸している商品を使ったかい？」

その男の質問に恋歌が首を横に振ると、男がどこかほっとしたように息をはいた。

「使ってないなら使わない方がいい」

≪どうして？≫

「なんで使っちゃだめなんだ？」

「…あんたら海賊、だよな」

恋歌の質問を翻訳したベポの質問には答えず、男はベポのつなぎの海賊旗をじっと見つめる。

「…だったらなんだよ」

「頼みがある！」

『！！』

海賊であると肯定すれば、男ががばっと恋歌の足元に土下座をした。

それに驚いて目をぱちくりとしたままベポと視線を合わせる。

「おれの娘を…！

助けてくれ！！」

そしてさらに男が発した言葉の意味がわからず、2人で首を傾げるのだった。





一先ず男の顔を上げさせ、元の位置に座らせてから、”娘を助けて欲しい”という言葉の詳しい事情を聞いた。

「ふーん、つまりこの島は定期的に若い女の子がいなくなるけど、それは庶民ばかりだから真剣に取り合ってくれないってことだね」

「そうだ

この島の自警団は身分の高い者の為にあって、おれたちのような庶民の為にはなかなか動いてくれない」

「でもそれはおれたちには何の関係もないよ」

「……わかってる」

ベポは普段は優しいが、こういう時はきっぱりと断る。

恋歌が危険かもしれない内容であれば尚更。

「それでも…！

諦める事は…できない…！」

『(美容品が有名な島で定期的に女の子が消える…

たしかに可哀想だし助けられるなら助けてはあげたいけど…)』

ぎゅっと拳を握りしめて悔しそうな声を絞り出している男は可哀想ではあるが、おそらくローが許可をしない。

「おれたちは海賊なんだ

見ず知らずのあんたの娘を探すのを協力する意味はないよ」

”行こう”とベポに手を引かれて、項垂れている男を放置して路地裏から出て行った。






路地裏から出た後はいつもの優しいベポに戻り、恋歌の買い物に付き合ってくれた。

「じゃあそろそろ帰る？」

欲しいものを全て購入し終えた後、ぶらぶらと街を歩いて夕飯の少し前の時間になったので、船に戻ろうというベポの言葉に頷いて、港に向かって足を進める。

だが、とことこと普通に歩いていると、後ろからぴぃー！！という笛の音が聞こえ、足を止めて振り返ると警察の制服を着た男たちがこちらに向かってくるのが見えた。

「見つけたぞ！！海賊だ！！」

「え！？おれたち！？

に、逃げよう！！」

まさか自分たちが追われているとは思わず、驚いたベポは恋歌の手を引いて走り出す。

「撒いてから帰ろう！」

このまま船まで戻れば他の3人も巻き込んでしまう。

ベポの言葉に頷き恋歌もベポの手に引かれるままに足を動かして走り出す。

『(どうして急に…？

昨日は何もなかったのに…)』

昨日もベポと同じつなぎを着たシャチと一緒にいた上に、賞金首で船長であるローも一緒にいた。

それでも自警団に追われることはなかったのにと、疑問に思いながら自警団を撒こうと人気の少ない路地裏を走っているが、地の利は自警団の方にありうまく全員を撒くことができない。

「恋歌！

一回二手に分かれてから後で合流しよう！

キャプテンもこの島にいるはずだから、恋歌はキャプテンと合流して！」

ベポと繋いでいた手をぱっと離して、お互いに反対方向に足を向けて走り始めた。

「！！

二手に分かれたぞ！！こちらも二手に分かれて追え！！」

自警団も二手に分かれ、恋歌とベポを追いかけた。