アルバイトと忍術学園の段
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手を拘束されたままふわりと舞い上がった身体が次の衝撃に備えようと目を閉じかけたが、床に叩きつけられることはなくぽすん、と誰かが後ろで受け止めてくれた。
「利吉くん!
撤退だ!!」
「はい!」
『土井先生…』
恋歌を受け止めたのは土井で、恋歌を後ろに突き飛ばしたのは潜入していた利吉。
「恋歌さん、抜け道の指示を」
『はい』
「文次郎、小平太、長次!
後ろは任せた!」
「「「はい!」」」
「尊奈門くんは…ご自由に…?」
「うるさい!言われなくともお前の指示なんぞ受けるもんか!」
利吉が簡単に解けるように縛っていてくれたおかげで縄は簡単に外れ、恋歌が抜け道に向かって走っていくのを忍者たちに追わせないように足止めをするために全員が武器を構える。
「ここに抜け道が…?」
『抜け道というより本堂に繋がる道です
ここに配膳したりする必要があるので本堂とは繋がっているんです』
かちかちと何かの絡繰を解いていく恋歌を横目で見つつ、天陽が雇ったであろう忍者たちと交戦している味方を見て人数的にはこちらが不利ではあるが利吉が味方についたことでなんとかなりそうな戦況。
『開きました!』
「よし!みんなここから上に出るぞ!」
「逃すな!!」
「し、しかしこいつら…」
「強すぎます…」
「相手はガキだろうが!」
ガキ、と言われてはいるがここにいるのは忍術学園最高学年にフリーの売れっ子忍者、それにタソガレドキ忍軍組頭側近と曲者ばかり。
簡単に倒せるはずもなくみるみるうちに味方の忍者が戦闘不能となり、天陽の顔色もそれに合わせて青ざめていく。
「く、くそ…!!」
「あ、逃げた」
「追わなくていい
とりあえずここから出るぞ」
まだ別の抜け道があるのか来た道とも違う方向へ逃げていった天陽を、土井が追わなくとも良いと言いひとまず全員で地上へ戻ることにした。
「地上には伊作がいるはずです
手当てしてもらいましょう」
『このぐらい平気だよ』
「だめです!
それにわたしたちより伊作の方が怪我にうるさいんですから」
殴られた頬は腫れて口の端を少し切ってしまっている。
見ていて痛々しいその姿にきちんと手当てを受けるようにと釘を刺された。
「そんなことより先に進むぞ
そのぐらいの傷、薬を塗ればすぐに治る」
「そんなこととはなんだ!」
「そんなことだろう!」
「まぁまぁ尊奈門くん
小平太も落ち着いて
恋歌さんの傷は伊作に診てもらうとして、早く地上に出た方がいいのはたしかだ」
「しかしこの道が本堂につながっているというのであれば本堂には武装した護衛がたくさんいるはずです
このままなんの策もなく地上に出るのは危険かと」
「ところで利吉さん、なぜここに?」
「父から頼まれたんだ
さっきの男はフリーの忍者ばかりを雇っていた
だからわたしのところにも依頼が来ていたんだけど、怪しい依頼だったからね
父に相談しにいったらその依頼を受けて中から手助けをしてくれと」
「なるほど」
相手側に利吉がいたことには土井がいち早く気づいていたため飛び出しそうになる6年生たちを抑えておくことができた。
「まぁ…聞きたいことは山ほどありますが…」
じっ、と恋歌の瞳を見てはぁとため息をついた利吉は、今聞くことではないなと自分を納得させた。
「あ、でも恋歌さん
わたしのことを見たことがないはずなのにわたしだと気づいてましたよね?」
『本堂に出る手前まで歩きながらお話ししましょうか…』
狭い道のためこんなところで襲われでもしたらたまらないと、その提案を受けいれまた土井を先頭に道を進んでいく。
『…わたし最初の挨拶をする時、大体の人は手を握って挨拶をするんです』
「ああ、たしかに」
「わたしたちも最初のアルバイトの時に手を握ったな」
『まぁその…これは目の力とは別にわたしの特技と言いますか…
簡単に言えば手で人を覚えているんです
あとは声も』
説明が難しい、と言葉を選んでいる恋歌の言葉に全員が自分の掌を見つめ始めた。
「手の特徴と名前を一致させている、ということでしょうか?」
『そんな感じかな
忍者って知らなかった時はみんな働き者なんだなって思ってたぐらいだし、そんなに役には立たないんだけどね』
鍛錬をよくしている3人の手はたこや傷がありごつごつしている。
忍者という特殊な職業を目指していると知らなかった当時は、働いてその手になったのだと思っていた。
「しかし途方もない数なのでは…?」
「視覚情報がないとなると名前を覚えたりするのは難しいな」
「顔と名前を一致させるのが普通、もそ」
『えっと…その…』
「まだ何か隠しておられるんですね?」
どんどんと話しにくくなっているのか、目を泳がせて困ったように笑っている姿を見て、ずいと顔を小平太が近づけてきてじーっと見つめてくる。
『うう…顔が見えてると困る…』
「?
なぜですか?」
『好きな子に見つめられたら話したくなっちゃうでしょ…』
「…恋歌さん、お願いですからこのことが解決しても忍術学園にいてください」
『え…?それは学園長先生との約束が違うんじゃ…』
「小平太、言いたいことはわかるがその話は後だ」
「恋歌さん、ここまできたら全てお話を」
『わ、わかりました…』
文次郎、小平太、長次に詰め寄られている恋歌は観念したようで目線を下に向けながら小さな声で話し始めた。
『わたし…昔から物覚えがいいというか…その…
一度見た事とか、一度聞いた事は…忘れないの…
見る事はしばらくしてなかったけど、一度話した人の声を忘れることがないから、それと手の感覚を人の名前と紐づけて覚えてたっていう…こと…です』
すごいことを言っているはずなのに自信なさげに尻すぼみになっていく言葉を脳が処理するのに少し時間がかかってしまった。
「それは…目とは別の…?」
『うん、違うね』
「なんというかこう…」
「わたしさっきの男は馬鹿なんじゃないかと思い始めてきたぞ」
「同意」
『え?なんで?』
見たもの、聞いたものを一切忘れないだけでも素晴らしい才能であり、それに加えて恋歌には神の目がある。
そんな人物を、たとえ嫌っていたとしても追い出すことは家にとってはマイナスでしかない。
『天陽は昔からわたしにこの目があることが気に入らなかったみたいだしね
天陽の母上もわたしのことは嫌いだったし』
「そういえば先ほどの男とは異母兄妹なんでしたね」
『うん
神埜家は近年神の目を持つ子が産まれてこなくなってたから、正妻以外にも妾をたくさんとってるんだけど、正妻がさっきの天陽の母上で、わたしの母は妾なんだ』
「なるほど…」
「恋歌さんのお母上は…」
『元々身体が弱い人だったらしくてわたしを産んだ時に…って聞いた』
「そうでしたか…」
よくある家の派閥争いのようなもので、やはり正妻の力は強かったということだろう。
現に神の目を持つ恋歌は追い出され、その後誰も連れ戻しに来てはいない。
『でもね…さっき思いつきで言い返した言葉であながち間違いじゃないなって思ったことがあって』
「というと?」
『この目に選ばれるのは、この目の力を悪用しない人
つまり権力とかに興味のない人に授けられるんじゃないかってこと』
「その理屈は恋歌さんには当てはまるかもしれませんが…
先代はどうだったのですか?」
『先代も似たような感じだったって聞いてる
わたしと同じく正妻の子ではなく、ほとんどの時間をあの神託の間で過ごして一生を終えたって…
なんせ神の目を持つ人間は同じ時に2人はいないからね
会ったことがないし記録だけでしか先代のことを知らないの
それにこの妾、というものが主流になったのも正妻から神の目を持つ赤子が産まれなくなったからって聞いたことがあるんだよね』
「たしかにその背景を鑑みると恋歌さんの言葉はあながち間違いではない、と言えそうですね」
『真実は“神”のみぞ知る、ってことかな』
「これぞ、まさにって感じですね」
『あ、土井先生
その扉を開けると本堂の厨房に出ます』
いつのまにか行き止まりまでたどり着いており、目の前には1枚の扉がある。
「それではまずわたしが行きましょう
雇われたフリーの忍者ということであれば警戒されないでしょうし」
「頼んだよ、利吉くん」
「はい」
先頭を交代し利吉がゆっくりと扉を開いて外に出た。
「利吉くん!
撤退だ!!」
「はい!」
『土井先生…』
恋歌を受け止めたのは土井で、恋歌を後ろに突き飛ばしたのは潜入していた利吉。
「恋歌さん、抜け道の指示を」
『はい』
「文次郎、小平太、長次!
後ろは任せた!」
「「「はい!」」」
「尊奈門くんは…ご自由に…?」
「うるさい!言われなくともお前の指示なんぞ受けるもんか!」
利吉が簡単に解けるように縛っていてくれたおかげで縄は簡単に外れ、恋歌が抜け道に向かって走っていくのを忍者たちに追わせないように足止めをするために全員が武器を構える。
「ここに抜け道が…?」
『抜け道というより本堂に繋がる道です
ここに配膳したりする必要があるので本堂とは繋がっているんです』
かちかちと何かの絡繰を解いていく恋歌を横目で見つつ、天陽が雇ったであろう忍者たちと交戦している味方を見て人数的にはこちらが不利ではあるが利吉が味方についたことでなんとかなりそうな戦況。
『開きました!』
「よし!みんなここから上に出るぞ!」
「逃すな!!」
「し、しかしこいつら…」
「強すぎます…」
「相手はガキだろうが!」
ガキ、と言われてはいるがここにいるのは忍術学園最高学年にフリーの売れっ子忍者、それにタソガレドキ忍軍組頭側近と曲者ばかり。
簡単に倒せるはずもなくみるみるうちに味方の忍者が戦闘不能となり、天陽の顔色もそれに合わせて青ざめていく。
「く、くそ…!!」
「あ、逃げた」
「追わなくていい
とりあえずここから出るぞ」
まだ別の抜け道があるのか来た道とも違う方向へ逃げていった天陽を、土井が追わなくとも良いと言いひとまず全員で地上へ戻ることにした。
「地上には伊作がいるはずです
手当てしてもらいましょう」
『このぐらい平気だよ』
「だめです!
それにわたしたちより伊作の方が怪我にうるさいんですから」
殴られた頬は腫れて口の端を少し切ってしまっている。
見ていて痛々しいその姿にきちんと手当てを受けるようにと釘を刺された。
「そんなことより先に進むぞ
そのぐらいの傷、薬を塗ればすぐに治る」
「そんなこととはなんだ!」
「そんなことだろう!」
「まぁまぁ尊奈門くん
小平太も落ち着いて
恋歌さんの傷は伊作に診てもらうとして、早く地上に出た方がいいのはたしかだ」
「しかしこの道が本堂につながっているというのであれば本堂には武装した護衛がたくさんいるはずです
このままなんの策もなく地上に出るのは危険かと」
「ところで利吉さん、なぜここに?」
「父から頼まれたんだ
さっきの男はフリーの忍者ばかりを雇っていた
だからわたしのところにも依頼が来ていたんだけど、怪しい依頼だったからね
父に相談しにいったらその依頼を受けて中から手助けをしてくれと」
「なるほど」
相手側に利吉がいたことには土井がいち早く気づいていたため飛び出しそうになる6年生たちを抑えておくことができた。
「まぁ…聞きたいことは山ほどありますが…」
じっ、と恋歌の瞳を見てはぁとため息をついた利吉は、今聞くことではないなと自分を納得させた。
「あ、でも恋歌さん
わたしのことを見たことがないはずなのにわたしだと気づいてましたよね?」
『本堂に出る手前まで歩きながらお話ししましょうか…』
狭い道のためこんなところで襲われでもしたらたまらないと、その提案を受けいれまた土井を先頭に道を進んでいく。
『…わたし最初の挨拶をする時、大体の人は手を握って挨拶をするんです』
「ああ、たしかに」
「わたしたちも最初のアルバイトの時に手を握ったな」
『まぁその…これは目の力とは別にわたしの特技と言いますか…
簡単に言えば手で人を覚えているんです
あとは声も』
説明が難しい、と言葉を選んでいる恋歌の言葉に全員が自分の掌を見つめ始めた。
「手の特徴と名前を一致させている、ということでしょうか?」
『そんな感じかな
忍者って知らなかった時はみんな働き者なんだなって思ってたぐらいだし、そんなに役には立たないんだけどね』
鍛錬をよくしている3人の手はたこや傷がありごつごつしている。
忍者という特殊な職業を目指していると知らなかった当時は、働いてその手になったのだと思っていた。
「しかし途方もない数なのでは…?」
「視覚情報がないとなると名前を覚えたりするのは難しいな」
「顔と名前を一致させるのが普通、もそ」
『えっと…その…』
「まだ何か隠しておられるんですね?」
どんどんと話しにくくなっているのか、目を泳がせて困ったように笑っている姿を見て、ずいと顔を小平太が近づけてきてじーっと見つめてくる。
『うう…顔が見えてると困る…』
「?
なぜですか?」
『好きな子に見つめられたら話したくなっちゃうでしょ…』
「…恋歌さん、お願いですからこのことが解決しても忍術学園にいてください」
『え…?それは学園長先生との約束が違うんじゃ…』
「小平太、言いたいことはわかるがその話は後だ」
「恋歌さん、ここまできたら全てお話を」
『わ、わかりました…』
文次郎、小平太、長次に詰め寄られている恋歌は観念したようで目線を下に向けながら小さな声で話し始めた。
『わたし…昔から物覚えがいいというか…その…
一度見た事とか、一度聞いた事は…忘れないの…
見る事はしばらくしてなかったけど、一度話した人の声を忘れることがないから、それと手の感覚を人の名前と紐づけて覚えてたっていう…こと…です』
すごいことを言っているはずなのに自信なさげに尻すぼみになっていく言葉を脳が処理するのに少し時間がかかってしまった。
「それは…目とは別の…?」
『うん、違うね』
「なんというかこう…」
「わたしさっきの男は馬鹿なんじゃないかと思い始めてきたぞ」
「同意」
『え?なんで?』
見たもの、聞いたものを一切忘れないだけでも素晴らしい才能であり、それに加えて恋歌には神の目がある。
そんな人物を、たとえ嫌っていたとしても追い出すことは家にとってはマイナスでしかない。
『天陽は昔からわたしにこの目があることが気に入らなかったみたいだしね
天陽の母上もわたしのことは嫌いだったし』
「そういえば先ほどの男とは異母兄妹なんでしたね」
『うん
神埜家は近年神の目を持つ子が産まれてこなくなってたから、正妻以外にも妾をたくさんとってるんだけど、正妻がさっきの天陽の母上で、わたしの母は妾なんだ』
「なるほど…」
「恋歌さんのお母上は…」
『元々身体が弱い人だったらしくてわたしを産んだ時に…って聞いた』
「そうでしたか…」
よくある家の派閥争いのようなもので、やはり正妻の力は強かったということだろう。
現に神の目を持つ恋歌は追い出され、その後誰も連れ戻しに来てはいない。
『でもね…さっき思いつきで言い返した言葉であながち間違いじゃないなって思ったことがあって』
「というと?」
『この目に選ばれるのは、この目の力を悪用しない人
つまり権力とかに興味のない人に授けられるんじゃないかってこと』
「その理屈は恋歌さんには当てはまるかもしれませんが…
先代はどうだったのですか?」
『先代も似たような感じだったって聞いてる
わたしと同じく正妻の子ではなく、ほとんどの時間をあの神託の間で過ごして一生を終えたって…
なんせ神の目を持つ人間は同じ時に2人はいないからね
会ったことがないし記録だけでしか先代のことを知らないの
それにこの妾、というものが主流になったのも正妻から神の目を持つ赤子が産まれなくなったからって聞いたことがあるんだよね』
「たしかにその背景を鑑みると恋歌さんの言葉はあながち間違いではない、と言えそうですね」
『真実は“神”のみぞ知る、ってことかな』
「これぞ、まさにって感じですね」
『あ、土井先生
その扉を開けると本堂の厨房に出ます』
いつのまにか行き止まりまでたどり着いており、目の前には1枚の扉がある。
「それではまずわたしが行きましょう
雇われたフリーの忍者ということであれば警戒されないでしょうし」
「頼んだよ、利吉くん」
「はい」
先頭を交代し利吉がゆっくりと扉を開いて外に出た。