ラン光短編集(暗め)
「ヒカル、どうした?」
「え?」
いつの間にかぼぅっとしていたらしい。ランティスの声で我に返ると、青い目が心配そうに顔をのぞき込んでいた。
二人はいつも二人で話をしたり昼寝をしたりする大きな樹の上に座っていた。大きいと言っても所詮は枝の上なので座る場所自体は狭く、二人は肩が触れ合うほど近い位置で並んでいる。
「元気がない」
「大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしちゃっただけだから……」
光は取り繕うように笑顔を作ったが、ランティスの目は心配そうな色を浮かべたままだった。光の額に手を当て、「熱はなさそうだが……」と呟く。
「本当になんともないんだ。心配させちゃってごめんね」
光がそう言うと、額に触れた手がそのまま頬に滑り降りてきた。ランティスの大きな手が頬を包み込む。ランティスの手はいつも温かい。光はその手に自分の手を重ねると、その温もりに甘えるように頬を擦り寄せた。ランティスを見ると、そこにはイーグルがセフィーロの空に似ていると言っていた青い目があった。「あの目に見られると嘘をつけなくなっちゃいます」とイーグルは苦笑していたが、確かにランティスの目は何を隠しても全てを見透かしてしまいそうなほどに澄んでいる。
光はしばらくその目を見つめていたが、耐えられなくなって自分から目を逸らした。
「何かあったのか?」
ヒカルは弱々しく首を横に振った。
「今日はヒカルの"タンジョウビ"なんだろう?」
今度は縦に首を振る。今日は8月8日。光の誕生日だ。
たんじょうび……光は心の中でその言葉を繰り返し、木の下に置きっぱなしの鞄の奥に押し込まれた小さな箱を思い出した。白い箱にピンク色のリボンのかけられたかわいらしい箱。中身はまだ見ていない。
光も朝は「今日は誕生日だ」とわくわくした気持ちでいた。いつもより早く起きて、海に「時間ぴったりね」なんて言われないような時間に家を出た。
しかし、結局、東京タワーに着いたのは「時間ぴったり」だった。
「僕はずっと待ってるから」
“彼”の言葉が頭の中をよぎる。
家の門を出たところで“彼”は待っていた。稽古熱心で、週に何度か顔を合わせる男の子。“彼”は「獅堂さん、急にごめん」と謝りながら、驚く光にかわいく包装された小さな箱を差し出した。「本当は昨日の稽古のあとに渡そうと思ってたんだけど、タイミングなくて……今日、誕生日だよね」
おめでとう。
その言葉に、戸惑いながらも光はその箱を受け取った。「待ち伏せみたいなことしてごめん。あの……よかったら、て、手紙も読んでみて」
“彼”は一方的にまくし立て、光に背を向けてその場を去ろうとしたが、最後に何かを思い出したかのように立ち止まり、「ぼ、僕はずっと待ってるから!」と顔を真っ赤にしながら言い残し、今度こそ本当に走り去っていった。
動揺のあまり、しばらく、光はその場に立ち尽くしていた。はっと気付いて時計を見た時には、約束の時間に間に合うか間に合わないかの時間になっていた。慌てて駅へと走り出す。
駅へ着いて、呼吸を落ち着けてから小さな箱をよく見ると、裏にメッセージカードのようなものが着いていた。電車の中でそれを読んだ。ずっと好きでした、よければ付き合ってください。今は好きな人がいるのかもしれないけど、僕はずっと待ってます。
男の子らしい力強い字を追いながら、小柄な彼と挨拶や短い会話を交わす度に「ランティスもこれくらいだったらバランスいいのになあ」と思ったりしていていたことを思い出した。
「ねぇ、ランティス」
ん? と言うように、ランティスは光の顔を見た。
「わたし……」
今日ね、と続けようとしたところで、光は言葉を飲み込んだ。今日あった出来事を言うべきなのか言わないべきなのか分からなかった。隠し事はしたくない。でも、こんなことを伝えたところでどうなるというのだろう? ランティスを不安にさせるだけのような気がする。結局、光は何も言えずに口を噤んだまま、視線を落とした。
ランティスの手が光の顎を持ち、光の顔を上げさせた。また目が合う。ランティスの瞳が僅かに揺れているのが分かった。先を促すべきなのか、そうでないのか、迷っている。光はそう思った。
しばらくそのまま見つめ合った。2人とも口を開こうとせず、鳥の鳴き声や木々のざわめきだけが聞こえる。
“ずっと待ってる”
なぜかその言葉が頭から離れなかった。突然の告白に驚きはしたけれど、ランティスのことが好きだ。そこは揺らがない。
しかし、ランティスとの間にある長い距離を考えると、「ずっと」という言葉が重く感じる。今でさえ、会いたい時に会えるわけではない。いくら好きでも、ずっと一緒にいたくても、その前には色々な壁がある。
ランティスと一緒にいると楽しいし、安心する。しかし、時々、一年先、五年先、十年先にはどうなっているのか不安にかられることがあった。
もし、あの突然の告白をしてきた“彼”なら? 「ずっと待ってる」それは、同じ世界で、同じ国で生活しているからこそ簡単に言える台詞だった。例えそれが一時の気持ちだとしても、「ずっと待つ」のは決して不可能なことではない。
もしも、“彼”を好きになって“彼”とつき合っていたら、「この先どうなるのだろう」という得体のしれない不安に駆られることもないのだろうか。
ふと思い浮かんだその疑問を、光は慌ててうち消した。
沈黙を破ったのはランティスだった。ふぅ、とため息を吐いて視線を落とす。
「今日はタンジョウビなんだろう?」
もっと楽しい一日であるべきだ、と言うようにランティスは首を振ると、懐に手を入れ、そこから何かを取り出す。
「?」
光が首を傾げると、ランティスは光の手を取り、そっと何かを握らせた。固い金属質の感覚。光はもう一度首を傾げた。
「お前にやる」
自分の手の中を見ると、そこには細かい装飾の施されたペンダントがあった。
「きれい……」
お礼を言うのも忘れてしげしげとそのペンダントを眺めているとランティスの手が伸び、光の首の後ろに回された。一瞬、抱きしめられる時のように体が緊張したが、その腕はすぐに離れて行った。それを少し残念に思いながら、光は自分の胸元を見た。ランティスにつけてもらったペンダントが日差しを反射している。
「もしそれをずっと身につけていてくれたら……」
ランティスはそこで一旦言葉を区切り、もう一度光の手を両手で包み込んだ。温かい体温が伝わってきて、光の心拍音が少し上がる。
「ずっとヒカルの側にいられる」
瞬時にはその言葉の意味を理解できず、光は大きく瞬いた。
「ずっと……」光が小さな声で呟くと、力強い腕にぎゅっと抱き寄せられた。いつもより幾分強いその抱擁に、最初は驚いたが、体中を包むランティスの体温は光に安心感を与えた。力を抜いて大きな体に自分の体を預け、首筋に顔を寄せると、嗅ぎ慣れたランティスの匂いがする。女の子とは違う、男性特有の野性的なそれは、益々光の心を安心させた。
東京でイヤなことがあった時、友だちとケンカしてしまった時、胸が塞いで一人で眠れない夜は、早くランティスに会いたいなと思う。ランティスの温かな体に包み込まれたいと思う。でも、すぐにはそれは適わなくて、セフィーロに行ける土日をじっと待たなければならない。特にそれが平日の月曜日や水曜日だったり、土日に用事があってセフィーロに行けない週だったりすると、心細さはちりちりと光の心の奥に積もった。
セフィーロに電話があってランティスの声を聞けたらいいのに、メールを送れればいいのに。そんなことは無理だと分かっていても、限られた日にしか会うことも連絡を取ることもできない現実は、年を経るに連れて光の心に重くのしかかった。
心だけのつながりでは、時々苦しくなる。それでも、心細くなった時、このペンダントを取り出して見つめたら、ランティスの存在が遠くにではなくて、すぐ側にいるように感じられるかもしれない。
それは一時の気休めに過ぎないのかもしれないけれど、しかし、ランティスが「ずっと側にいたい」と思ってくれているという事実が光には嬉しかった。
「ペンダントありがとう。私、東京に帰る時には、このペンダントもいっしょに向こうに帰れますようにって強くお祈りするね」
そう言うと、ランティスは光の頭をくしゃりと撫でてくれた。その行為を「子ども扱いされてるみたい」と少しイヤに思ったこともあったけれど、その大きな手のひらの感覚が光は大好きだった。光はランティスの体温を感じながら、せめて、一緒にいられるこの時間くらいはランティスのことだけを考えよう、と目を瞑ってその幸せな時間をかみしめた。
「ごめんなさい。気持ちはすごく嬉しいんだけど、やっぱり、受け取れない……」
道場に来た彼に、光は開けていないプレゼント箱を差し出した。彼は黙って光の差し出した箱をじっと見つめていた。「あの、せっかく用意してもらったのに、本当にごめんなさい」光が言い募ると、彼は「いいよ、獅堂さん、好きな相手いるんだろ。どうせ、ダメ元だったんだ」と明るい声で言った。それはどこか無理のある明るさだったけれど、彼はにっこりと笑って光からプレゼントの箱を受け取った。光が何と言うべきか分からずに黙っていると、「ずっと獅堂さんのこと見てたから分かるよ」そう言って彼は、プレゼントを鞄にしまった。
「これからも道場には来させてもらうけど、もしよかったら、今までみたいに仲良くしてね」
彼は光に背中を向けようとし、この前のように一度、立ち止まった。そして、「でも、俺、それでもずっと待ってるから」と言い残し、更衣室の方へ歩いて行った。
“ずっと待ってるから”という台詞に、光はまた不安に襲われそうになった。胸に手を当てる。服の下にある、固い感触はランティスからもらったペンダントで、東京に帰ってきても消えなかったそれを、光はいつも身につけていた。
ぎゅっとペンダントを握り締める。「ランティスと一緒なら大丈夫だ」と誰にも聞こえないような声で呟いた。きっと大丈夫、こうして、ランティスの存在は、ずっと側にあるじゃないか。
そう自分に言い聞かせて、光は自分も着替えるために更衣室へ向かった。
++++++
何とかして、8日に間に合わせるのだ!
とがんばって書いてみました。
ギリギリ間に合いました。
……ギリギリすぎて推敲が殆どできませんでした(言い訳)。
誕生日がテーマなのに題名が「ゆううつ」orz
あんまり明るくないのが問題ですね……。
「え?」
いつの間にかぼぅっとしていたらしい。ランティスの声で我に返ると、青い目が心配そうに顔をのぞき込んでいた。
二人はいつも二人で話をしたり昼寝をしたりする大きな樹の上に座っていた。大きいと言っても所詮は枝の上なので座る場所自体は狭く、二人は肩が触れ合うほど近い位置で並んでいる。
「元気がない」
「大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしちゃっただけだから……」
光は取り繕うように笑顔を作ったが、ランティスの目は心配そうな色を浮かべたままだった。光の額に手を当て、「熱はなさそうだが……」と呟く。
「本当になんともないんだ。心配させちゃってごめんね」
光がそう言うと、額に触れた手がそのまま頬に滑り降りてきた。ランティスの大きな手が頬を包み込む。ランティスの手はいつも温かい。光はその手に自分の手を重ねると、その温もりに甘えるように頬を擦り寄せた。ランティスを見ると、そこにはイーグルがセフィーロの空に似ていると言っていた青い目があった。「あの目に見られると嘘をつけなくなっちゃいます」とイーグルは苦笑していたが、確かにランティスの目は何を隠しても全てを見透かしてしまいそうなほどに澄んでいる。
光はしばらくその目を見つめていたが、耐えられなくなって自分から目を逸らした。
「何かあったのか?」
ヒカルは弱々しく首を横に振った。
「今日はヒカルの"タンジョウビ"なんだろう?」
今度は縦に首を振る。今日は8月8日。光の誕生日だ。
たんじょうび……光は心の中でその言葉を繰り返し、木の下に置きっぱなしの鞄の奥に押し込まれた小さな箱を思い出した。白い箱にピンク色のリボンのかけられたかわいらしい箱。中身はまだ見ていない。
光も朝は「今日は誕生日だ」とわくわくした気持ちでいた。いつもより早く起きて、海に「時間ぴったりね」なんて言われないような時間に家を出た。
しかし、結局、東京タワーに着いたのは「時間ぴったり」だった。
「僕はずっと待ってるから」
“彼”の言葉が頭の中をよぎる。
家の門を出たところで“彼”は待っていた。稽古熱心で、週に何度か顔を合わせる男の子。“彼”は「獅堂さん、急にごめん」と謝りながら、驚く光にかわいく包装された小さな箱を差し出した。「本当は昨日の稽古のあとに渡そうと思ってたんだけど、タイミングなくて……今日、誕生日だよね」
おめでとう。
その言葉に、戸惑いながらも光はその箱を受け取った。「待ち伏せみたいなことしてごめん。あの……よかったら、て、手紙も読んでみて」
“彼”は一方的にまくし立て、光に背を向けてその場を去ろうとしたが、最後に何かを思い出したかのように立ち止まり、「ぼ、僕はずっと待ってるから!」と顔を真っ赤にしながら言い残し、今度こそ本当に走り去っていった。
動揺のあまり、しばらく、光はその場に立ち尽くしていた。はっと気付いて時計を見た時には、約束の時間に間に合うか間に合わないかの時間になっていた。慌てて駅へと走り出す。
駅へ着いて、呼吸を落ち着けてから小さな箱をよく見ると、裏にメッセージカードのようなものが着いていた。電車の中でそれを読んだ。ずっと好きでした、よければ付き合ってください。今は好きな人がいるのかもしれないけど、僕はずっと待ってます。
男の子らしい力強い字を追いながら、小柄な彼と挨拶や短い会話を交わす度に「ランティスもこれくらいだったらバランスいいのになあ」と思ったりしていていたことを思い出した。
「ねぇ、ランティス」
ん? と言うように、ランティスは光の顔を見た。
「わたし……」
今日ね、と続けようとしたところで、光は言葉を飲み込んだ。今日あった出来事を言うべきなのか言わないべきなのか分からなかった。隠し事はしたくない。でも、こんなことを伝えたところでどうなるというのだろう? ランティスを不安にさせるだけのような気がする。結局、光は何も言えずに口を噤んだまま、視線を落とした。
ランティスの手が光の顎を持ち、光の顔を上げさせた。また目が合う。ランティスの瞳が僅かに揺れているのが分かった。先を促すべきなのか、そうでないのか、迷っている。光はそう思った。
しばらくそのまま見つめ合った。2人とも口を開こうとせず、鳥の鳴き声や木々のざわめきだけが聞こえる。
“ずっと待ってる”
なぜかその言葉が頭から離れなかった。突然の告白に驚きはしたけれど、ランティスのことが好きだ。そこは揺らがない。
しかし、ランティスとの間にある長い距離を考えると、「ずっと」という言葉が重く感じる。今でさえ、会いたい時に会えるわけではない。いくら好きでも、ずっと一緒にいたくても、その前には色々な壁がある。
ランティスと一緒にいると楽しいし、安心する。しかし、時々、一年先、五年先、十年先にはどうなっているのか不安にかられることがあった。
もし、あの突然の告白をしてきた“彼”なら? 「ずっと待ってる」それは、同じ世界で、同じ国で生活しているからこそ簡単に言える台詞だった。例えそれが一時の気持ちだとしても、「ずっと待つ」のは決して不可能なことではない。
もしも、“彼”を好きになって“彼”とつき合っていたら、「この先どうなるのだろう」という得体のしれない不安に駆られることもないのだろうか。
ふと思い浮かんだその疑問を、光は慌ててうち消した。
沈黙を破ったのはランティスだった。ふぅ、とため息を吐いて視線を落とす。
「今日はタンジョウビなんだろう?」
もっと楽しい一日であるべきだ、と言うようにランティスは首を振ると、懐に手を入れ、そこから何かを取り出す。
「?」
光が首を傾げると、ランティスは光の手を取り、そっと何かを握らせた。固い金属質の感覚。光はもう一度首を傾げた。
「お前にやる」
自分の手の中を見ると、そこには細かい装飾の施されたペンダントがあった。
「きれい……」
お礼を言うのも忘れてしげしげとそのペンダントを眺めているとランティスの手が伸び、光の首の後ろに回された。一瞬、抱きしめられる時のように体が緊張したが、その腕はすぐに離れて行った。それを少し残念に思いながら、光は自分の胸元を見た。ランティスにつけてもらったペンダントが日差しを反射している。
「もしそれをずっと身につけていてくれたら……」
ランティスはそこで一旦言葉を区切り、もう一度光の手を両手で包み込んだ。温かい体温が伝わってきて、光の心拍音が少し上がる。
「ずっとヒカルの側にいられる」
瞬時にはその言葉の意味を理解できず、光は大きく瞬いた。
「ずっと……」光が小さな声で呟くと、力強い腕にぎゅっと抱き寄せられた。いつもより幾分強いその抱擁に、最初は驚いたが、体中を包むランティスの体温は光に安心感を与えた。力を抜いて大きな体に自分の体を預け、首筋に顔を寄せると、嗅ぎ慣れたランティスの匂いがする。女の子とは違う、男性特有の野性的なそれは、益々光の心を安心させた。
東京でイヤなことがあった時、友だちとケンカしてしまった時、胸が塞いで一人で眠れない夜は、早くランティスに会いたいなと思う。ランティスの温かな体に包み込まれたいと思う。でも、すぐにはそれは適わなくて、セフィーロに行ける土日をじっと待たなければならない。特にそれが平日の月曜日や水曜日だったり、土日に用事があってセフィーロに行けない週だったりすると、心細さはちりちりと光の心の奥に積もった。
セフィーロに電話があってランティスの声を聞けたらいいのに、メールを送れればいいのに。そんなことは無理だと分かっていても、限られた日にしか会うことも連絡を取ることもできない現実は、年を経るに連れて光の心に重くのしかかった。
心だけのつながりでは、時々苦しくなる。それでも、心細くなった時、このペンダントを取り出して見つめたら、ランティスの存在が遠くにではなくて、すぐ側にいるように感じられるかもしれない。
それは一時の気休めに過ぎないのかもしれないけれど、しかし、ランティスが「ずっと側にいたい」と思ってくれているという事実が光には嬉しかった。
「ペンダントありがとう。私、東京に帰る時には、このペンダントもいっしょに向こうに帰れますようにって強くお祈りするね」
そう言うと、ランティスは光の頭をくしゃりと撫でてくれた。その行為を「子ども扱いされてるみたい」と少しイヤに思ったこともあったけれど、その大きな手のひらの感覚が光は大好きだった。光はランティスの体温を感じながら、せめて、一緒にいられるこの時間くらいはランティスのことだけを考えよう、と目を瞑ってその幸せな時間をかみしめた。
「ごめんなさい。気持ちはすごく嬉しいんだけど、やっぱり、受け取れない……」
道場に来た彼に、光は開けていないプレゼント箱を差し出した。彼は黙って光の差し出した箱をじっと見つめていた。「あの、せっかく用意してもらったのに、本当にごめんなさい」光が言い募ると、彼は「いいよ、獅堂さん、好きな相手いるんだろ。どうせ、ダメ元だったんだ」と明るい声で言った。それはどこか無理のある明るさだったけれど、彼はにっこりと笑って光からプレゼントの箱を受け取った。光が何と言うべきか分からずに黙っていると、「ずっと獅堂さんのこと見てたから分かるよ」そう言って彼は、プレゼントを鞄にしまった。
「これからも道場には来させてもらうけど、もしよかったら、今までみたいに仲良くしてね」
彼は光に背中を向けようとし、この前のように一度、立ち止まった。そして、「でも、俺、それでもずっと待ってるから」と言い残し、更衣室の方へ歩いて行った。
“ずっと待ってるから”という台詞に、光はまた不安に襲われそうになった。胸に手を当てる。服の下にある、固い感触はランティスからもらったペンダントで、東京に帰ってきても消えなかったそれを、光はいつも身につけていた。
ぎゅっとペンダントを握り締める。「ランティスと一緒なら大丈夫だ」と誰にも聞こえないような声で呟いた。きっと大丈夫、こうして、ランティスの存在は、ずっと側にあるじゃないか。
そう自分に言い聞かせて、光は自分も着替えるために更衣室へ向かった。
++++++
何とかして、8日に間に合わせるのだ!
とがんばって書いてみました。
ギリギリ間に合いました。
……ギリギリすぎて推敲が殆どできませんでした(言い訳)。
誕生日がテーマなのに題名が「ゆううつ」orz
あんまり明るくないのが問題ですね……。
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