簡単に要求を飲むと言ったウィリアムに兵士たちはざわつき始める。

皇「静まれ

今だけだ」

ちらっと恋歌に視線を投げて、今言った言葉を理解してほしいと態度で伝える。

『（今だけ…そうか）

残念ですが、私たちが立ち去った後に今まで通りの生活をしようとしても無駄ですよ』

皇「ずっと貴様らが私たちを見張るわけにはいくまい」

ウィリアムが言いたいのは恋歌たち白ひげ海賊団が立ち去った後もこの約束を守らなければいけないという意識を植え付けてほしいということ。

『では、これを置いていきます』

恋歌はポケットから小さな袋を取り出して、それをひっくり返す。

「「「！？」」」

中から出てきたのは明らかに袋の質量を超える量の透明な珠。

それが眩く光を発するとありとあらゆる方向に飛散した。

兵士たちやウィリアムに当たった珠は身体に吸い込まれるように消えていく。

皇「これは…？」

『私がお話しするより見てもらった方がいいですね』

袋からひとつだけ珠を取り出し、こんっ、と兵士たちの前に転がす。

『離れていた方がいいですよ』

近くにいた兵士が拾い上げるために近づいたが、それより先に恋歌がぎゅっと拳を握りしめた。

「「「な…！？」」」

ぱんっという音を立てて弾けたんだ珠は敷かれている高級な絨毯に穴を開けた。

呆然たしている兵士たちとは違い、ウィリアムは恋歌の意図を理解したようで顔色が悪くなっている。

『先程の珠は小さいですがある条件のもと爆発します

ひとつひとつは小さい爆発ですが、それが身体の中で起こったならどうなると思います？』

にこやかに告げた内容は兵士たちの顔色を一気に白くした。

「ま、まさかさっきの…」

「俺たちの身体の中に…？」

『はい、言っておきますが人によって珠の場所はばらばらですし、仮にわかったとしても取り除くことは不可能です』

皇「その条件とはなんだ」

冷静に先程珠が当たった場所をさすっているウィリアムの首から刀を下ろした。

『ある一定以上女性の恐怖心が募った場合爆発します

島全体である一定以上募れば島の住人全員が、個人的にその数値を超えたならその人の身体の中の珠が

ちなみに珠が埋め込まれている人限定なので、外部の人から与えられる恐怖心には反応しません』

つまりこの島に海賊が来て、女性が恐怖心を抱いても島の住人の所為ではないので珠は爆発しないということだ。

皇「ははっ…そりゃまた…

やっかいな爆弾だ…」

兵士たちにバレないように笑うウィリアムは演技がうまく、項垂れているようにしか見えない。

「か、仮にこの爆弾が本物だったとしてもそんな都合のいい物が何故貴様に作れる！

そんな悪魔の実の力なぞ聞いたこともないわ！」

名も無き兵士が言った言葉にそうだそうだと周りが賛同し始める。

『そうですね

悪魔の実の力ではないですから』

皇「じゃあ…貴様は一体…

（つい先日100億の懸賞金になった女など1人しか…）」

ウィリアムは先ほどの会話からあり得ない結論にたどり着くが、すぐにその思考を止めた。

あり得るわけがないと。

『私は白ひげ二番隊隊員

そして、【イノセンス発動】』

ぶわっと風が巻き起こり、一瞬後には目の前にいた女は知らない女から世界一有名な女に変わっていた。

『私をご存知ないのであればあまり説得力はないかもしれませんが、その心配はなさそうですね』

兵士たちも、ウィリアムですらぽかんと口を開けたまま固まり、何度も目を擦って確かめている。

皇「貴様…桜姫…」

黙っていたことを怒っているのか、ただ驚いているだけなのかはわからないが、なぜか睨まれている恋歌は仮面を少しあげて困ったように笑う。

『まぁ、これで信じてもらえそうですね

私の力のこと何もご存知ないでしょう？』

何十年も世界政府が追いかけて顔写真すら撮られたことのない伝説の桜姫の技のことなどわかるはずもない。