Side-C.
時系列的には01の続き。
ランティスは15歳くらい、ザガートは19,20歳くらいのイメージです。
* * *
彼女の完璧な容貌と立ち居振る舞いを初めて見たとき、彼は確信した。彼女は人というよりも、もっと抽象的で象徴的な「存在」だった。この国の全ての理想と平和が彼女一人の中に押し込められていた。
物心ついて、柱の存在を教えられた時から疑問に思っていた。母親は彼に皆で助け合って、支え合って生きなさい、と教えた。しかし、柱はずっと一人で祈り続けているではないか。いくら彼が隣の人間に肩を貸し、困っている人を助けようとも、彼自身が立つこの世界は、たった一人の祈りに支えられている。彼らは一方的に柱という存在に支えられ、生きているに過ぎない。
柱はセフィーロの人々を愛し、セフィーロの柱は彼女を愛しているのだという。しかし、セフィーロの人間は柱が注ぐ無償の愛に慣れ、甘え、その愛に寄り縋って生きているだけではないか。
町にやってきた彼女の姿を見たとき、何故、彼らが彼女の姿をただ崇め、讃美している様子は彼の違和感を強めた。確かに彼女は美しい。しかし、ただ美しいだけの人間などいるものか。
彼女の前で歓声を上げている人々の姿は、この国の滑稽さの縮図だった。人々は彼女の前で、歓声を上げ、その愛を乞うことしかできない。
彼女を讃美する大衆の姿を嘲笑うことは、この世界自体を否定することだ。この世界の上に生まれ、普通に日々を送っている彼には、そんな資格などない。
彼は浮かびかけた嘲笑を一瞬で納め、彼女と大衆の様子を眺めた。しかし、何度見てもその様子はどこかおかしく、その感覚だけは拭うことができなかった。
***
クレフがその町を再訪したのは決して偶然ではなかった。前回、エメロードに従ってこの町を訪れた時、何か特別な気の流れを感じた。それは、エメロードを讃辞する民衆の気の中で、一瞬、刺すように鋭く光った。柱を狙う間者でもいるのかとクレフは身を強ばらせたが、その鋭さはすぐに消え、民衆の中に紛れた。
それは不思議な鋭さだった。姫を攻撃しようというのではない。それは攻撃というよりも怒りだった。しかし、反面、姫を哀れむかのような暖かさが感じられた。しかし、セフィーロを支える柱を「哀れむ」とは?
少し気を巡らせれば、この何の変哲もない町の中に燻っている、「強い者」の存在が感じられた。注意深く探せばその気の主は見つけ出せそうだったが、エメロードの横で露骨に気を探れば、彼女に何があったのかと勘ぐられてしまう。彼女に必要以上の負担をかけてはいけない。クレフは息を吐いて、その時はそれ以上何もせず、ただ柱の身辺を気遣い、彼女を守ることにだけ集中した。
そしてその日、彼はあの「気」の持ち主を捜すべく、再びその町を訪れていた。目立つつもりはなくとも、最高位の導師が突然現れたということで、町はざわつき、町長は機嫌を伺うように「何かこの町に不穏なことが……?」と尋ねてきた。突然、彼が護衛もなしに町に訪れれば、何があったのかと不安になるのも無理はない。クレフはそれをやんわりと否定し、ただ、先日来た時にとても良い町だったから、訪れただけだと説明した。
気を巡らせると、確かにこの町には強い意志の力を持った人間がいることが分かった。しかし、その人物がこの町での普通の暮らしに馴染んでしまっているからなのか、どうも所在がはっきりしない。ただ、意志の強い者が通った後に残る「気」の残り香だけがこの町のあちらこちらで感じられた。
どうしたものかとクレフが悩みながら町中を歩き回るクレフを、住民たちは遠巻きに観察している。彼らは何があったのかと戸惑いと不安の入り交じった顔でクレフの様子を伺っていた。
小声で囁き合う人々のざわめき。クレフの耳が、その中から、その声を拾い上げたのは、ただの偶然だったのだろうか。
「何をする気だ」
その声は、さして大きくもないのに、やけに耳についた。クレフは一瞬、自分に話しかけられたのかと錯覚し、その声の主を見た。
それは一際背の高い、黒髪の青年だった。いや、背は高いが、まだ顔立ちにはあどけなさが残っている。少年と言った方がいいのかもしれない。彼はクレフの方など見ていなかった。彼が声をかけたのは、彼の隣に立っている、同じく長身で黒髪の、しかし、こちらは髪を長く伸ばした青年だ。彼は目を細めて、どこか挑戦的な眼差しで少年を見つめていた。彼らは目鼻立ちも背格好も良く似ていたが、長髪の青年の方が幾分背が高く、顔立ちも大人びていた。端正な美しい顔をしている。彼とて、隣の少年とさほど年齢が違っているようには見えないが、その表情にあどけなさはない。よく見ると口元にはうっすらと微笑みが浮かんでおり、そこには周囲のざわめきにはビクともしない心の余裕が見て取れた。
自分の勘違いと気づいた後も、クレフはその二人から目が離せなかった。なぜ、離せないのだろう。逡巡する前に、長髪の青年と目が合った。紫色の瞳。珍しいが、美しい色だと思った。その瞳はまっすぐにクレフの目を見つめてきた。明らかな意志を持ってクレフを見つめている。クレフが力を持って見返しても、その視線はびくともしなかった。そのまま視線を外さずにいると、彼は口角を上げ、笑みを深めた。
彼はクレフから視線は外さないままに、足を踏み出し、そのまま人垣を抜け出した。ゆっくりとクレフに向かって歩いてくる。
最高位の導師を前にしても、全く物怖じしない悠然とした足取りと、余裕さえ感じさせる微笑み。その紫色の瞳の奥で、ゆったりと揺らめく光を見て、クレフは、ああ、この青年だ。と確信した。この青年が、クレフの探していた「強い者」に違いない。
確かに、今の彼の気は他の町人に紛れて分からないほど穏やかだが、気を探れば、その奥にすっと、鉱石のように固く冷たい、強い意志の源泉が波打っているのが分かった。
クレフよりも数段背の高い彼は、彼の前に辿り着くと跪き、頭を垂れた。その動作は優雅で、町人よりも宮仕えをする魔導師の動きを連想させた。
彼は突然話し掛けることの無礼を詫びた後、「ザガート」と名乗り、クレフの弟子にしてくれないかと持ちかけてきた。
「不躾なお願いであることは重々承知いたしておりますが、何分、このような田舎に身を置く身……このような機会がなければ導師にお目通りすることすら適いません」
口調は丁寧で、懇願するかの声色を使っていたが、クレフには分かっていた。
彼は確信している。必ず、クレフがこの申し出を受け入れることを。
仮にも最高位の導師。彼に弟子入りを乞う者は沢山いる。もちろん、その全員が受け入れられるわけではない。クレフが魔法を授けるに足ると認め、クレフの弟子として試練を乗り越えられるだけの強さを備えていると判断しなければ弟子入りは適わず、その長い人生の中で、彼が「弟子」として手取り足取り指導をした魔導師の数は少ない。
だが、クレフも確信していた。今、彼の下にはちょうど弟子がおらず、もうそろそろ新しい教え子を見つけなければと考えている最中だった。この時機のよさは、彼の確信をさらに強めた。
私はこの青年の師となり、魔法を授けるだろう。そして……
そして?
クレフの予感には先があったが、その先に何があるのかは分からなかった。
後にザガートにその時のことを聞くと、「えぇ、必ず、導師は私たちを指導して下さると思っていました」と言って微笑んだ。
「もちろん、ランティスも必ずついてくると思っていましたよ」
クレフがザガートの申し入れを受け入れると、周囲のざわめきは更に大きくなった。しかし、彼がそのざわめきに動揺を見せることはなかった。それどころか、彼は悪戯っぽく笑い、
「無礼ついでにもう一つお願いが……」
そう言って、人混みの中にいる一人の少年……先ほど、ザガートに声をかけていた長身の彼を指した。「よろしければ、彼もいっしょに」
町人たちが一斉に少年を見る。少年はひどく無表情に見えたが、よく見れば瞬きもせずにぴたりと硬直しており、この展開に驚いているのだということが分かった。
兄弟だろう、と思った。ザガートによく似ている。少年は髪は短く、目は青色をしていたが、その面長な顔立ちも、切れ長の目も、輪郭からパーツまで、顔の造形が実によく似ていた。だが、それにしては全く、ザガートに似た気を彼からは感じない。血縁者の気は多かれ少なかれ似通ったものになるはずだが、彼の気はひどく平坦で、覇気が感じられない。
そのことが気になり、ザガートにそうしたように、彼の気にも探りを入れた。すると、彼が、表面に出している気とは裏腹の、まったく違う表情をした意志を隠しているのが感じられた。ザガートの鉱物を連想させる冷たさとは違い、もっと躍動的な、激しい熱をもった力が脈打っているのを感じる。
探りを入れなければ力に気づけないようでは、私もまだまだだな。
クレフはもう一度ため息を吐き、ザガートに向き直った。
「あの者はお前の弟だな?」
クレフが問うと、ザガートは肯定した。クレフは頷くと、ザガートに、弟と二人で自分について来るよう命じた。
弟……ランティスの方は、最初は「何故、俺まで」「俺は城で魔導師をするような柄じゃない」と堂々とその命を蹴ってみせたが(その行為は、周囲で様子を伺っている住民たちだけでなく、クレフまで驚かせた。導師の弟子となることは、この国で与えられる最高の栄誉の一つである)、最終的には渋々と言った様子でクレフについてくることになった。
今思えば、ランティスの頑固さも当時はまだ可愛げがあったものである。今の彼なら「行かないと言ったら行かないんだ」と言って聞く耳を持たなかっただろう。クレフの下で修行をしているうちに、彼の頑固さはより強固になり、どんどん融通が利かなくなって行った。
しかし、そうした変化がより顕著なのは、兄であるザガートの方だった。
「えぇ、必ず、導師は私たちを指導して下さると思っていました。もちろん、ランティスも必ずついてくると思っていましたよ」
そう言って、悪戯っぽく笑うその無邪気な微笑みは、時が立つに連れて彼の表情から失われていった。魔法が 研ぎ澄まされると共に、彼の意志の力も冷たく光り、その強さをどんどん増して行くのがクレフにも分かった。だが、その強さの原因がどこにあるのか、しばらくのうちはクレフにも分からなかった。
ランティスは15歳くらい、ザガートは19,20歳くらいのイメージです。
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彼女の完璧な容貌と立ち居振る舞いを初めて見たとき、彼は確信した。彼女は人というよりも、もっと抽象的で象徴的な「存在」だった。この国の全ての理想と平和が彼女一人の中に押し込められていた。
物心ついて、柱の存在を教えられた時から疑問に思っていた。母親は彼に皆で助け合って、支え合って生きなさい、と教えた。しかし、柱はずっと一人で祈り続けているではないか。いくら彼が隣の人間に肩を貸し、困っている人を助けようとも、彼自身が立つこの世界は、たった一人の祈りに支えられている。彼らは一方的に柱という存在に支えられ、生きているに過ぎない。
柱はセフィーロの人々を愛し、セフィーロの柱は彼女を愛しているのだという。しかし、セフィーロの人間は柱が注ぐ無償の愛に慣れ、甘え、その愛に寄り縋って生きているだけではないか。
町にやってきた彼女の姿を見たとき、何故、彼らが彼女の姿をただ崇め、讃美している様子は彼の違和感を強めた。確かに彼女は美しい。しかし、ただ美しいだけの人間などいるものか。
彼女の前で歓声を上げている人々の姿は、この国の滑稽さの縮図だった。人々は彼女の前で、歓声を上げ、その愛を乞うことしかできない。
彼女を讃美する大衆の姿を嘲笑うことは、この世界自体を否定することだ。この世界の上に生まれ、普通に日々を送っている彼には、そんな資格などない。
彼は浮かびかけた嘲笑を一瞬で納め、彼女と大衆の様子を眺めた。しかし、何度見てもその様子はどこかおかしく、その感覚だけは拭うことができなかった。
***
クレフがその町を再訪したのは決して偶然ではなかった。前回、エメロードに従ってこの町を訪れた時、何か特別な気の流れを感じた。それは、エメロードを讃辞する民衆の気の中で、一瞬、刺すように鋭く光った。柱を狙う間者でもいるのかとクレフは身を強ばらせたが、その鋭さはすぐに消え、民衆の中に紛れた。
それは不思議な鋭さだった。姫を攻撃しようというのではない。それは攻撃というよりも怒りだった。しかし、反面、姫を哀れむかのような暖かさが感じられた。しかし、セフィーロを支える柱を「哀れむ」とは?
少し気を巡らせれば、この何の変哲もない町の中に燻っている、「強い者」の存在が感じられた。注意深く探せばその気の主は見つけ出せそうだったが、エメロードの横で露骨に気を探れば、彼女に何があったのかと勘ぐられてしまう。彼女に必要以上の負担をかけてはいけない。クレフは息を吐いて、その時はそれ以上何もせず、ただ柱の身辺を気遣い、彼女を守ることにだけ集中した。
そしてその日、彼はあの「気」の持ち主を捜すべく、再びその町を訪れていた。目立つつもりはなくとも、最高位の導師が突然現れたということで、町はざわつき、町長は機嫌を伺うように「何かこの町に不穏なことが……?」と尋ねてきた。突然、彼が護衛もなしに町に訪れれば、何があったのかと不安になるのも無理はない。クレフはそれをやんわりと否定し、ただ、先日来た時にとても良い町だったから、訪れただけだと説明した。
気を巡らせると、確かにこの町には強い意志の力を持った人間がいることが分かった。しかし、その人物がこの町での普通の暮らしに馴染んでしまっているからなのか、どうも所在がはっきりしない。ただ、意志の強い者が通った後に残る「気」の残り香だけがこの町のあちらこちらで感じられた。
どうしたものかとクレフが悩みながら町中を歩き回るクレフを、住民たちは遠巻きに観察している。彼らは何があったのかと戸惑いと不安の入り交じった顔でクレフの様子を伺っていた。
小声で囁き合う人々のざわめき。クレフの耳が、その中から、その声を拾い上げたのは、ただの偶然だったのだろうか。
「何をする気だ」
その声は、さして大きくもないのに、やけに耳についた。クレフは一瞬、自分に話しかけられたのかと錯覚し、その声の主を見た。
それは一際背の高い、黒髪の青年だった。いや、背は高いが、まだ顔立ちにはあどけなさが残っている。少年と言った方がいいのかもしれない。彼はクレフの方など見ていなかった。彼が声をかけたのは、彼の隣に立っている、同じく長身で黒髪の、しかし、こちらは髪を長く伸ばした青年だ。彼は目を細めて、どこか挑戦的な眼差しで少年を見つめていた。彼らは目鼻立ちも背格好も良く似ていたが、長髪の青年の方が幾分背が高く、顔立ちも大人びていた。端正な美しい顔をしている。彼とて、隣の少年とさほど年齢が違っているようには見えないが、その表情にあどけなさはない。よく見ると口元にはうっすらと微笑みが浮かんでおり、そこには周囲のざわめきにはビクともしない心の余裕が見て取れた。
自分の勘違いと気づいた後も、クレフはその二人から目が離せなかった。なぜ、離せないのだろう。逡巡する前に、長髪の青年と目が合った。紫色の瞳。珍しいが、美しい色だと思った。その瞳はまっすぐにクレフの目を見つめてきた。明らかな意志を持ってクレフを見つめている。クレフが力を持って見返しても、その視線はびくともしなかった。そのまま視線を外さずにいると、彼は口角を上げ、笑みを深めた。
彼はクレフから視線は外さないままに、足を踏み出し、そのまま人垣を抜け出した。ゆっくりとクレフに向かって歩いてくる。
最高位の導師を前にしても、全く物怖じしない悠然とした足取りと、余裕さえ感じさせる微笑み。その紫色の瞳の奥で、ゆったりと揺らめく光を見て、クレフは、ああ、この青年だ。と確信した。この青年が、クレフの探していた「強い者」に違いない。
確かに、今の彼の気は他の町人に紛れて分からないほど穏やかだが、気を探れば、その奥にすっと、鉱石のように固く冷たい、強い意志の源泉が波打っているのが分かった。
クレフよりも数段背の高い彼は、彼の前に辿り着くと跪き、頭を垂れた。その動作は優雅で、町人よりも宮仕えをする魔導師の動きを連想させた。
彼は突然話し掛けることの無礼を詫びた後、「ザガート」と名乗り、クレフの弟子にしてくれないかと持ちかけてきた。
「不躾なお願いであることは重々承知いたしておりますが、何分、このような田舎に身を置く身……このような機会がなければ導師にお目通りすることすら適いません」
口調は丁寧で、懇願するかの声色を使っていたが、クレフには分かっていた。
彼は確信している。必ず、クレフがこの申し出を受け入れることを。
仮にも最高位の導師。彼に弟子入りを乞う者は沢山いる。もちろん、その全員が受け入れられるわけではない。クレフが魔法を授けるに足ると認め、クレフの弟子として試練を乗り越えられるだけの強さを備えていると判断しなければ弟子入りは適わず、その長い人生の中で、彼が「弟子」として手取り足取り指導をした魔導師の数は少ない。
だが、クレフも確信していた。今、彼の下にはちょうど弟子がおらず、もうそろそろ新しい教え子を見つけなければと考えている最中だった。この時機のよさは、彼の確信をさらに強めた。
私はこの青年の師となり、魔法を授けるだろう。そして……
そして?
クレフの予感には先があったが、その先に何があるのかは分からなかった。
後にザガートにその時のことを聞くと、「えぇ、必ず、導師は私たちを指導して下さると思っていました」と言って微笑んだ。
「もちろん、ランティスも必ずついてくると思っていましたよ」
クレフがザガートの申し入れを受け入れると、周囲のざわめきは更に大きくなった。しかし、彼がそのざわめきに動揺を見せることはなかった。それどころか、彼は悪戯っぽく笑い、
「無礼ついでにもう一つお願いが……」
そう言って、人混みの中にいる一人の少年……先ほど、ザガートに声をかけていた長身の彼を指した。「よろしければ、彼もいっしょに」
町人たちが一斉に少年を見る。少年はひどく無表情に見えたが、よく見れば瞬きもせずにぴたりと硬直しており、この展開に驚いているのだということが分かった。
兄弟だろう、と思った。ザガートによく似ている。少年は髪は短く、目は青色をしていたが、その面長な顔立ちも、切れ長の目も、輪郭からパーツまで、顔の造形が実によく似ていた。だが、それにしては全く、ザガートに似た気を彼からは感じない。血縁者の気は多かれ少なかれ似通ったものになるはずだが、彼の気はひどく平坦で、覇気が感じられない。
そのことが気になり、ザガートにそうしたように、彼の気にも探りを入れた。すると、彼が、表面に出している気とは裏腹の、まったく違う表情をした意志を隠しているのが感じられた。ザガートの鉱物を連想させる冷たさとは違い、もっと躍動的な、激しい熱をもった力が脈打っているのを感じる。
探りを入れなければ力に気づけないようでは、私もまだまだだな。
クレフはもう一度ため息を吐き、ザガートに向き直った。
「あの者はお前の弟だな?」
クレフが問うと、ザガートは肯定した。クレフは頷くと、ザガートに、弟と二人で自分について来るよう命じた。
弟……ランティスの方は、最初は「何故、俺まで」「俺は城で魔導師をするような柄じゃない」と堂々とその命を蹴ってみせたが(その行為は、周囲で様子を伺っている住民たちだけでなく、クレフまで驚かせた。導師の弟子となることは、この国で与えられる最高の栄誉の一つである)、最終的には渋々と言った様子でクレフについてくることになった。
今思えば、ランティスの頑固さも当時はまだ可愛げがあったものである。今の彼なら「行かないと言ったら行かないんだ」と言って聞く耳を持たなかっただろう。クレフの下で修行をしているうちに、彼の頑固さはより強固になり、どんどん融通が利かなくなって行った。
しかし、そうした変化がより顕著なのは、兄であるザガートの方だった。
「えぇ、必ず、導師は私たちを指導して下さると思っていました。もちろん、ランティスも必ずついてくると思っていましたよ」
そう言って、悪戯っぽく笑うその無邪気な微笑みは、時が立つに連れて彼の表情から失われていった。魔法が 研ぎ澄まされると共に、彼の意志の力も冷たく光り、その強さをどんどん増して行くのがクレフにも分かった。だが、その強さの原因がどこにあるのか、しばらくのうちはクレフにも分からなかった。