ローの部屋から出た後、慌てて準備をした恋歌は、ペンギンに謝りながら軽く朝食を食べ、変装をしてからベポの部屋に迎えに行くと、笑顔で行こうと手を差し出してくれた。

「あんまり遅くなるなよ」

『うん』

「夕飯までには帰ってくるよ」

甲板にいたシャチがひらひらと手を振って見送ってくれ、恋歌、ベポ、シリウスで島に上陸するのを、背中が見えなくなるまで見送った。

「あいつらはもう行ったのか？」

「ああ」

ぼーっと島の方を見ていると、ペンギンとローも甲板に出て来た。

「留守は頼んだ」

「「アイアイ、キャプテン」」

ローもひらっと甲板から飛び降りて、すたすたと島に入って行った。

「…思ったんだけどさ」

ローの背中も見えなくなるまで見送り、ぽつりとシャチがペンギンに話しかける。

「…キャプテン、なんかすっきりした顔してたな」

昨日は寝不足の所為で整った顔が極悪人の顔になっていたが、今日は隈こそ消えていないがどこか機嫌が良さそうに見えた。

「…なんかあったんだろ、昨日の夜」

「…朝恋歌が起きれないような？」

「「……」」






「わぁー、きらきらして綺麗だね！」

「この島はいろんな匂いが混じってて気持ち悪い…」

ベポと2人で手を繋ぎながら街を歩いていると、初めて上陸したベポは店先に並ぶ美容品がきらきらとしている事に目を輝かせ、シリウスは恋歌の肩の上で鼻を押さえながら唸っている。

大きな白クマが喋りながら歩いているという事に、ちらちらと視線が向けられるが、珍しさで見られているだけのようで、そんな視線に慣れているベポは気にせずにとことこと歩いている。

「きついなら恋歌の魔法の空間に入ってた方がいいんじゃないか？」

心配そうにシリウスの頭をぽん、と撫でるベポの言葉に頷いたシリウスは、恋歌に懇願するように視線を向けた。

それに今度は恋歌が頷き、ベポの手を引いて人気のない方へ連れて行く。

「何かあれば呼んでくれ…」

元気のないシリウスの頭を撫でてやり、魔法の空間に送り込む。

「じゃあ恋歌の買い物……

誰だ」

『？？』

にこにことしていたベポがすっ、と真顔になり、恋歌の手を引いて自分の背に隠した。

「…今さら隠れたってだめだよ」

ベポが硬い声で真っ暗な路地裏に声をかけるとかたん、と小さな音を立てて、顔を薄汚れたローブで隠した男が現れた。

「なにか用？」

「…昨日の目つきの悪い男もわかっていたようだが、そのお嬢さんには優秀なボディガードが多いようだ」

ローブを取って顔を見せた男の顔は痩せこけ、髭や髪が伸びきっており、表情が読み取れない。

「昨日も見てたって事？

恋歌に手出すなら、おれたち全員黙ってないよ」

『(ベポ…)』

今にも男に襲いかかりそうなベポの手を引くが、警戒している男から視線を逸らす事はしない。

「いや、そのお嬢さんに聞きたいことがあるだけだ」

「…聞きたいこと？」

その雰囲気に男の言葉に嘘はないとわかったのか、ちらっとベポが恋歌を見ると、恋歌と視線が合って頷かれた。

「話ぐらいならいいよ

その変わり恋歌は喋れないからおれが通訳する

それでもいい？」

「ああ、それでいい」

ベポの言葉に男が頷き、適当な場所に腰掛けた男に倣い、恋歌とベポも適当な場所に並んで腰掛けた。