首を傾げている恋歌にミーシャがある本を渡す。

なんだろうと表紙を開けば、ますます意味がわからなくなった。

『なに、これ』

「恋歌は好きな人いる？」

『え…？』

質問に答えてくれないミーシャは、にこにことしながら恋歌の解答を待っている。

『好き…それは、男の人、として？』

「(あら？)

ええ、そうよ」

少し伏し目がちになった恋歌の解答を急かす事はせず、じっと待っているとぎゅっと手に力が入ったのがわかった。

『それなら…きっと、わたしは…ローの事が好き』

「それは自覚あるのね」

年齢の事や周りから大切にされている様子を見て、仲間全員の事が好きで、恋愛感情は自覚していないかと思っていたが、恋歌の解答を聞いてミーシャは満足そうに笑った。

「告白はしないの？」

『ローは…わたしのこと大事にしてくれる、けど…それはクルーで、未熟だからで…

昔から、優しいの』

「(そっちの自覚はなし、ってことね)」

短い間しか関わっていないが、ローがクルーの事を大事にしており、見かけによらず優しい事も理解はした。

だが、恋歌に向ける視線も、表情も、感情も他のクルーたちに向けるものとは違う。

ただそれは自分から教えるものではないと、それならと恋歌に渡した本を指さした。

「じゃあわたしが教えてあげるわ

男を虜にする方法」

『え…』

ふふ、と綺麗に笑って本を広げたままぽかんとしている恋歌の頬をつつく。

「その本はわたしがこの仕事を始めるときに参考にしたものよ

恋歌はとても綺麗で、スタイルもいいわ」

『そ、そんなこと…』

普段は近くに同性がいないため、そのように褒めてくれる人はおらず、咄嗟に否定したがそれをまたミーシャに否定された。

「それはちゃんと自覚した方がいいわよ

謙遜ができる恋歌はいい子だとは思うけど、あなたのそれはわたしたちと同じように武器になる」

『武器…』

「恥ずかしいと思う事もある

できないと思う事もある

でもわたしたちだからできるの」

綺麗な容姿だからこそできることがある。

ミーシャたちは武術が使えなくとも、それで戦って生き抜いてきた。

「それに恋歌はその綺麗な声もあるんだから！

まずは好きな人を振り向かせましょ」

『うん、ありがとう』

ミーシャができる恩返しは恋歌に自分の生き方を教える事、そしてそれで優しい人たちの幸せに繋がればと、自分が教えられることで恋歌が使える事を教えていった。