皇「お前か…」

入ってきたのは白髪の老人だった。

そこそこ高齢なのだろうが、足取りはしっかりしており、きりっとした顔つきをしている。

「陛下、また却下されたそうですね」

皇「ああ…その話か」

聞き飽きたといわんばかりにまたしても重いため息をついた。

皇「何度も言うが私にはその気はない」

「…これは我が国の伝統です

王家の血を絶やされるおつもりですか？」

皇「別の方法なら考えると言っている

このやり方は…気に食わん」

『(いったいなんの話をしてるんだろう)』

しばらくこのやり取りが続き、譲らない皇帝に老人が折れ渋々部屋から出て行った。

皇「くだらん…」

近くにあった書類を睨みつけるように読んだあと、机に投げ捨てた。

『(…なるほど、お世継ぎについての話か)』

皇帝が投げ捨てた書類を後ろから覗き見ると、皇帝の悩みにはありがちな次代皇帝についての書類だった。

『(これって…)

あのー…ちょっといいですか？』

皇「！！？？

き、貴様なにも…！！」

『静かにしてください

あなたに危害をくわえるつもりはありません』

書類の内容と先ほどの話の内容で気になることがあったので話しかけたのだが、突然現れた恋歌に驚いた皇帝が大声を出そうとした。

口を手で塞いで静かにしてほしいと伝えると、小さく頷いたため手を離した。

皇「いつの間にこの部屋に…」

『まぁそれは置いといてください

そんなことよりこれ…』

先ほどまで皇帝が見ていた書類を手に取り、内容を再度確認する。

皇「ああ…ばかばかしい内容だろう

だがこれがこの国の伝統であり、俺が果たすべき義務だ」

『そうですか…』

書類にはこの国の裏側、そして恋歌が知りたい内容が書かれていた。

『(この書類によればこの国の皇帝は次代皇帝を、外から連れてきた女性との間に子どもを作って生まれたのが男の子であれば次代皇帝候補として育て、女の子であれば…

それで捕まった女性は身籠るまで解放されないのか…)』

おおよそ予想はしていたとはいえ、胸糞悪い内容に書類を握っている手に力が入る。

皇「それで貴様は何者で、私に何の用だ」

恋歌に敵意がないことがわかったので、椅子に深く腰掛けふんぞり返っている。

『先ほど私の家族がこの島の誰かに攫われたので取り返しに来ました』

皇「…そうか

それは悪い事をした

案内しよう」

またしても重苦しいため息をついて着いてこいと言わんばかりに立ち上がる。

『それは助かりますけど、あなたがここにいるという事はまだ私の家族は無事なんですよね』

話を聞いていると女を攫う理由は次代皇帝の為。

その皇帝がここにいて、態度を見ているとこの伝統に納得がいっていないようだ。