じーっと固まっているローの顔を見ると、にこっと笑ってローに近づいて胸に手を置いた。

「昨日の人もいい男だったけど、あなたもいい男ね

あの人はその子の彼氏だし、あなたはどう？」

「は？」

「助けてくれたしサービスするわよ」

『(あ…)』

「…触るな」

夜の誘いを受けているということに気づいたローは女の手を退け、行くぞと恋歌に帽子と眼鏡を渡す。

「えー…あ！じゃああなたは？

今夜空いてる？」

『(え…？)』

路地裏から出る前に帽子と眼鏡をつけなおした恋歌は、ぐいっと顔を近づけてくる女に驚いたように目を見開いた。

「ね？どう？」

両手を握ってぐいぐいと近づいてくる綺麗な顔に、思わず頷いてしまい、ローが小さくため息をついているのが視界に入った。

「じゃあ昨日の宿で同じ部屋でいい？

あ！彼氏も連れてきてよね！」

わかったともう一度頷けば、ローに断られる前に立ち去ろうと、じゃあねと手を振って路地裏から街の中に消えて行った。

「お前な…何頷いてんだ…」

『ご、ごめん』

綺麗な顔をした女に、友人を思い出したとは言えず、素直に謝ったが、約束してしまったものは仕方ない上に、それよりも気になることがある。

「で？あいつの話しぶりだと、たぶんペンギンの事だと思うが…

彼氏、って何のことだ？」

『昨日、ペンギンがあの女の人を、助けてあげたみたいで…断る口実を…』

「ほぅ…？」

ローの機嫌が悪くなっている事に気づいたが、なぜ機嫌が悪くなっているのかわからない恋歌は、どうしていいのかわからず、刀から子犬に戻したシリウスを胸に抱く。

『あ、あの…ロー？』

「おい恋歌、お前が気にすることじゃねぇ

このクソガキが悪い」

『でも…』

恋歌の事が好きで、断る口実だけに使った関係に嫉妬をしている癖に、恋歌に気持ちを伝えていないのは、ローが悪いと思っているシリウスは、気にするなと抱かれている腕をぱしぱしと叩く。

「…行くぞ」

シリウスの言いたいことがなんとなくわかったローは、戸惑っている恋歌の手を引いて、路地裏から街に戻るために足を進めた。

『ロー、ちょっと、待って』

「…悪い」

心に余裕がなかったローは自分のペースで歩いてしまい、いつもより強く掴んでしまっていた恋歌の手を握る力を弱めた。

『ううん

船に、戻ろう』

「ああ」

様子がおかしいローの事を気遣って、夕飯の買い物だけをして船に戻った。