イーグルvsザガートが見たいRPG妄想

 ザガートの執務室は、その役職に比すれば簡素という他なく、見当たるもとといえば背の低い本棚と、薄い木を張り合わせた机と椅子くらいのものだ。見るからに硬そうなその椅子は長時間の作業には不向きに見えるが、ランティスがこの部屋に入ってからずっと、彼は姿勢を正したまま、机に向かって何かを書き続けていた。ランティスが部屋に入ってきたことには気づいているだろうに、顔を上げることはない。ランティスは部屋の扉の前に立ったまま、書類に目を落とす彼の横顔を見つめていた。

『あなたはザガート様の敵ではありませんよね?』

 ザガートの “忠臣”としか言いようのない彼の言葉を思い出す。
 敵?
 確かに、あれは敵、これは味方、と太い境界線を引かねばならない道を選択し続けている今の彼は、気に食わない。とても気に食わない。しかし、それ以上に、ランティスには、今の彼のことがよく分からなかった。彼が、今、何を目指し、何を為そうとしているのか。一つの国の運命を左右するほどの大きな決断を託され続ける彼が、一つひとつの決定において、何を思い、意図しているのか。その決定が「成功」する様は見えても、彼の求める先だけが、靄がかかったようによく見えない。

「最初はお前かと思ったんだがな」

 唐突に話しかけられたので、とっさに返答ができなかった。しかし、彼はそのまま、独り言をいうように言葉を続ける。

「お前ならよかったんだが。うまくいかないものだ」

 そういって、彼は手を止め、顔を上げる。その紫色の瞳と目が合っても、その目から感情は読み取れなかった。

「……俺じゃない」

「分かっている」

「彼女」を逃がしたことだけが、ザガートの「敵」であることを意味するのなら、少なくとも、現段階でランティスはザガートの「敵」ではなかった。ランティスがそのことを知ったのは、他の魔導士同様、今朝方のことだ。イノーバから通達がその第一報で、たいそう驚き、「彼女」の安否とともに、「作戦」を立て直さざるを得ないザガートのことを心配すらしたのだから。

「それを確かめるために俺を呼んだのか?」

「違う」

 ザガートは即座に否定すると、ランティスに一通の書状を見せた。

「この書状を、オートザムへ届けてもらいたい」

「俺が?」

 ランティスは眉をひそめて、赤い封蝋で閉じられた書状を見た。ランティスがオートザムの現国王と懇意であることは、セフィーロの要人であれば皆知っていることだ。彼は10代の一時期をセフィーロで過ごしていた。セフィーロの “属国”の君主が、その近親者をセフィーロに送るのは決して珍しいことではない。前オートザム王がまだ存命でオートザムを統べていた頃、彼は自分の後継ぎをセフィーロで「勉強させる」ことによって、セフィーロへの忠誠心を示した。その際に、ランティスは年の近い彼と親しくなり、彼がオートザムに戻ってからも、交流は続いている。しかし、セフィーロの将軍の弟という立場上、あまり頻繁に「属国」へ出入りすることがあまり望ましくないのも事実だった。ザガートが出すような「公式な」文書であれば、下手に勘繰られないよう、ランティス以外の人物を使者とすることが多い(というよりも、セフィーロで要職についていないランティスがそのような要件を頼まれることは滅多にない)。

「正確に言うと、騎士団の剣闘師を使者にするが、今の状況下で、魔法を使える者なしでオートザムへ向かわせるには不安が残る。そして、知っての通り、多くの魔導士は今、「作戦」に駆り出されている」

 要は「護衛」ということか。しかし、なぜ、「作戦」でセフィーロ軍が混乱している中であえてオートザムのような小国に使者を向かわせる必要があるのだろう。訝しむランティスに、ザガートは続けた。

「ああ、ちょうど来たようだ。入れ、ラファ―が」

 扉を開けて入ってきたその男の、青く濁った瞳に、ランティスは何かぞっとするような悪い予感が背筋に走るのを感じた。
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