皇「先ほど攫われたということであればまだ無事だろう」

その言葉を聞いて恋歌はほっと胸をなでおろした。

皇「だが、」

『？？』

皇「私が不要であると言った以上貴様の家族は…他の奴らに回される」

『は？』

言いにくそうに皇帝から言われた言葉に恋歌は思考が停止した。

皇帝は先ほど老人に新しい女も不要であると言っていた。

『じゃ、じゃあ…２人は…？』

皇「お、落ち着け！！

今日中は大丈夫だ

まず女を捕らえた場合私に献上される

だからまずは城に集められるんだ

そして私が不要であると伝えると、早くて次の日に民たちに渡されることになる」

『今日中…』

皇帝の話を聞いて、落ち着きを取り戻した恋歌は少し考えるように顎に手を当てる。

皇「？」

『あなたはこの伝統いらないと思っているのですよね？』

皇「ああ…

実は私は…昔この島に迷い込んできた女と会った事があってな…

その時にこの島の伝統がおかしいこと、女が優しい事、女が…守るべき存在であるということを、知ったんだ…」

『…そうですか

ですが、あなたが拒否すると島の住民の相手をしなければならないんですよね

それを知っていてなぜ拒否をされるんですか？』

皇「…私が承諾をして手を出さなかったところで助かるわけではない

しばらくして子が身籠らない女も、私が…相手にしないと…殺される…」

『…』

ぎゅっと強く拳を握りしめた皇帝は、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

皇「殺されるのであれば島の住民の相手になってもらった方が…子どもを身籠れば命まではとられない

だから生存率が上がると思ったんだ

逃がそうとした時もあったが、この島から逃がしてやる方法がなくて…」

幼いころからこの伝統に悩んできたのだろう。

最善を見つける事が出来ず、殺されるという最悪を避けるために女にとっては死ぬよりもつらいかもしれない事をさせている。

皇「ここのじじいどもは頭が固い

貴様も見つかれば捕まる

家族を連れて早々に逃げろ」

辛そうな表情をする皇帝に恋歌は先ほど考えていた事を話すために口を開いた。

『じゃあわたしがこの国を滅ぼしてもいいですか？』

皇「は？」

一瞬冗談かと思ったが、恋歌の表情はいたってまじめ。

『そういえばお名前を聞いていませんでしたね』

皇「え？あ、ああ

私の名はウィリアムだ

というか私に名を聞く前に名乗るべきだろう」

『そうですね

申し遅れましたウィリアム陛下

私は白ひげ海賊団2番隊隊員の恋歌です』

皇「し、白ひげ…？

そう言えば今朝上陸したと…」

目の前の女が海賊であるということがわかり、それと同時に今日捕らえた女が白ひげのクルーであるということにも気づいた。

この世界で白ひげ海賊団のクルーは家族という絆で強く結ばれているという事は誰でも知っている。

そんな海賊に手を出したとあればたしかに島ごと滅ぼされそうだ。

皇「白ひげは…怒っているのか…？」

『いえ、今はまだ様子を見てくれています

ですが、あの二人に何かあれば間違いなく攻撃を受けるでしょう』

恋歌の言葉にさー、っと血の気が引いた皇帝…ウィリアムは、慌てて白ひげの家族を解放しようと部屋から出る為に歩みを進めた。