『(わ、渡せた…！)』

ローの部屋から出た瞬間に急に心臓がどくどくと鳴りはじめ、緊張が急にぶり返してきた。

「おわっ、びっくりした」

いつもより慌ただしく食堂に入ってきた恋歌に、まだ雑談をしていた3人は驚いたように少し息を切らしている恋歌に視線を向けた。

「？

どうしたの？」

ぼふっと音を立てて勢いよくベポに抱き着くとしっかりと抱きしめ返してくれる。

「ちゃんと受け取ってもらえたか？」

食堂に入ってきた時、嬉しそうな表情をしていたのを見逃さなかった。

ベポに埋もれたまま頷いた恋歌に、にかっと笑ったペンギンとシャチは、ぐりぐりと恋歌の頭を撫でてやる。

「よかったな！」

「喜んでくれたろ？」

『うん…た、ぶん…』

「大丈夫、キャプテンは優しいだろ？」

『うん』

「そういえば恋歌はキャプテンに好きって言ったのか？」

「「！！」」

『まだ、だけど…』

ベポが何の悪気もなく気になった事を口にすれば、恋歌がベポの腕の中で顔を赤くする。

『今日の夜、ちゃんと言う…』

「「ま、まじか！！

いっっってぇえええ！！」」

恋歌の言葉に勢いよく立ち上がったペンギンとシャチは、なぜか狼狽えており机に脚をぶつけて痛がっている。

「頑張ってね」

『うん、ありがとう』

床に転がっているペンギンとシャチを無視して、ベポがふわふわの手で頭を撫でながら応援してくれるので、もう一度ベポの胸に顔を埋めてしっかりと頷いた。





その後はベポがローの部屋に行き、ペンギンとシャチはふらつきながら持ち場に戻っていった。

恋歌は倉庫の整理や、晩御飯の下ごしらえをし、空いた時間は本を読んでいるとあっという間に1日が終わる。

夕食後、いつも通りベポと一緒にお風呂に入っていると、この後ローの部屋に行って気持ちを伝えると思うと、今から緊張し始めてどきどきと心臓が鳴りはじめる。

「恋歌、逆上せるぞ」

『あ、う、うん』

ぽやっとしたまま湯船に浸かっていると、桶に入ったシリウスが声をかけてきた。

「キャプテンのとこ行くの、緊張してる？」

『うん…』

膝を抱えて近くにいるシリウスの頭を指で撫でると、シリウスは気持ちよさそうに目を閉じる。

「大丈夫だって！

ピアスだってあんなに嬉しそうにつけてたし！！」

ローは昼食の時も夕食の時も、今日恋歌が渡したピアスをずっとつけていた。

明らかに機嫌の良さそうな雰囲気を纏っていたが、なんとなく話題にすることはしなかった。

「恋歌なら大丈夫だ

不安ならこの間香水臭い女から貰った本でも読み返してから行け」

『ミーシャに、貰った本？』

「ああ、あれに書いてることはあながち間違いじゃなかったからな」

『…わかった』

「(あの娼館の女の人に貰った本…？)」

ミーシャに貰った本の内容は”女”を武器に戦う方法が書かれているが、それは処世術でありローに使う必要はないもの。

誰よりも長く生きているシリウスは、世界一美しいと思っている星の魔女がそんなことをする必要はないとわかっているが、単なる嫌がらせで素直な恋歌に助言をした。

「(恋歌をここまで惑わせたんだ

これぐらいの嫌がらせ許されるはずだ)」

大事な相棒をはっきりといない態度で惑わした事を許していないシリウスからの嫌がらせ。

『ありがとう

じゃあ、頑張ってみる』

「…ああ」

そうとは知らない恋歌が襲われる可能性があるが、恋歌が嫌がる事をする人間ではないという程度にはローの事を信頼している。

最後に軽く頬をぺちぺちと叩いて立ち上がった恋歌に抱えられ湯船からでた。