家主のヴォルフと子ども5人という奇妙な組み合わせで始まった共同生活は毎日賑やかなものになった。

今は夕飯の時間だが、ペンギンとシャチとベポが、今晩のおかずでもあるワニの肉の取り合いをしているからだ。

「うるっさいわ、ガキども！メシは静かに食えと、何度言ったらわかるんじゃ！」

『(毎日楽しそうだね)』

ヴォルフが机を叩きながら説教を始めるが、もともと静かに食べていた恋歌は怒られることがないので、もぐもぐとご飯を食べ続けている。

ローはヴォルフの説教が長い事を知っている為、それから逃げる為にそーっと席から離れたが、それに気づいたヴォルフに首根っこを掴まれて、しっかりと説教をされていた。

『(ご馳走様でした)』

ローが説教を受けて、三人がそれを申し訳なさそうに見ている中、一人夕飯を食べ終わった恋歌は食器を持って、紅茶を入れる為に部屋から出て行った。

『(わたしも…みんなと普通にお話できたら…もっと楽しいのかな…)』

紅茶の為のお湯を沸かしながら、まだ続いているヴォルフの説教をどこか他人事のように聞く。

恋歌はヴォルフからうるさいと怒られることはない。

でもたまには一緒に怒られたいというわがままな気持ちが最近芽生え始めている。

声を出さないのは…恐怖があるから。

まだ声を出す勇気が出ないだけ。

沸いたお湯を注いで紅茶を人数分準備し、紅茶の入ったカップを盆に乗せて、戻ろうとしたところで、扉が開いていない事に気づいた。

『(考え事してたら扉開けておくの忘れてた)』

いつもは扉を開けてから盆を持つのだが、今回は考え事をしていたため、順序が逆になってしまった。

ここで声を出せれば聞こえた誰かが開けてくれるのだが、恋歌にその選択肢はない。

『(仕方ない…一度置いて…)』

もう一度台所のスペースに置こうと振り返ろうとしたとき、がちゃっと扉が開いた。

「やっぱりな」

扉を開けてくれたのはローだったが、全員が顔をのぞかせて恋歌を見ている。

恋歌には少し重そうな、人数分の紅茶が入ったカップの乗った盆を、ローが奪うように持ち、すたすたと歩いていく。

「どうした」

早く来いと目線で言われたので、はっとしたようにローに続いて部屋に入った。

「おら、勝手に取れ」

テーブルの真ん中に盆を置いて、自分の分は自分でとる様にと、一番に紅茶を飲み始めたローの言葉に従い、全員がカップに手を伸ばす。

≪どうして…わたしが困ってるってわかったの？≫

「…別に、たまたまだよ」

気まずそうに紅茶を飲むローに、手話でなぜ扉を開けてくれたのかと問うが満足する返事はくれそうにない。

「え、恋歌はなんて？」

「えー、っと、どうして恋歌が困ってるのがわかったのかって聞いてる」

「そりゃローさんだからだろ」

手話がわからないペンギンとシャチはベポに通訳をお願いして、話の内容を確認している。

≪そっか…ありがとう≫

声を出さなくても、ちゃんと助けてくれた。

その事実が嬉しくて、理由がわからなくても感謝の気持ちは伝えたかった。

「(素直じゃないガキじゃ

いつも夕飯の後には恋歌が紅茶を淹れてくれる

淹れる前には扉を開けたままにすることも知っておるが、今日は開いていなかった

恋歌の足音に耳を澄ませて、扉の前で立ち止まって動かなくなった直後、扉を開けてやればそこには困った顔をした恋歌がいた、ということじゃな

まったく…青臭いガキどもじゃ)」