for your happiness! for your happiness!

「あなただけ幸せになるなんて許さない」
 その言葉をヒカルに聞かせてしまったのはまずいと思った。
 かといって目の前の男の言葉を遮ることなど、ランティスにはできやしないのである。



 廊下の窓から差し込む星明かりは明るく、ランティスに見せつけるように、男の瞳をはっきりと照らし出していた。怒りに彩られた瞳は感情を叩きつけるようにランティスを睨み付けている。つい先刻までヒカルと二人で森を探索しながら穏やかな時を過ごしていたというのに。男の言葉と感情が穏やかなひと時を急速に遠ざけて行く。
 男が話しかけてきたのは、二人で城に戻り、ヒカルを彼女の部屋に送るその途中のことだった。たまたま廊下の先から歩いてきた魔導師。幾度か城で見たことはあるが知り合いというほどでもない。ランティスはそのまま黙ってすれ違うものと思っていたのだ。
 しかし、彼は、ランティスの姿を認めるとぴたりと立ち止まり、

「あなただけ幸せになるなんて許さない」

 何の前触れもなく、そう言った。
 しかし、その言葉を聞き、彼の瞳を見たその瞬間に、ランティスは彼が何を言いたいのか、彼の意図を理解してしまった。だから、その次に紡がれる罵倒の言葉を、瞬時には遮ることができなかった。彼の怒りは真っ当であり、それを受け止めることは自分の永遠の責務であるという思いがあるからだ。彼が言葉を重ね、彼の怒りの温度が上がって行けば行くほど、ランティスの中に後ろめたさが募る。
 一方で、なぜ、「今」、そのようなことをいうのか、せめて、自分と二人切りの時に、その想いの牙をむけてくれればいいものを。と怒りが浮かんでくるのもまた事実だった。彼の言葉と感情はヒカルが触れるべきものではない。これ以上彼女を傷つけることが、セフィーロの人間に許されるだろうか。
 彼に場所を変えて二人で話さないかと持ち掛けながら、ランティスの心の中では彼の行為に対する怒りと、彼自身に対する後ろめたさが、互いを追いかけあうようにぐるぐると渦巻いている。
 ランティスの申し出を男は拒否した。そして、更に言い募る。

「言い方を変えましょうか。"あなたたち"だけが幸せになるなんて許さない」

 恨みに彩られた瞳がヒカルに差し向けられるのを見て、ランティスはヒカルを背中の後ろに隠すように身体をずらした。彼は端からランティスの言葉に耳を傾ける気はないようだ。
 ランティスは彼をよく知らないし、もちろんヒカルも彼を知らないだろう。しかし、彼はランティスを知っているし、ヒカルを知っている。そして、二人の知らないところで二人に対する恨みや怒りを増幅させてきたのだ。

「あなたはセフィーロから逃げ出したから、ザガート様やエメロード姫の本当の苦しみを知らないんだ」


***


名前は出てきませんが、一応、「彼」(男)がイノーバのつもりで書いてます。
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