『(…ん？)』

朝に意識を浮上させた恋歌は、いつも抱えて寝ているシリウスとは違う感覚がしたが、目線を下げて納得した。

胸の近くに規則的にかかる息で眠っているのだとわかり、起こさないようにそっと頭を撫でる。

『(眠ってるなら起こさない方がいいかな)』

本来であればそろそろ朝食の時間だが、寝不足気味のローが熟睡しているのであれば、寝られるときに寝かせてあげようと起こす事はしない。

すっかり目が覚めてしまった恋歌は、空間から本を取り出して、風の魔法で調節をしながら本を読みやすいように角度を整えた。

ローが抱き着いてくれている為、魔力を使ってもすぐに心地のいい魔力が流れ込んでくる。

体勢的にはずっとこの状態は厳しいが、もうしばらくは耐えていようと、本の内容に目を通した。




恋歌が目を覚ましてから１時間後。

背中に回されている手がぴく、と反応し、静止したあとがばっと勢いよく起き上がった。

『(び、びっくりした)』

「恋歌…」

お互いに驚いた顔で目を合わせ、驚いた時に魔法を解いてしまい、ばさっと本もベッドに落ちた。

昨日の夜の事を思い出したのか、息をはいて謝罪の言葉を口にした。

『眠れた？』

謝罪の言葉はいらないと、笑いながら言うと、ぽんと頭を撫でられる。

「ああ…

ありがとう」

自分が起きるまで動かないでいてくれたことを悟り、朝食の時間がとっくに過ぎている事にも気づいた。

『ご飯は？』

「…食べる」

熟睡したことでお腹も減ったのか、素直に頷いたローは、ベッドから降りシャワーを浴びると立ち上がった。

『わたし、部屋に戻って、着替えてくる』

「ああ」

また後で、と手を振って出ていく恋歌を見送り、シャワールームに入ってお湯を頭からかぶりながら、先ほどまで抱き着いていた恋歌の感触を思い出すように掌を見つめる。

「(ガキか…おれは…)」

抱き締められたときに感じた恋歌の体温、匂い、柔らかさ、心臓の音に安心して、すぐに眠ってしまっていた。

「(いつかは…おれ以外の奴にもこれ以上の事を…させるんだよな)」

今はこうやって一緒に寝てくれるが、そのうち恋歌に好きな相手ができて、その相手と付き合って、他の男と一緒に寝ることなどだめだと言われてしまえば、こうやって触れる事もできなくなる。

恋歌にとって特別な相手ができてしまえば、一緒に寝るだけではなく、キスも、その先も、自分以外の男とするということ。

「(くそっ…)」

ごん、っとシャワールームの壁に頭をぶつけ、まだ見ぬその相手に苛立ち、どろどろとした独占欲が溢れだして来る。

声も容姿も簡単に男を虜にするものを持っている恋歌の事を、男たちが放っておかないこともわかっている。

「(今考えても仕方ねぇな…)」

ぐるぐると来るかもわからない未来の事を考えても仕方ないと、シャワーを止めがしがしと頭を拭きながら着替え、肩にタオルを乗せたまま食堂に向かう。