話をしてから数日後、島に到着したハートの海賊団は、他に海賊船が無い事を確認した後、ペンギンとベポが留守番を買って出てくれた。

シリウスも着いていかずやりたいことがあると船に残るらしい。

『いいの…？』

「ああ、好きな物見てきな」

申し訳なさそうな顔をする恋歌の頭を撫でてやり、気にするなと言えば”ありがとう”と笑う。

「買い物はおれたちに任せてくれ」

「おう、じゃあこれ渡しとくな」

ペンギンからお金と買い出しのリストを渡され、シャチがそれを懐に入れた。

「キャプテンは？」

「もうそろそろ来るだろ」

恋歌が上陸するのであれば絶対に着いてくるだろうと予想はしていたが、部屋からまだ出てきていない。

「恋歌、準備できたならキャプテン呼んできてくれないか」

変装を終えた恋歌はベポとお喋りをしており、声をかけると頷いて浮いたまま船長室に向かった。

最初こそ恋歌の足音が聞こえない事に慣れず、艦内で何度もぶつかりそうになったが、今は少し慣れた。

それでもぶつかってしまったとしても衝撃は小さく、ラッキーぐらいにしか思っていない。

魔法の練習とはいえ、風呂上りに髪を乾かしてくれるようになったのも毎日の楽しみの一つ。

「見た感じ平和そうな島だし、キャプテンも一緒だから大丈夫だと思うけど気をつけろよ」

「わかってる」

港から見える島は賑わっており争い事とは無縁そうな雰囲気。

ローがついてきてくれるのであれば大丈夫だろうとは思っているが、思いもよらない事でローが不機嫌になってしまう可能性もある。

「まぁキャプテンが恋歌から離れる事はないと思うから、変装もしてるしナンパとかは大丈夫だろ」

「だな

あ、戻ってきた」

しばらくして眉間に皺を寄せたローを連れて戻ってきた恋歌は、心配そうにローの顔を覗き込んでいる。

『寝てなくて、いいの？』

「ああ、大したことねぇ」

日に日に隈が濃くなっていくローに寝て欲しいと何度も伝えているが、寝不足の原因の一端は恋歌。

ロー自身は寝不足状態に慣れているようでさっさと行くぞと船を先に降りて行ってしまう。

恋歌もそれに続いて船から降り、足を地面につけて陸からシャチを見つめる。

「んじゃ行ってくるわ」

「おう」

「気を付けてね」

恋歌に服の裾を掴まれて立ち止まっているローの機嫌が悪くなる前に、シャチも船から飛び降りた。






ローと手を繋いだ恋歌は、きょろきょろと忙しなく視線を動かしている。

女王が美容に力を入れているという噂通り、町にも見た事のない美容品が並び、心なしか空気もいい匂いがするような気がする。

それに恋歌はわくわくとした雰囲気が出ており、それを見ているローの表情もいつもより穏やかだ。

「必要な物を先に揃えたらうろうろしてきていいってさ

一緒にいろいろ見て帰ろうな」

厚いビン底の眼鏡の所為で恋歌の綺麗な瞳は見えないが、何度も頷く恋歌の瞳にはきらきらとした光が宿っているのだろうと想像できる。

その表情をローも想像できるのだろうが、それを引き出せたのが自分ではない事に少し不機嫌そうな顔をしている。

「じゃあまずは買い出しだ」

にかっと笑ったシャチに頷いて、むすっとしているローの手を恋歌が引き、町の雑踏に足を踏み入れた。