オートザムの話
「えーっと、オートザム革命のきっかけとなったプレマシーの蜂起の指導者であり、その後、オートザム国の初代大統領となったのは誰か……誰だ?」
資料を借りるという名目でジェオの部屋を訪れたイーグルが、たまたま、ジェオが隠しているお菓子を発見したのはつい先刻のこと。お菓子の箱とジェオを交互に見比べた、イーグルがにっこりほほ笑むのを見て、「……茶でも入れるわ」とジェオがお湯を沸かし始めた頃、「ヤバいんだ……助けてくれ……」と青い顔をしたザズが、倒れ込むようにして部屋の中に入って来た。いわく、「俺、次の試験も駄目だったら、今後一週間、メカに触れないんだよ」。
よくよく話を聞いてみれば、若いメカニックが受けなければならない抜き打ち審査の「歴史・文化」分野で落第点を取ったらしく、明後日がその再試験なのだという。ザズは、「一人だと眠くなるから付き合ってくれよ」とテーブルの上に、小型モニターを置き、歴史のテキストデータを呼び出して、問題を解き始めた……のだが、さっそく第一問目から躓いている。
「……あのな、仮にもオートザム軍のチーフメカニックを務めるお前が、そんなことも知らないでどうするんだよ」
ジェオが三人分のお茶を入れながら、あきれ顔で言う。
「オートザムの初代大統領の名前は、マカロンですよ」
「へぇー、そうなんだ」
「ちげーよ。そんなかわいい名前じゃねーし。っていうか、イーグル。冗談でもお前が間違えるのは大問題だからやめてくれ」
また親父さんにどやされるわ。大きく眉を下げて盛大なため息をつくジェオを見て、イーグルは悪びれもせず「あれ、間違ってました?」と笑った。
現大統領の息子であり、そもそも、昔から成績優秀だったイーグルが初代大統領の名前などという常識問題を間違えるわけがない。明らかに面白がっているイーグルを見て、ジェオがため息をつく。
大統領の息子の前で、そんな問題を解きだすザズもザズだ。
ザズがにらめっこしているモニターを覗くと、左上に、ザズが今、解いているテキストのタイトルらしき、「一日十答! 一カ月で覚えるオートザムの歴史」と言う文字が書かれていた。ザズは、「今日と明日で15日分ずつやれば明後日の試験に間に合う」と意気込んでいるが、このままでは、間に合うのかどうか甚だ怪しい。
「あー、何で、なんでこんな人名とか年号とか覚えないといけないんだ……」
とザズが頭を抱え込む。メカニックとしては同世代のメカニックたちから頭一つ抜けて優秀なザズだが、専門外の分野については、からっきしだ。これまでも一夜漬けで何とか誤魔化して来たらしい。
「大丈夫ですよ、大統領の名前のひとつやふたつ。分からなくても生きて行けますから」
「だーかーら! お前が言うと洒落にならねーからやめろって。……ひとつやふたつっつーか、まだ、大統領四代目だろうが。全員覚えろ」
ザズが、ジェオがザズの頭を軽く叩くと、ザズががばっと顔をあげて拝むように手を合わせる。
「ジェオ、頼む。代わりに受けてくれ」
「お前と俺だと身長が違いすぎるだろ」
「うるせー!」
いつものジェオとザズのやり取りが始まって、イーグルがくすくすと笑った。軍の中には、プライベートの時間も常に互いの腹を探り合うような関係も多いのだが、この二人は会うたびに軽口を叩きあっている。
「歴代大統領は、ほころび うみだす 大統領 で覚えたらいいですよ」
「なんだよ、その縁起でもない語呂合わせ」
「大統領の頭文字を並べるとこうなるんです」
「……あ、本当だ。イーグル、サンキュー」
ジェオは「もうちょっといい覚え方ないのかよ……」とげんなりとした顔をしているが、ザズは覚えられれば何でもいいらしい。
そのうち、ジェオの入れたお茶を飲みながら、「絶対に出る項目だけ教えてくれ」「一番出て来る地名教えて。分からなかったら、全部それ書くから」などと効率を模索しながら、真面目にテキストを読み始めた。
「この人、さっき、死んでなかったか?」
「ややこしいんだが、さっきの六月戦争で死んだのは父親で、それは息子」
「なんで親子で同じ名前つけるんだよ……」
グチグチ言いながらも、テキストもとりあえず、5日分くらいは進んでいる。イーグルもジェオも学生時代の成績は悪くなかった……というより、成績が良かったからこそ、軍の中枢にいる。二人とも、ザズに落第はしてほしくないので、冗談を言ったり、小言を言ったりしながらも、基本はザズに協力的だ。
別に、メカニックとしての技量と、オートザムの歴史や文化など直接的には関係がない。しかし、最近は、ザズのように初代大統領の名前を知らない……という若者が軍の中に増えてきており、それを問題視した上層部が、一定の層のファイターやメカニックに対して、時折、こうした常識問題についての抜き打ち審査を課すようになった。彼らは一様に、優秀であるがゆえに、義務教育期間を飛び級して専門職に就いており、そのため、自分の専門分野以外の基礎知識が抜けがちなのだった。
「あー! 俺、歴史嫌いだからメカニックになったのに!」
10日分の問題を解き終わったザズが嘆く。
「お前がいないと俺らも困るんだよ。何とか乗り切ってくれ」
「あー……新型機、まだ、第三チェックに回せてないんだよなあ」
来週には新型FTOのテスト走行が実施される。一週間、メカに触れないとなると、そのテスト走行に参加できないということになるため、「無理」と言いつつ、ザズも内心は必死なのだろう。ザズは頭がいいので、イーグルもジェオも、この二日で知識を詰め込めば、何とかなるはずだと思っているが、実際のところ、本人の頑張り次第なので、お茶でも飲ませて応援することしかできない。
それにしても、確かにオートザム軍に所属している以上、最低限の知識は備えておくべきなのかもしれないが、何も、新型機導入の大事な時期に審査を行い、ペナルティを課す必要もないだろう……と、二人とも軍務省の決定に飽きれと怒りを感じていた。総務部に抗議したところ、すでに審査のシステムは導入済みであり、GOのサインも出ているので、スケジュールを遅らせることはできないと言われた。現在、軍務省の司令部と総務部のトップが対立関係にあるため、恐らく、今回の嫌がらせのごときスケジュール決定には、それが影響しているはずだ。新型機導入のドタバタで定期審査のことを失念しており、根回しが遅れてしまったのが悔やまれる。ただでさえ眠る時間を削って仕事に勤しんでいる若いメカニックたちが、テキストを睨んでうんうん唸っている様を見ると、さすがに気の毒だ。
「新型機の導入がひと段落したら、今後こういうことがないように総務部と調整しますから」
疲れたテーブルの上にへばりついているザズに、イーグルが声をかけると「頼むよお……」と消えそうな声で返答が帰って来る。
「くだらないもめ事してる場合じゃねえんだけどなあ」
ジェオがため息をつきながら、入れ直したお茶をザズの前に置いてやる。
「今、内部で対立してても意味ねえのにな。おっさんたちのプライドはどうにかならんもんかね」
大気汚染が悪化し、オートザムの将来の危機がより生々しいものとなって来ているにも関わらず、幹部同士の対立や民間企業との癒着で、オートザムの内政も健全な状態とは程遠い。
原因の一つには、現大統領が三期目に入る中で、人材の流動性が低くなっていることがあった。
「彼らは、常に敵を欲しがってるんですよ。だから、共通の敵を作ってあげると、うまく行くと思うんですけどね」
現に、ほら、外国と戦争してる時は、うまく行ってるじゃないですか。
そう言って、イーグルはザズの目の前にあるモニターを指さした。
二代目大統領ロビーは、新しい資源を求めてXX国への侵攻を決定。XX国との第一次ミゼット戦争が勃発する。第一次ミゼット戦争の最中は、復古派と改革推進派の対立は一時休戦状態となった。この戦争を機に、汎用戦闘機DTO(現在のFTOの原型)が完成、オートザムの機械技術は飛躍的に向上し、現在の精神エネルギーを供給減とした機械システムが確立される。
「あー……でも、できるだけどこにも攻め込みたくねえよなあ」
モニターの文面を読んだジェオが、ファイターらしからぬことを言ってぼやく。それは優秀なファイターであると同時に心根の優しい人間であるジェオの本音だろう。
しかし、ジェオとて、ファイターである以上、そして、オートザムの大気汚染が悪化し続けている以上、他国への侵攻というのは、常にありうる選択肢として頭の中に想定されているはずだ。
「僕だってそうですよ」
僕は平和主義者ですから。
イーグルがそういうと、ジェオが「お前が平和主義者ねえ」と言って、疑わしげな眼をした。
「僕は常に、一番、平和的な解決策を考えてますよ」
できることなら、他国への侵攻なんて、しない方がいいに決まってます。そう言って、イーグルはジェオの入れたお茶に口をつけた。
***
あとがき
相変わらずの尻切れトンボ感ですみません;
試験問題を解くザズとボケるイーグルと突っ込むジェオが見たくて書いた話なんですが、オチが見つかりませんでした;
組織の話とか、メカの話とか全然分かんないからボカしにボカしててすみません。
ランティスについても話題に出してもらおうかと思ったんですが、収拾がつかなくなりそうなのでやめました。
オートザム勢のお話は、カタカナもを使いまくれるので楽です。
資料を借りるという名目でジェオの部屋を訪れたイーグルが、たまたま、ジェオが隠しているお菓子を発見したのはつい先刻のこと。お菓子の箱とジェオを交互に見比べた、イーグルがにっこりほほ笑むのを見て、「……茶でも入れるわ」とジェオがお湯を沸かし始めた頃、「ヤバいんだ……助けてくれ……」と青い顔をしたザズが、倒れ込むようにして部屋の中に入って来た。いわく、「俺、次の試験も駄目だったら、今後一週間、メカに触れないんだよ」。
よくよく話を聞いてみれば、若いメカニックが受けなければならない抜き打ち審査の「歴史・文化」分野で落第点を取ったらしく、明後日がその再試験なのだという。ザズは、「一人だと眠くなるから付き合ってくれよ」とテーブルの上に、小型モニターを置き、歴史のテキストデータを呼び出して、問題を解き始めた……のだが、さっそく第一問目から躓いている。
「……あのな、仮にもオートザム軍のチーフメカニックを務めるお前が、そんなことも知らないでどうするんだよ」
ジェオが三人分のお茶を入れながら、あきれ顔で言う。
「オートザムの初代大統領の名前は、マカロンですよ」
「へぇー、そうなんだ」
「ちげーよ。そんなかわいい名前じゃねーし。っていうか、イーグル。冗談でもお前が間違えるのは大問題だからやめてくれ」
また親父さんにどやされるわ。大きく眉を下げて盛大なため息をつくジェオを見て、イーグルは悪びれもせず「あれ、間違ってました?」と笑った。
現大統領の息子であり、そもそも、昔から成績優秀だったイーグルが初代大統領の名前などという常識問題を間違えるわけがない。明らかに面白がっているイーグルを見て、ジェオがため息をつく。
大統領の息子の前で、そんな問題を解きだすザズもザズだ。
ザズがにらめっこしているモニターを覗くと、左上に、ザズが今、解いているテキストのタイトルらしき、「一日十答! 一カ月で覚えるオートザムの歴史」と言う文字が書かれていた。ザズは、「今日と明日で15日分ずつやれば明後日の試験に間に合う」と意気込んでいるが、このままでは、間に合うのかどうか甚だ怪しい。
「あー、何で、なんでこんな人名とか年号とか覚えないといけないんだ……」
とザズが頭を抱え込む。メカニックとしては同世代のメカニックたちから頭一つ抜けて優秀なザズだが、専門外の分野については、からっきしだ。これまでも一夜漬けで何とか誤魔化して来たらしい。
「大丈夫ですよ、大統領の名前のひとつやふたつ。分からなくても生きて行けますから」
「だーかーら! お前が言うと洒落にならねーからやめろって。……ひとつやふたつっつーか、まだ、大統領四代目だろうが。全員覚えろ」
ザズが、ジェオがザズの頭を軽く叩くと、ザズががばっと顔をあげて拝むように手を合わせる。
「ジェオ、頼む。代わりに受けてくれ」
「お前と俺だと身長が違いすぎるだろ」
「うるせー!」
いつものジェオとザズのやり取りが始まって、イーグルがくすくすと笑った。軍の中には、プライベートの時間も常に互いの腹を探り合うような関係も多いのだが、この二人は会うたびに軽口を叩きあっている。
「歴代大統領は、ほころび うみだす 大統領 で覚えたらいいですよ」
「なんだよ、その縁起でもない語呂合わせ」
「大統領の頭文字を並べるとこうなるんです」
「……あ、本当だ。イーグル、サンキュー」
ジェオは「もうちょっといい覚え方ないのかよ……」とげんなりとした顔をしているが、ザズは覚えられれば何でもいいらしい。
そのうち、ジェオの入れたお茶を飲みながら、「絶対に出る項目だけ教えてくれ」「一番出て来る地名教えて。分からなかったら、全部それ書くから」などと効率を模索しながら、真面目にテキストを読み始めた。
「この人、さっき、死んでなかったか?」
「ややこしいんだが、さっきの六月戦争で死んだのは父親で、それは息子」
「なんで親子で同じ名前つけるんだよ……」
グチグチ言いながらも、テキストもとりあえず、5日分くらいは進んでいる。イーグルもジェオも学生時代の成績は悪くなかった……というより、成績が良かったからこそ、軍の中枢にいる。二人とも、ザズに落第はしてほしくないので、冗談を言ったり、小言を言ったりしながらも、基本はザズに協力的だ。
別に、メカニックとしての技量と、オートザムの歴史や文化など直接的には関係がない。しかし、最近は、ザズのように初代大統領の名前を知らない……という若者が軍の中に増えてきており、それを問題視した上層部が、一定の層のファイターやメカニックに対して、時折、こうした常識問題についての抜き打ち審査を課すようになった。彼らは一様に、優秀であるがゆえに、義務教育期間を飛び級して専門職に就いており、そのため、自分の専門分野以外の基礎知識が抜けがちなのだった。
「あー! 俺、歴史嫌いだからメカニックになったのに!」
10日分の問題を解き終わったザズが嘆く。
「お前がいないと俺らも困るんだよ。何とか乗り切ってくれ」
「あー……新型機、まだ、第三チェックに回せてないんだよなあ」
来週には新型FTOのテスト走行が実施される。一週間、メカに触れないとなると、そのテスト走行に参加できないということになるため、「無理」と言いつつ、ザズも内心は必死なのだろう。ザズは頭がいいので、イーグルもジェオも、この二日で知識を詰め込めば、何とかなるはずだと思っているが、実際のところ、本人の頑張り次第なので、お茶でも飲ませて応援することしかできない。
それにしても、確かにオートザム軍に所属している以上、最低限の知識は備えておくべきなのかもしれないが、何も、新型機導入の大事な時期に審査を行い、ペナルティを課す必要もないだろう……と、二人とも軍務省の決定に飽きれと怒りを感じていた。総務部に抗議したところ、すでに審査のシステムは導入済みであり、GOのサインも出ているので、スケジュールを遅らせることはできないと言われた。現在、軍務省の司令部と総務部のトップが対立関係にあるため、恐らく、今回の嫌がらせのごときスケジュール決定には、それが影響しているはずだ。新型機導入のドタバタで定期審査のことを失念しており、根回しが遅れてしまったのが悔やまれる。ただでさえ眠る時間を削って仕事に勤しんでいる若いメカニックたちが、テキストを睨んでうんうん唸っている様を見ると、さすがに気の毒だ。
「新型機の導入がひと段落したら、今後こういうことがないように総務部と調整しますから」
疲れたテーブルの上にへばりついているザズに、イーグルが声をかけると「頼むよお……」と消えそうな声で返答が帰って来る。
「くだらないもめ事してる場合じゃねえんだけどなあ」
ジェオがため息をつきながら、入れ直したお茶をザズの前に置いてやる。
「今、内部で対立してても意味ねえのにな。おっさんたちのプライドはどうにかならんもんかね」
大気汚染が悪化し、オートザムの将来の危機がより生々しいものとなって来ているにも関わらず、幹部同士の対立や民間企業との癒着で、オートザムの内政も健全な状態とは程遠い。
原因の一つには、現大統領が三期目に入る中で、人材の流動性が低くなっていることがあった。
「彼らは、常に敵を欲しがってるんですよ。だから、共通の敵を作ってあげると、うまく行くと思うんですけどね」
現に、ほら、外国と戦争してる時は、うまく行ってるじゃないですか。
そう言って、イーグルはザズの目の前にあるモニターを指さした。
二代目大統領ロビーは、新しい資源を求めてXX国への侵攻を決定。XX国との第一次ミゼット戦争が勃発する。第一次ミゼット戦争の最中は、復古派と改革推進派の対立は一時休戦状態となった。この戦争を機に、汎用戦闘機DTO(現在のFTOの原型)が完成、オートザムの機械技術は飛躍的に向上し、現在の精神エネルギーを供給減とした機械システムが確立される。
「あー……でも、できるだけどこにも攻め込みたくねえよなあ」
モニターの文面を読んだジェオが、ファイターらしからぬことを言ってぼやく。それは優秀なファイターであると同時に心根の優しい人間であるジェオの本音だろう。
しかし、ジェオとて、ファイターである以上、そして、オートザムの大気汚染が悪化し続けている以上、他国への侵攻というのは、常にありうる選択肢として頭の中に想定されているはずだ。
「僕だってそうですよ」
僕は平和主義者ですから。
イーグルがそういうと、ジェオが「お前が平和主義者ねえ」と言って、疑わしげな眼をした。
「僕は常に、一番、平和的な解決策を考えてますよ」
できることなら、他国への侵攻なんて、しない方がいいに決まってます。そう言って、イーグルはジェオの入れたお茶に口をつけた。
***
あとがき
相変わらずの尻切れトンボ感ですみません;
試験問題を解くザズとボケるイーグルと突っ込むジェオが見たくて書いた話なんですが、オチが見つかりませんでした;
組織の話とか、メカの話とか全然分かんないからボカしにボカしててすみません。
ランティスについても話題に出してもらおうかと思ったんですが、収拾がつかなくなりそうなのでやめました。
オートザム勢のお話は、カタカナもを使いまくれるので楽です。
1/1ページ