恋歌が二度寝をしてから数十分後、夕食の時間が近づいてきたため、恋歌の肩を揺らして起こしてやると、瞼が震えた。

「そろそろ夕飯の時間だ

起きるぞ」

『ん…』

数時間眠ったはずなのにまだ足りないのか、返事はするが起き上る気配はない。

「…おい」

ぎゅっと細い腕で抱き着いてくる恋歌は可愛いと思うが、裸に近い恰好で抱き着かれていては、我慢しているものも崩れてしまいそうになる。

顔にかかる髪をどけてやり、掌で頬を撫でてやると、その手に擦り寄ってくる。

「(可愛い、が…恋歌を独り占めする事は、おれにはできねぇ…)」

まだ”好き”という感情も、”愛してる”という感情もはっきりとはわからない。

わかっていることは恋歌の事が”特別大事”ということ。

家族に対する”愛”はわかるが、異性に対する”愛”がこれで正しいのかもわからない。

それにこうやって恋歌が心を開いてくれていることも、家族のような関係だから、信頼されているからだけかもしれない。

今のこの関係を壊す事が怖くてできず、恩人の仇を討つこともできていない。

「(貴重な星の魔女で…あの禁忌の魔法…

おれの予想が正しければ…恋歌をあいつに近づける事はできねぇ…)」

先日シリウスに聞いた星の魔女の禁忌の魔法。

それを聞いた時、ドフラミンゴに会わせてはいけないと、本能が警告した。

「(器ってのを…特殊な器にすれば…)」

魂を入れる器を、朽ちず、老いない身体にしたとすれば？

ある意味不老不死ができあがる。

そのような器があるのかどうかわからないが、ドフラミンゴであればその程度、金で準備をしてしまう可能性がある。

「(おれの復讐に、恋歌を巻き込む訳にいかねぇんだ…)」

誰にも渡したくない、この姿を他の男に見せてほしくないという、持ってはいけない独占欲があふれ出ているが、これを止めることが出来ず中途半端に手を出してしまっている。

「おれは…お前が大事だよ」

聞こえていないのをわかっているが、聞こえて欲しいとも思っていない小さな声は、部屋に溶け、服を準備してやろうと、枕元にあるぬいぐるみと自分を入れ替えて、ベッドから抜け出した。




「ほら恋歌、ほんとに起きねぇと食いっぱぐれるぞ」

『ん、え？』

今度は本格的に起こすために、強めに肩を揺らすと、何度か瞬きを繰り返してむくりと起き上る。

『(なんか寒…い…！？)』

布団から出た瞬間に肌寒い気がして自分の恰好を見れば、眠る前の事を思い出し、慌てて布団を胸元まで引っ張って身体を隠した。

「ほら、これ買ってきたやつ」

『あ、りがと…』

ばさ、と買ってきたシャツを頭からかぶされ、背中を向けて急いでシャツを着た。

「ボタン、外れなさそうか？」

『ひゃっ…』

肩に顎を乗せるように後ろから覗きこまれ、第3ボタンをいじってくる。

『は、ずれ、ないと、思う…』

「ああ

気をつけろよ」

ぽん、と頭を撫でられた恋歌が小さく頷くと、”飯に行くぞ”と手を差し出してくれる。

それに手を重ね、ベッドから立たせてもらう。

「これはどうする」

『あ、ここに入れる』

今日買った物を空間に収納し、誰か呼びに来る前に部屋から出ようと、手を繋いだまま食堂に向かった。