最初に必要な物の買い出しを済ませ、恋歌の収納魔法の中に荷物を入れ、買い出し中に目星をつけていた店に順番に回ろうと、人気のない場所から賑やかな場所に戻ろうとした。

「……」

「？

キャプテン、どうかした？」

「…いや」

なにかにぴくりと反応したローは、ぐるりとまわりを見渡して小さく首を振る。

「(なにか…嫌な気配を感じたが…)」

『？』

一瞬で消えた気配にちらりと恋歌を見下ろせば、その気配に気づかなかったのか首を傾げているだけ。

「(恋歌に向けられた視線か、ただの賞金稼ぎか…)」

まだまだ少額とはいえ恋歌も賞金首であり、ローも一船の船長。

「(何かいるってことか…)」

その嫌な予感がただの賞金稼ぎか海軍であればいいなとは思ったが、確証のない気配で不安にさせる事もないかと、行こうと恋歌の手を引いてシャチには目線で合図をした。






「なぁなぁこれ見てみろよ！」

店先に並んでいる商品を手に取り、横にいる恋歌の目の前にずいっと差し出せば、それを受け取って渡された商品がなんなのかとを見つめる。

「20歳肌が若返る美容液だってさ

こっちは肌が白くなる化粧水、こっちは髪が若返るヘアオイル…」

嘘のような謳い文句の商品を次々に手を取って順番に見ていくが、気になる事があり恋歌がシャチの服をくいっと引く。

ちなみにローは邪魔をしない様に恋歌の後ろに静かに立っている。

≪これ、成分表とかついてないんだね≫

「たしかにな

でも何入ってるかわかんないのはちょっと怖いか…」

医療の事を勉強している時に成分についても知る機会があり、美容関係に興味のあるシャチは、美容に使われることが多い成分に詳しい。

恋歌に勧めるものも成分をしっかりと確認してから勧めてくれる。

「成分はわかんないけど、騙されたと思って一度使ってみな！

そいつを使って苦情がきたことなんか一度もない」

店先でうーん、と悩んでいたシャチに店主である男が自信満々に声をかけてきた。

「でもさ、人には合う合わないってあるじゃん？

成分がわからない物を使わせるのはどうもなー」

顎に手を当てて悩んでいるシャチは、薄いピンクの液体が入ったビンを空にかざす。

「ここに並んでいる商品は女王様が選んで実際に使われた物ばかり

実際この島の女たちは肌がきれいだろ？」

「まぁ…それはたしかに…」

男の言うとおりこの島の女性たちは肌が綺麗で髪も艶々。

それがここに並んでいる商品の説明と言われれば、信用性は上がる。

「どう思う？」

横でじっと商品を見ている恋歌に声をかける。

≪どうしてピンクの液体が多いんだろうね≫

「あー、たしかにな」

店先に並んでいるものは赤からピンク色の液体が多く、成分はわからないがなにかこの色に染まる成分が使われているのだろうか純粋に疑問に思った。

「これってこういう色のが多いのか？」

「ああ、若い女性にも受けるようにだろうな」

「…ふーん」

たしかに赤やピンクであれば若い女性に受けるだろうが、もう少しバリエーションがあってもいいような気もする。

「こっちのはなんだ」

暇そうにしていたローが端にあった何かを手に取り、店主に見せるとなぜか目を細めて”ああ…”と小さく声を出した。

「それは輸入品だ

元々うちはそこの商品を仕入れてたんだけど、女王様が卸してくれる商品の方が格安で評判がいいんだよな」

「……」

「付き合いがあるから仕入れてるが、売り上げは全然だ」

一見普通のボトルの裏側を見て、ぽいっとシャチにそれを投げた。

「それ買っとけ」

「あ、うん」

手元に放られたのはボディーソープ。

裏にはきちんと成分表が記載されており、店先に並んでいる美容液には目もくれず、隅に追いやられている他の商品を真剣に見ている。

「恋歌はどうする？」

≪ちょっと考える≫

「そうだな」

目の前に並んでいるきらきらとした美容品には興味はあるが、どこかすっきりとしない為すぐに出航するわけではないので、少し考えようとローが選んだものだけを買って船に戻った。