イーグルvsザガートが見たいRPG妄想
こちら日記メモ:イーグルvsザガートが見たいという話のRPG妄想から生まれた二次創作です。
***
イライラする。
彼女を逃がしたのは誰だ。
幾人か心当たりを思い浮かべてはぎりぎりと歯噛みする。不機嫌な空気を隠さないイノーバに、部下の誰も近寄ろうとはしない。
イノーバの主が立てた作戦も、「彼女」がいなければ成り立たない。しかし、予定通りにXX国に侵攻できなければ、皇帝は有無を言わさずに警護兵の首をとばすだろう。その数が十で収まれば御の字だ。今、主は、部屋にこもって、作戦を立て直している。
彼女抜きで進行するのか、それとも……。
セフィーロ国の将軍として、主は、一時間後には決断を下す。
誰だ。
その間に、誰がどのように彼女の「逃亡」を手引きしたのか、できるだけ検討をつけておきたかった。このタイミングで彼女が逃亡したということは、軍事情報から城のセキュリティまで、多くの情報が外部に漏えいしているということだ。そして、彼女が他国の手に渡れば、彼女の口から、また、彼女の能力から、さらに多くの情報が漏れだす。早く彼女の居場所を突き止めるとともに、これ以上の情報漏えいを防がなくては。
そもそも今度のXX国侵攻を言い出したのは皇帝だった。誰がどう見ても皇帝の指示は無謀だったのだが、イノーバの主であるザガートはさしたる反論もせずそれを受け入れた。彼は一日で作戦を練り上げて各師団に指示を出したが、一日で、「勝てる」見込みのある戦術を練り上げるのは、至難の業だったにちがいない。
セフィーロ帝国は確かに大陸の約半分をその占領下に置く大国だ。今のセフィーロの勢力に抵抗できる国など、この大陸の上にはない……そう断言してもいい。しかし、それでもXX国に侵攻するのは無謀なのだ。
セフィーロが今の勢力を保っていられるのは、他国の追随を許さない強力な軍事力を持つゆえだ。その軍事力は確かにザガートのような並外れた統率力を持つ人材に支えられているのだが……何よりもセフィーロが持つ「魔法」の力が、セフィーロの軍事力の全てだった。火を操り、氷の雨を降らし、瞬時に傷を癒す「魔法」の前には、何千という兵士も、大掛かりな作戦も無力だ。何百の兵士が一人の魔法に敵わない。セフィーロ軍にどんなダメージを与えようと、次の日には、戦力が元通りに復活している。そんなセフィーロ軍に勝てる国など、一つもない。「魔法」を使えること……それがセフィーロの勢力拡大の最大の要因だった。
XX国は、セフィーロ以外に魔法の力を有する、唯一の国だ。XX国は国力、領土、人口、どれをとってもセフィーロに遠く及ばない小国だが、その周りをぐるりと、魔獣の森に囲まれている。魔法を用いる魔獣が這いまわるその森は、その中を抜けることだけでも困難だ。仮に森を抜けられたとしても、森を抜けた瞬間にXX国の魔法の集中砲火を浴びることになるだろう。XX国は、魔獣の森という鉄壁の要塞によって、百年以上もの間、独立国としての地位を守り続けて来た。だから、侵攻するには、相応の準備が必要なのだ。
しかし、皇帝はすぐに侵攻しろと言って聞かなかった。暴君と名高いセフィーロ皇帝を窘められるのは、腹心であるザガートしかいない。だが、ザガートは皇帝の言葉をそのまま受け取り、第一師団に出兵の準備を命じた。
最近の彼は少しおかしい。
名将と名高く、人望も厚いザガートは、あの暴君の防波堤であったのに。
そう言えば、「“彼女”の力を使ういい機会だろう」と言って薄く笑う彼の、その自嘲的な様子は、少し前までの彼には見られないものだった気がする。
……しかし、ザガートを敬愛するイノーバにとって、ザガート自身の変化はさしたる問題ではなかった。
彼の作戦を彼の言葉通りに遂行し、彼の言葉をそのまま具現化すること。それこそが、イノーバの生きがいだったからだ。最大の問題は、彼女が逃亡して、「ザガートの立てた作戦が根本から覆ってしまったこと」にこそあった。
誰だ。
イノーバはもう一度、彼女の逃走を手引きした人物をぐるぐると検討する。
XX国、あるいは他国の仕業という可能性ももちろん考えるべきだ。しかし、果たして、幾重にも結界をめぐらせたあの部屋に、侵入することのできる者がいるのか。セフィーロ城とて、簡単なセキュリティを敷いているわけではない。軍の中に協力者がいる可能性を疑うべきだろう。
セフィーロ軍の中には、セフィーロ一の魔導師であり、セフィーロ軍を統べる将軍でもあるザガートを蹴落とそうと機を伺っている輩もいる。大抵はやっかみか、ザガート本人に会わないままに、その立場を羨んでいるかのいずれかだ。ザガートを目の前にすれば、その圧倒的な魔法力と、曲者揃いの魔導師を束ねるカリスマ的とも呼べる統率力に魅了されるに違いないというのに。そのような身の程知らずの所業である可能性は高い。
あるいは、魔導師が力を持ちすぎることを懸念する文官の仕業か。
軍の反皇帝派が動きを起こしたという可能性もあるが……しかし、反皇帝派はそのほとんどがザガートに協力的だ。皇帝の行き過ぎた言動を抑えることができる人間は、いまやザガートしかいない。
もしくは。
権力の駆け引きではなく、情に駆られた個人の所業ということもありうるかもしれない。彼女は戦いに行くことを嫌がっていたから。
彼女の意志を知った誰かが、彼女の背中を押すべく手引きしたという可能性。
個人の情ひとつで、一国の重要人物の逃亡が可能になってしまう。そんなこと、本来ならばありえないだろう。
だが……
「イノーバ」
唐突に、主の声で名前を呼ばれて、イノーバの思考は一気に途切れた。慌てて背筋を伸ばして振り向くと、しかし、そこにいたのは、彼の主ではなかった。
「……これはランティス様」
主とまったく同じ声をした彼は、イノーバよりも幾分背が高く、その背の高さもまた、ザガートと同じだった。
低い声も、人を見下さんばかりの背の高さも、がっしりとした体格も、彫りの深い顔立ちも、ザガートによく似た彼は、ザガートの弟だ。ザガートは黒い髪を長く伸ばしているが、彼は髪を短くしており、ザガートは紫色の瞳をしているが、彼は青い瞳をしている。はっきりと分かる差異はそれくらいのもので、彼らは本当によく似た兄弟だった。
「ザガートはどこだ」
そう答える彼は表情ひとつ変えない。顔立ちはよく似ているが、彼は穏やかなザガートに比べてひどく不愛想だった。立ち振る舞いに卒がなく人を懐柔するのがうまいザガートに対し、彼はひどく協調性に欠けた。ランティスは、魔法力もザガートに負けずとも劣らない、セフィーロ屈指の魔導師の一人でもあり、本来なら、彼も将軍としてザガートの右腕となるべき人物なのであるが、役職につくことを厭い、一介の魔導師としての立場それ以上のものを求めようとはしない。
「ザガート様は人払いをされております」
「そのザガートに呼び出されたんだ」
表情一つ変えず即答した彼の言葉にイノーバは答えるのを躊躇った。
彼の魔導師としての腕は確かなので、ザガートが時折、彼に戦術や軍の編成について相談を持ち掛けていることも知っている。しかし、イノーバは、責務ある職を断り、自由な魔導師の身分に留まる彼のことを信頼しているわけではなかった。
先ほども、イノーバは「彼女」を逃がした可能性のある人物として、ランティスの顔を思い浮かべていたのだ。権力闘争からは縁遠い彼だが、だからこそ、気まぐれのような情を発揮していないとも限らない。
訝るイノーバの様子を悟ったのか彼は、ザガートからの伝令書を取り出して見せた。それを見せられれば、逆らうわけにもいかない。
「執務室におられますが」
平静を装った声に滲み出した険を読み取ったのか、ランティスはイノーバの瞳を見て、僅かに眉を寄せた。しかし、それだけで、それ以上は表情も変えず、くるりと身体を翻す。
「あなたはザガート様の敵ではありませんよね」
変な胸騒ぎにかられ、気が付けばイノーバはその背中に、攻撃するような、懇願するような言葉を投げつけていた。
ランティスの大きな背中がぴたりと動きを止め、彼は顔だけを捻ってイノーバを見る。
「敵も味方も、すべてお前たちが決めていることだろう」
ランティスはまったく表情を動かさないまま、そういうと、足早に立ち去って行った。
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イライラする。
彼女を逃がしたのは誰だ。
幾人か心当たりを思い浮かべてはぎりぎりと歯噛みする。不機嫌な空気を隠さないイノーバに、部下の誰も近寄ろうとはしない。
イノーバの主が立てた作戦も、「彼女」がいなければ成り立たない。しかし、予定通りにXX国に侵攻できなければ、皇帝は有無を言わさずに警護兵の首をとばすだろう。その数が十で収まれば御の字だ。今、主は、部屋にこもって、作戦を立て直している。
彼女抜きで進行するのか、それとも……。
セフィーロ国の将軍として、主は、一時間後には決断を下す。
誰だ。
その間に、誰がどのように彼女の「逃亡」を手引きしたのか、できるだけ検討をつけておきたかった。このタイミングで彼女が逃亡したということは、軍事情報から城のセキュリティまで、多くの情報が外部に漏えいしているということだ。そして、彼女が他国の手に渡れば、彼女の口から、また、彼女の能力から、さらに多くの情報が漏れだす。早く彼女の居場所を突き止めるとともに、これ以上の情報漏えいを防がなくては。
そもそも今度のXX国侵攻を言い出したのは皇帝だった。誰がどう見ても皇帝の指示は無謀だったのだが、イノーバの主であるザガートはさしたる反論もせずそれを受け入れた。彼は一日で作戦を練り上げて各師団に指示を出したが、一日で、「勝てる」見込みのある戦術を練り上げるのは、至難の業だったにちがいない。
セフィーロ帝国は確かに大陸の約半分をその占領下に置く大国だ。今のセフィーロの勢力に抵抗できる国など、この大陸の上にはない……そう断言してもいい。しかし、それでもXX国に侵攻するのは無謀なのだ。
セフィーロが今の勢力を保っていられるのは、他国の追随を許さない強力な軍事力を持つゆえだ。その軍事力は確かにザガートのような並外れた統率力を持つ人材に支えられているのだが……何よりもセフィーロが持つ「魔法」の力が、セフィーロの軍事力の全てだった。火を操り、氷の雨を降らし、瞬時に傷を癒す「魔法」の前には、何千という兵士も、大掛かりな作戦も無力だ。何百の兵士が一人の魔法に敵わない。セフィーロ軍にどんなダメージを与えようと、次の日には、戦力が元通りに復活している。そんなセフィーロ軍に勝てる国など、一つもない。「魔法」を使えること……それがセフィーロの勢力拡大の最大の要因だった。
XX国は、セフィーロ以外に魔法の力を有する、唯一の国だ。XX国は国力、領土、人口、どれをとってもセフィーロに遠く及ばない小国だが、その周りをぐるりと、魔獣の森に囲まれている。魔法を用いる魔獣が這いまわるその森は、その中を抜けることだけでも困難だ。仮に森を抜けられたとしても、森を抜けた瞬間にXX国の魔法の集中砲火を浴びることになるだろう。XX国は、魔獣の森という鉄壁の要塞によって、百年以上もの間、独立国としての地位を守り続けて来た。だから、侵攻するには、相応の準備が必要なのだ。
しかし、皇帝はすぐに侵攻しろと言って聞かなかった。暴君と名高いセフィーロ皇帝を窘められるのは、腹心であるザガートしかいない。だが、ザガートは皇帝の言葉をそのまま受け取り、第一師団に出兵の準備を命じた。
最近の彼は少しおかしい。
名将と名高く、人望も厚いザガートは、あの暴君の防波堤であったのに。
そう言えば、「“彼女”の力を使ういい機会だろう」と言って薄く笑う彼の、その自嘲的な様子は、少し前までの彼には見られないものだった気がする。
……しかし、ザガートを敬愛するイノーバにとって、ザガート自身の変化はさしたる問題ではなかった。
彼の作戦を彼の言葉通りに遂行し、彼の言葉をそのまま具現化すること。それこそが、イノーバの生きがいだったからだ。最大の問題は、彼女が逃亡して、「ザガートの立てた作戦が根本から覆ってしまったこと」にこそあった。
誰だ。
イノーバはもう一度、彼女の逃走を手引きした人物をぐるぐると検討する。
XX国、あるいは他国の仕業という可能性ももちろん考えるべきだ。しかし、果たして、幾重にも結界をめぐらせたあの部屋に、侵入することのできる者がいるのか。セフィーロ城とて、簡単なセキュリティを敷いているわけではない。軍の中に協力者がいる可能性を疑うべきだろう。
セフィーロ軍の中には、セフィーロ一の魔導師であり、セフィーロ軍を統べる将軍でもあるザガートを蹴落とそうと機を伺っている輩もいる。大抵はやっかみか、ザガート本人に会わないままに、その立場を羨んでいるかのいずれかだ。ザガートを目の前にすれば、その圧倒的な魔法力と、曲者揃いの魔導師を束ねるカリスマ的とも呼べる統率力に魅了されるに違いないというのに。そのような身の程知らずの所業である可能性は高い。
あるいは、魔導師が力を持ちすぎることを懸念する文官の仕業か。
軍の反皇帝派が動きを起こしたという可能性もあるが……しかし、反皇帝派はそのほとんどがザガートに協力的だ。皇帝の行き過ぎた言動を抑えることができる人間は、いまやザガートしかいない。
もしくは。
権力の駆け引きではなく、情に駆られた個人の所業ということもありうるかもしれない。彼女は戦いに行くことを嫌がっていたから。
彼女の意志を知った誰かが、彼女の背中を押すべく手引きしたという可能性。
個人の情ひとつで、一国の重要人物の逃亡が可能になってしまう。そんなこと、本来ならばありえないだろう。
だが……
「イノーバ」
唐突に、主の声で名前を呼ばれて、イノーバの思考は一気に途切れた。慌てて背筋を伸ばして振り向くと、しかし、そこにいたのは、彼の主ではなかった。
「……これはランティス様」
主とまったく同じ声をした彼は、イノーバよりも幾分背が高く、その背の高さもまた、ザガートと同じだった。
低い声も、人を見下さんばかりの背の高さも、がっしりとした体格も、彫りの深い顔立ちも、ザガートによく似た彼は、ザガートの弟だ。ザガートは黒い髪を長く伸ばしているが、彼は髪を短くしており、ザガートは紫色の瞳をしているが、彼は青い瞳をしている。はっきりと分かる差異はそれくらいのもので、彼らは本当によく似た兄弟だった。
「ザガートはどこだ」
そう答える彼は表情ひとつ変えない。顔立ちはよく似ているが、彼は穏やかなザガートに比べてひどく不愛想だった。立ち振る舞いに卒がなく人を懐柔するのがうまいザガートに対し、彼はひどく協調性に欠けた。ランティスは、魔法力もザガートに負けずとも劣らない、セフィーロ屈指の魔導師の一人でもあり、本来なら、彼も将軍としてザガートの右腕となるべき人物なのであるが、役職につくことを厭い、一介の魔導師としての立場それ以上のものを求めようとはしない。
「ザガート様は人払いをされております」
「そのザガートに呼び出されたんだ」
表情一つ変えず即答した彼の言葉にイノーバは答えるのを躊躇った。
彼の魔導師としての腕は確かなので、ザガートが時折、彼に戦術や軍の編成について相談を持ち掛けていることも知っている。しかし、イノーバは、責務ある職を断り、自由な魔導師の身分に留まる彼のことを信頼しているわけではなかった。
先ほども、イノーバは「彼女」を逃がした可能性のある人物として、ランティスの顔を思い浮かべていたのだ。権力闘争からは縁遠い彼だが、だからこそ、気まぐれのような情を発揮していないとも限らない。
訝るイノーバの様子を悟ったのか彼は、ザガートからの伝令書を取り出して見せた。それを見せられれば、逆らうわけにもいかない。
「執務室におられますが」
平静を装った声に滲み出した険を読み取ったのか、ランティスはイノーバの瞳を見て、僅かに眉を寄せた。しかし、それだけで、それ以上は表情も変えず、くるりと身体を翻す。
「あなたはザガート様の敵ではありませんよね」
変な胸騒ぎにかられ、気が付けばイノーバはその背中に、攻撃するような、懇願するような言葉を投げつけていた。
ランティスの大きな背中がぴたりと動きを止め、彼は顔だけを捻ってイノーバを見る。
「敵も味方も、すべてお前たちが決めていることだろう」
ランティスはまったく表情を動かさないまま、そういうと、足早に立ち去って行った。
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