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鯰骨

今日は骨喰は畑当番だった。
今の主は内番を俺と骨喰に命じるときは必ずと言っていいほど一緒に組ませてくれる。
骨喰が顕現されて間もない頃は俺が積極的にサポートしていたからというのがあったからだろうか。
もう俺の助け無しでも骨喰は大抵のことはこなせるようになったというのにも関わらず、相変わらず一緒に組まされるのは、もうそれぞれ別々の相手を改めて考えるのが面倒になってきているからなのではないかと思い始めている。
俺としては別に文句があるわけでもないので、今のままで十分構わないのだが。
だが今日の内番は骨喰は畑仕事を、俺は最近顕現された新入りとの手合わせを命じられていた。
手合わせといってもほとんど世間話をメインに軽く竹刀を振るっていただけだ。
実戦に向けての訓練も重要だが、何より人の体を得てまだ日も浅い新米にはこの生活に慣れてもらうのも大切だと思う。
よって本日は鍛練よりもうち解け合うほうを優先させたのだ。
恐らく主もそれを目当てに俺を手合わせの相手に選んだのだろう。
言ってはなんだが、もし手合わせの相手が骨喰だったら相手もやりづらいだろうと考える。
ああ、こういうときに真っ先に骨喰を引き合いに思い浮かべるあたり、俺は本当に骨喰のことばかり考えるのだなあと思う。

「戻った」
手合わせを終えて一足先に部屋に戻って休んでいた俺の元に、先ほどまで思い浮かべていたその姿が現れる。
「あ、おかえりー」
「今日は暑かった…」
顔に汗を滴ながら骨喰は手に持っていた麦わら帽子を帽子掛けに掛けた。
疲れきったようなぐったりとした顔だが、それでも本人はいつも通りの無表情をどうにか貫こうとする。
今この部屋には俺しかいないのだから無理して無表情を保たなくてもいいのに。
太陽の主張が激しくなるこの季節に合わせて半袖に仕立ててもらった内番服。
半袖からスラリと伸びる骨喰の腕。
顕現されて初めて迎えた夏では日差しに当たりすぎて赤くなった骨喰の肌は一生忘れることはない。
俺が必死に日焼け止めを塗るように教えてからは、きちんと夏場は外へ出る前には日焼け止めを塗るようになってくれた。
そういえば薬研が言うには、俺が説得したから日焼け止めを塗るようになったとか…。
その事に関しては特にこれといって言うこともないのだが、俺はただ、骨喰の綺麗で白い肌を守りたかっただけなのだ。
そう、あの肌を…。
「…え!? 骨喰それ!!」
なぞるように骨喰の肩から二の腕を通り、露出された腕を目で追っていたときだ。
「なに……あ」
俺に指摘されてようやく本人も気づく。
骨喰の露になっている腕にポツポツと散らばる赤い痕。
それはそのままにしておくには、とても目立つ痕だった。
それを見た俺はあろうことか、良からぬことを次々に思い浮かべる。
「骨喰…!」
立ち上がり、佇む骨喰の痕が散らばる腕を掴む。
「誰に…やられたの…?」
「は?」
恐る恐るな俺の問いに呆気に取られる骨喰の顔が目に写る。
そこで俺は、自分が無意識のうちに思わず発してしまった言葉の意味をようやく理解する。
「誰と言われても…、虫じゃないのか?」
「え…、あ…っ」
一瞬にして羞恥心が身体中を駆け巡る。
…俺はとんでもないことを言ってしまっていたのだ。
それに気づいたとき、どういう顔をしていいのかわからず、思わず骨喰から顔を反らしてしまっていた。
やってしまった…。
骨喰に幻滅されるだろうか?
こんな如何わしいことを考えている兄弟なんて、普通に考えたら気持ち悪い以外の何者でもない。
顕現されてから少しずつ育んできた信頼も今、全てがぶっ飛んでしまったのだろう。
そんなことを一瞬の内に考えていたときだ。
「すまない、前に兄弟に虫除けをするように言われていたのを忘れていた…」
「え…?」
しょんぼりという表現が似合うぐらいに落胆する骨喰。
普段の姿しか見ていない者からは、その仕草に意外な一面と驚くだろうなと思ってしまう。
「あれほど言われていたのに、うっかりしてしまっていた…」
他の者と比べて常にずっと骨喰の隣にいる俺ですら珍しいと思ってしまうほどに、酷く落ち込む姿。
「あ、だ、大丈夫だよっ。 薬塗っておけばすぐ治るって! ほら…」
掴んでいた腕をそのまま引いて、机の引き出しを開けた。
前に主から頂いた塗り薬を手探りでみつける。
腕から手を離し、蓋を開けようとした。
「塗ってあげるから腕だしてごらん」
「俺は…」
「もう、虫刺されでそんなに落ち込まない!」
本当に、そんな虫除け忘れたぐらいでいつまでも落ち込まれるのはやめてもらいたいところではある。
それとも骨喰にとって虫刺されというのは余程耐え難いものだろうか?
「…鯰尾から教えられたことが実行できなかった」
「? 骨喰…?」
流石の俺も、聞いてすぐには骨喰の真意には理解できなかった。
何故このタイミングで骨喰が急に“兄弟呼び”をやめたのか。
何故、俺からの教えという点を重要視したのか。
骨喰の本当の想いは次の一言ですぐに察することができたのだった。
「俺の身体は鯰尾以外に触れさせるつもりは無いのに…」
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