「なんだ結局何も買わずに帰ってきたのか」

船に戻ってペンギンに食糧を渡して、島はどうだったかと聞かれたが、楽しかったような雰囲気ではない事に気づいて、心配そうにシャチに視線を向ければ頬杖をついてうーん、と唸りはじめる。

「島の人たちを見てたら確かに効果はあるんだろうなって感じだったし、美人ばっかりだったけど…

なんかこう…商品にしては違和感があったんだよ」

「ふーん…」

「買ってもよかったんだけどな

恋歌に使ってもらったり、おれたちが使うってなったらちゃんとしたもの買いたいじゃん？」

「そうだな」

期待していただけに納得できていないのか、机に突っ伏して唸り始めた。

『シャチ、わたし、明日もう一度、行ってもいい？』

「へ？

なにか欲しいものでもあったか？」

『うん、ちょっとね』

「着いていこうか？」

『…ううん、一人で行く』

「あー…うん、そっか」

なにか欲しいものを欲しいと言えなかったのだろうかと首を傾げれば、言いにくそうに顔を少し赤くしてから首を横に振ったので、察したシャチはそれ以上聞くことはできなかった。

『ごめん、ありがとう』

「いや…キャプテンかベポに着いてきてもらえよ」

『…そう、だね』

なぜか嫌な予感がしたシャチは、恋歌を1人で島に行かせるのは不安だと、誰かに着いてきてもらうように助言するが、恋歌の返事はしっかりしたものではなかった。

「心配なんだ

それだけは約束してくれ」

『うん、わかった』

恋歌が強い事も、簡単に負けることもないのもわかっているが、心配なものは心配であると伝えれば、今度は笑って頷いてくれた。

「恋歌、そろそろ夕飯できるからキャプテン呼んできてくれ」

『うん』

ふよふよと飛びながら食堂を出て行った恋歌の背中を見送り、ペンギンがまだ難しい顔をしているシャチに視線を向ける。

「なんか気になる事あんの？」

「…たぶんだけど、キャプテンが変な視線に気づいたんだよ

おれは気づかなくて目配せされただけだったけど…

あの様子だとまた女の子の買い物がしたいんだと思うから着いていけないけど、できるならキャプテンかベポに着いてもらってる方が安心する」

「なるほどな…」

それなら用心に越したことはないかと思うが、その視線に恋歌が気づいていないとなれば、警戒心は薄れているだろう。

今回の上陸は最初から最後まで変装を解いていないし、声も一言も発しなかった。

恋歌の事を魔女と気づいたとか、恋歌の可愛さや美貌で狙われたわけではなさそうではあるが、ずっと嫌な予感が消えない。

「あれ？恋歌とキャプテンは？」

しばらくしてベポが頭にシリウスを乗せたまま食堂に入ってきた。

「恋歌がキャプテンを呼びに行ってくれてる」

「そっか」

がたん、とベポが自分の席に着くと、ちょうど恋歌とローが食堂に入ってきた。

ローは無言で自分の席に着き、食事の準備を恋歌が手伝って、いつも通りの夕食。

食事が終わればいつものティータイム。

一息ついた後に、恋歌がくいっと横のベポの服を引いた。

『明日、一緒に、島に来てくれる？』

「え？別にいいけど、おれ？」

ローでなくていいのかと確認すれば、恋歌から頷きが返ってきてぱぁっと顔を輝かせた。

「2人で行っていいの！？」

「ああ、くれぐれも気を付けて行けよ」

「やったぁ！！

恋歌と2人は初めてだ！

楽しみ！！」

ローにも確認をとるとあっさりと許可され、嬉しさのあまり恋歌に抱き着く。

そのまま鼻歌でも歌いだしそうなほど機嫌の良いベポが明日に備えてお風呂に行こうと誘うので、いつもより早目ではあるが恋歌、ベポ、シリウスは食堂から出て行った。