アルバイトと忍術学園の段
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恋歌の部屋から離れた場所でもある医務室に雑渡が足を踏み入れればそこには6年生全員と土井と山田が揃っていた。
「わたしからの手助けはここまでだからね」
「ありがとうございました」
「今日の薬と包帯のお礼の分だよ」
雑渡が恋歌の部屋に入ってからすぐ、襖の向こうで6年生全員が聞き耳を立てているのはすぐに気づいていた。
恋歌が目を閉じていなければ月明かりで襖に影が映っていただろうが、足音もなく気配も可能な限り消し、視覚情報もない恋歌がその存在に気づくことはなかった。
あとで話したことを伝えると言っていたにも関わらずついてきていたことには少し呆れてしまったが、恋歌と2人きりの状況に何もなかったと証明できたのでそれは咎めることはしない。
「でも雑渡さん、僕たちにタソガレドキが調べたことを聞かれても良かったのですか?」
「噂であの子が狙われてるって知ってたまたま調べたってのはほんとだからね
うちに不利益になるようなことでもないしそれに…あの子が本物の神埜家の娘だとしたらそれはそれで価値がある」
「神埜家…聞いたことはありますが不可思議な噂の絶えない家ですよね?」
「土井先生、ご存知なのですか?」
「さすが土井殿
その家の名を聞いたことがあるだけでも素晴らしい」
ぱちぱちと軽く手を叩いていた雑渡はすとん、と腰を下ろした。
「まぁでも教えられるのはここまでだ
本物の神埜家の娘だとわかった以上これ以上の情報提供はできない」
「ふん、曲者に頼らずともそこまでわかっていれば…」
「留三郎、そんな言い方はないだろ」
「お前たちがこれからどう動くも自由だ
一番懸念していた自死については可能性は限りなく低い
だけど慎重に動くことだね」
「どうしてですか?
自死の可能性がないのであれば、答えてくれるかどうかはまた別問題として直接聞けば…」
一番の懸念材料がなくなったというのになぜ直接本人に聞いてはいけないのかと伊作が首を傾げる。
「恋歌さんは…自分が狙われる立場であることを知っていた…
そして…狙われてるからといってすぐに命を断つわけではないが、難しければ諦めると…」
「つまりは…その“難しい”の基準がわからん、ということだな」
「そういうことだ」
「これは憶測ですが…」
一瞬の沈黙の後、土井が口を開いたためそちらに視線が集まる。
「恋歌さんは忍たまたちのことをすごく…可愛がってくれています
贔屓目とかではなく本当に」
「ええ、わたしもそう思います」
「そ、それがどう“難しい”に繋がるのでしょう…」
「お前たちや良い子たちが狙われてしまえば…それは自分の命を諦める理由になるのではないか…?」
「「「!!」」」
「恋歌さんは忍者という存在のことをよく知らず、下級生たちはともかくお前たちもわたしたちも狙われたとて簡単にやられるわけはないということがわからない…
かもしれない」
最後の自信のない言葉に転びそうになったが土井の言っていることは不思議なほどに納得できた。
「そんな…!
僕たちは簡単にやられたりなんて…!」
「それをどうやって説明するんだい?
あの子がなんらかの理由で視界を閉ざしている以上言葉で伝えることしかできないよ?」
雑渡からの正論に全員が言葉に詰まり医務室内は静寂に包まれた。
「でもつまりは…今一番危険なのはこの忍術学園が狙われた時、ということだ
だから作戦を変えよう」
「ああ、わたしもその方がいいと考えていたところだ」
土井と山田の2人の意見は一致したようで顔を見合わせて頷いた。
「まず5年生は全員忍術学園に戻ってくるように伝える
神埜家の情報収集は5年生に、学園内の警備は我々教員と6年生
恋歌さんの居場所はバレていると考えていい
だから…」
「恋歌さんを囮に敵を誘き寄せる、ということですね」
「そうだ
我々は忍びだ
対象に知られることなく脅威を退けるぞ」
「「「はい!」」」
各々の役割を確認したところでふと、ひとつの疑問がよぎった。
「そういえば…学園長先生はこのことをご存知なのですか?」
「ご存知だよ
じゃなきゃわたしがあの子の部屋にこんな遅い時間に訪問なんてできない」
「神埜家のことも…?」
「知っておられたよ
ほんとあの方はどこまでわかっておられるのか…」
雑渡の話し方であればおそらく学園長は雑渡よりも情報を所持している。
だがそれを雑渡に話すことも、学園の教員に話すこともしていない。
「それはそれで思うところはありますが…」
「今それを言っても仕方ないでしょうよ
土井先生、あんたが知ってる神埜家の話もここでしておいた方がいい」
「そうですね
とは言ってもわたしも昔少し聞いたことがある程度でして…しかもそれも…信じることができないような…」
「どのような家なのですか?」
「神埜、とは“神の宿る場所”という意味があり、その名を持つ一族の人間に稀に神が宿ることがあると聞いたことがあります」
「神…ですか?」
「それはまた…」
「だから信じることができない、って言っただろ?」
神を信仰することはあれどそれは空想上のものであり、実際に目にするようなことはない。
そんなことがあるのか?と6年生同士で目を見合わせていると雑渡が“なるほど”と小さく呟いた。
「土井殿のその言葉で何となくわかった気がします
あの子が狙われる理由」
「「「え…」」」
「ええ…わたしもその名を知ってから…何となくですが…」
「ど、どういうことですか?」
雑渡も土井も山田もどこか納得したような顔をしており、話が見えない6人は話の続きを、と土井へ視線を向ける。
「つまりだ
恋歌さんは神埜家の人間だとすると、この忍術学園に来てから一度も誰にも見せていないものはあの目だけ…
そこに“神”と呼ばれる何かがある」
包帯の下も、服の下も見せた恋歌が唯一見せていないのは瞼の下。
今までの話が全て繋がったと6年生はごくりと唾を飲み込んだ。
「ま、あの瞼の下には眼球すらないから見せたくない、って可能性もあるけどこの状況じゃその可能性は低いよねー」
「…太陽の光が苦手だと仰っていたので…眼球はあると思います
外から見た感じも…
それに…そうなると本当は目が見える、という推測もなかったことになります」
「そう…
伊作くんがそう言うならそうなんだろうね」
雑渡が出した僅かな可能性は伊作に否定され、また医務室内に静寂が訪れた。
「土井先生…
その…“神”というのはどういったものなのでしょうか」
「わたしもこれ以上のことは知らないんだ
神埜家っていうのは不思議な家でね
“神”を悪用されないように山奥に住んでてその姿を見たものもほとんどいないらしい」
「恋歌さん…普通に茶店やってたよな?」
「ああ…」
「しかもきり丸に手紙も出して…」
「買い出しも自分で…」
「そこなんだよね」
「「「どこ?」」」
「…さっきの話であの子は“追い出された”と言っていた
普通に考えればそんな特殊な“目”を持つ子を追い出すだろうか
まぁ特殊な“目”っていうのも今の段階では憶測でしかないけど、もうここまでくると目にしか理由ないもんね」
「……話をまとめると
恋歌さんは神埜家の人間で
稀に生まれる“神”の何かを持っていて
それがおそらく目、ということですね」
「途方もない話だがわたしはなんだかわくわくしてきた」
「そういうのは思ってても言わないもんだが…今回に関しては同意してやる」
仙蔵がまとめた内容に全員頷いたが思ってもみなかった大きな話に、いけないこととはわかっているが少し心が躍った。
「あ、そういえば僕恋歌さんから話聞き出せるかも」
「「「え?」」」
「ああ、そういえばそうだな」
「ど、どういうことだ?」
思い出したかのようにぽん、と手を叩いた伊作に雑渡ですら驚いたようで、心当たりのある仙蔵と伊作は目を見合わせて笑い合う。
「雑渡さんがいる場ではちょっと…
すみません」
「お前も言うねぇー
わかったよ
わたしたちの今後知り得た情報も共有しようじゃないか、それでどう?」
「話が早くて助かります」
珍しく意地の悪い笑みを向けられた雑渡は降参を現すように両手を上げた。
「わたしからの手助けはここまでだからね」
「ありがとうございました」
「今日の薬と包帯のお礼の分だよ」
雑渡が恋歌の部屋に入ってからすぐ、襖の向こうで6年生全員が聞き耳を立てているのはすぐに気づいていた。
恋歌が目を閉じていなければ月明かりで襖に影が映っていただろうが、足音もなく気配も可能な限り消し、視覚情報もない恋歌がその存在に気づくことはなかった。
あとで話したことを伝えると言っていたにも関わらずついてきていたことには少し呆れてしまったが、恋歌と2人きりの状況に何もなかったと証明できたのでそれは咎めることはしない。
「でも雑渡さん、僕たちにタソガレドキが調べたことを聞かれても良かったのですか?」
「噂であの子が狙われてるって知ってたまたま調べたってのはほんとだからね
うちに不利益になるようなことでもないしそれに…あの子が本物の神埜家の娘だとしたらそれはそれで価値がある」
「神埜家…聞いたことはありますが不可思議な噂の絶えない家ですよね?」
「土井先生、ご存知なのですか?」
「さすが土井殿
その家の名を聞いたことがあるだけでも素晴らしい」
ぱちぱちと軽く手を叩いていた雑渡はすとん、と腰を下ろした。
「まぁでも教えられるのはここまでだ
本物の神埜家の娘だとわかった以上これ以上の情報提供はできない」
「ふん、曲者に頼らずともそこまでわかっていれば…」
「留三郎、そんな言い方はないだろ」
「お前たちがこれからどう動くも自由だ
一番懸念していた自死については可能性は限りなく低い
だけど慎重に動くことだね」
「どうしてですか?
自死の可能性がないのであれば、答えてくれるかどうかはまた別問題として直接聞けば…」
一番の懸念材料がなくなったというのになぜ直接本人に聞いてはいけないのかと伊作が首を傾げる。
「恋歌さんは…自分が狙われる立場であることを知っていた…
そして…狙われてるからといってすぐに命を断つわけではないが、難しければ諦めると…」
「つまりは…その“難しい”の基準がわからん、ということだな」
「そういうことだ」
「これは憶測ですが…」
一瞬の沈黙の後、土井が口を開いたためそちらに視線が集まる。
「恋歌さんは忍たまたちのことをすごく…可愛がってくれています
贔屓目とかではなく本当に」
「ええ、わたしもそう思います」
「そ、それがどう“難しい”に繋がるのでしょう…」
「お前たちや良い子たちが狙われてしまえば…それは自分の命を諦める理由になるのではないか…?」
「「「!!」」」
「恋歌さんは忍者という存在のことをよく知らず、下級生たちはともかくお前たちもわたしたちも狙われたとて簡単にやられるわけはないということがわからない…
かもしれない」
最後の自信のない言葉に転びそうになったが土井の言っていることは不思議なほどに納得できた。
「そんな…!
僕たちは簡単にやられたりなんて…!」
「それをどうやって説明するんだい?
あの子がなんらかの理由で視界を閉ざしている以上言葉で伝えることしかできないよ?」
雑渡からの正論に全員が言葉に詰まり医務室内は静寂に包まれた。
「でもつまりは…今一番危険なのはこの忍術学園が狙われた時、ということだ
だから作戦を変えよう」
「ああ、わたしもその方がいいと考えていたところだ」
土井と山田の2人の意見は一致したようで顔を見合わせて頷いた。
「まず5年生は全員忍術学園に戻ってくるように伝える
神埜家の情報収集は5年生に、学園内の警備は我々教員と6年生
恋歌さんの居場所はバレていると考えていい
だから…」
「恋歌さんを囮に敵を誘き寄せる、ということですね」
「そうだ
我々は忍びだ
対象に知られることなく脅威を退けるぞ」
「「「はい!」」」
各々の役割を確認したところでふと、ひとつの疑問がよぎった。
「そういえば…学園長先生はこのことをご存知なのですか?」
「ご存知だよ
じゃなきゃわたしがあの子の部屋にこんな遅い時間に訪問なんてできない」
「神埜家のことも…?」
「知っておられたよ
ほんとあの方はどこまでわかっておられるのか…」
雑渡の話し方であればおそらく学園長は雑渡よりも情報を所持している。
だがそれを雑渡に話すことも、学園の教員に話すこともしていない。
「それはそれで思うところはありますが…」
「今それを言っても仕方ないでしょうよ
土井先生、あんたが知ってる神埜家の話もここでしておいた方がいい」
「そうですね
とは言ってもわたしも昔少し聞いたことがある程度でして…しかもそれも…信じることができないような…」
「どのような家なのですか?」
「神埜、とは“神の宿る場所”という意味があり、その名を持つ一族の人間に稀に神が宿ることがあると聞いたことがあります」
「神…ですか?」
「それはまた…」
「だから信じることができない、って言っただろ?」
神を信仰することはあれどそれは空想上のものであり、実際に目にするようなことはない。
そんなことがあるのか?と6年生同士で目を見合わせていると雑渡が“なるほど”と小さく呟いた。
「土井殿のその言葉で何となくわかった気がします
あの子が狙われる理由」
「「「え…」」」
「ええ…わたしもその名を知ってから…何となくですが…」
「ど、どういうことですか?」
雑渡も土井も山田もどこか納得したような顔をしており、話が見えない6人は話の続きを、と土井へ視線を向ける。
「つまりだ
恋歌さんは神埜家の人間だとすると、この忍術学園に来てから一度も誰にも見せていないものはあの目だけ…
そこに“神”と呼ばれる何かがある」
包帯の下も、服の下も見せた恋歌が唯一見せていないのは瞼の下。
今までの話が全て繋がったと6年生はごくりと唾を飲み込んだ。
「ま、あの瞼の下には眼球すらないから見せたくない、って可能性もあるけどこの状況じゃその可能性は低いよねー」
「…太陽の光が苦手だと仰っていたので…眼球はあると思います
外から見た感じも…
それに…そうなると本当は目が見える、という推測もなかったことになります」
「そう…
伊作くんがそう言うならそうなんだろうね」
雑渡が出した僅かな可能性は伊作に否定され、また医務室内に静寂が訪れた。
「土井先生…
その…“神”というのはどういったものなのでしょうか」
「わたしもこれ以上のことは知らないんだ
神埜家っていうのは不思議な家でね
“神”を悪用されないように山奥に住んでてその姿を見たものもほとんどいないらしい」
「恋歌さん…普通に茶店やってたよな?」
「ああ…」
「しかもきり丸に手紙も出して…」
「買い出しも自分で…」
「そこなんだよね」
「「「どこ?」」」
「…さっきの話であの子は“追い出された”と言っていた
普通に考えればそんな特殊な“目”を持つ子を追い出すだろうか
まぁ特殊な“目”っていうのも今の段階では憶測でしかないけど、もうここまでくると目にしか理由ないもんね」
「……話をまとめると
恋歌さんは神埜家の人間で
稀に生まれる“神”の何かを持っていて
それがおそらく目、ということですね」
「途方もない話だがわたしはなんだかわくわくしてきた」
「そういうのは思ってても言わないもんだが…今回に関しては同意してやる」
仙蔵がまとめた内容に全員頷いたが思ってもみなかった大きな話に、いけないこととはわかっているが少し心が躍った。
「あ、そういえば僕恋歌さんから話聞き出せるかも」
「「「え?」」」
「ああ、そういえばそうだな」
「ど、どういうことだ?」
思い出したかのようにぽん、と手を叩いた伊作に雑渡ですら驚いたようで、心当たりのある仙蔵と伊作は目を見合わせて笑い合う。
「雑渡さんがいる場ではちょっと…
すみません」
「お前も言うねぇー
わかったよ
わたしたちの今後知り得た情報も共有しようじゃないか、それでどう?」
「話が早くて助かります」
珍しく意地の悪い笑みを向けられた雑渡は降参を現すように両手を上げた。