ローが出て行ってから数時間後、娼館の開店時間になり、ミーシャの部屋の外からいろんな人の声が聞こえる。

「ねぇ、恋歌」

泣き止んだ後に出してくれた飲み物を飲みながらなにかしらの連絡を待っていると、目尻を少し赤くしたミーシャにじっと目を見つめられる。

「どうして…手を貸してくれるの？」

他の男と過ごしたくなくて利用しただけなのに。

出会ったのも偶然だったのに。

何の関係もないはずなのに。

≪ローは優しいんだ

もちろん他のみんなもね

でもきっと同じ問いかけをローにしたら…≫

文字を書いている途中で、ばんっ、と大きな音を立ててミーシャの部屋の扉が開かれた。

「今日こそおれの相手をしてもらうぞ、ミーシャ」

「うそ…」

現れたのはペンギンが出会った時に退け、路地裏ではローが退けた男。

驚いたように目を見開いて固まるミーシャだったが、男がミーシャに近づこうと足を進める前に目の前がふっと暗くなった。

「恋歌…」

「あ？こんな女いたか…？」

ミーシャの前に立ち、じっと男の目を見つめ返す恋歌だが、どうすればミーシャを守れるかを頭の中で考える。

『(力じゃ多分勝てない

魔法を使えば…)』

純粋な力勝負では絶対に勝てないと悟った恋歌は、後ろに回している手に小さな魔方陣を発動させる。

「へぇ…まだガキっぽいが…なかなかの上玉だ

新入りか？」

「ち、違うわ！

この子は…」

じろじろと下品な目で品定めをしてくる男に不快感を覚えるが、眠らせてしまおうと頭の中で牡羊座の力を借りようとした。

『(あ、でも…)』

「まだおれが知らねぇって事はボスに挨拶してねぇってことだろ」

「ちょっと！！」

恋歌が男にぐいっと腕を引かれたところでミーシャが止めようとしたが、恋歌に大丈夫だと視線を向けられたような気がして、手が恋歌に触れる前に止まった。

「ボスのところに行くぞ

お前も着いて来い」

「(そういうこと…)

わかったわ」

恋歌がおとなしくしている理由に気づいたミーシャは、男の言葉に頷き、自らの意思で男の後ろに続いた。