３人で比較的人の少ない場所で水に足をつけると、ベポは我先にとばしゃばしゃと深いところまで行ってしまった。

「そういえばお前…泳げるのか？」

『わからない…』

軽く海に足をつけたりしたことはあるが、泳ぐのは今回が初めてなため泳げるかどうかもわからない。

ローは能力者の為あまり水に浸かってしまえば、海に入っているのと同じように力が抜けてしまう。

「まぁ、ベポもいるし大丈夫だろ

行くぞ」

ずぽ、と持っていた浮き輪を恋歌の身体に通し、手を引いてゆっくりと水の中に入っていく。

「キャプテン、大丈夫？」

「ああ…」

身体が半分ほど水に浸かったところで、ぐでっと力が抜けたように恋歌の浮き輪に体重を預けてくる。

『これ、ローが使う？』

「いやいい…」

浮き輪を使うかと聞けば、いつもよりも覇気のない声でいらないと返された。

「あ！そうだ！

キャプテン、ちょっと待ってて！」

なにかを思い出したようにざぶざぶとプールから上がってどこかに行ってしまったベポを見送り、その場所から動かないようにじっと待つ事にした。

「(だっせぇな…)」

能力者である為仕方がない事ではあるが、こんな時にも力がでないなんて少しだけ情けなくなった。

「あ、おい

あの子めちゃくちゃ可愛い…ひっ…！」

ベポの姿を探している恋歌を見て、近くを通りかかった男が近寄ってこようとしたが、ぎろっと睨みつけて追い払う。

『ロー、今だけでも、浅い所に、行こう』

「ああ」

元気のないローを見て、浅い所に戻れば、いつも通り自分の力でしっかりと立つ。

「悪いな」

『？

どうして？』

一緒に楽しんでやれない事に無意識に謝罪の言葉を口にしたが、なぜ謝られているのかわからない恋歌は首を傾げる。

その姿に恋歌はこの程度でがっかりしたりするタイプではなかったと、”なんでもない”と返した。

『わたしは、みんなと…ローと、一緒にいられるだけで、幸せだよ』

「…そうか」

手を握って笑いかけてくる恋歌に、口元が緩んだローはむき出しの恋歌の肩を引き寄せた。

「水着、似合ってる」

『…ありがとう』

照れくさそうに笑う恋歌にまた無意識に顔を寄せると、恋歌は驚いたようにぎゅっと目を閉じたが、唇は触れ合うことなくローの顔の気配は離れていった。

「…悪い」

『う、ううん…』

人気が少ない場所にいるとはいえ、こんな場所ですることではないと思い直したのだが、とん、と頭を自分の方に預けてくる恋歌に、キスをしなかったことを少し後悔し始めたが、後ろから聞きなれた足音が聞こえてきた。

「２人ともお待たせ！」

「ベポ…それは…」

「これならキャプテンは水に入らなくていいよ」

ベポが持ってきたのは、イルカの形を模した浮き輪。

たしかにそれに乗れば足以外は水に入らなくて済むだろうが、人より背の高いローが子どもが乗るようなそれに乗るわけもない。

『これ、可愛いね』

「だろ！？」

「お、おい」

ローの嫌そうな顔に気づいていない２人は、イルカの浮き輪を見て、楽しそうにしている。

「はぁ…」