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※イーグルがピンチ:光ちゃんぶちギレ、ランティス「落ち着け」
**********
それは、ランティスと、イーグルと、一緒に森に出かけた時のことだった。青々と茂る木々がそよ風に揺れる穏やかな森を散歩していると、突然、ランティスが足を止めた。
「どうしたの?」と光が聞く前に、ランティスが光とイーグルの肩をぐいと引き、彼の後ろに追いやった。光が事態を把握するよりも、辺りが暗くなる方が早かった。嫌な気配を感じて顔を上げると、目の前で巨大な魔物がぱっくりと口を開けている。どろどろと腐り落ちるような身体をしたそれは、ぞろりと体をうごめかしながら、低いうめき声を上げた。その醜悪な姿にぞっと身体が凍り付く。光を守るように光の肩を抱き寄せたイーグルに、今が非常事態なのだと、ようやく思考が追いつく。
ランティスが呪文を唱える声が聞こえて、光とイーグルの周りを魔法の壁が包み込んだ。魔法剣を取り出したランティスが空に飛びあがるのが見えた。空がカッと光り、稲妻が魔物の上に落ちる。だが、魔物の身体の一部しか崩れ落ちなかった。ランティスの魔法が一撃で聞かない魔物なんて見たことがない。その魔物の手ごわさを知り、光は加勢すべきかどうか逡巡した。
その時だ。イーグルが「ヒカル!」と叫んだ。
「え?」
気付いたら、周囲にごうごうという唸り声が鳴っている。何が起きているのか確かめようとしたが、光は自分に覆いかぶさるようなイーグルの身体に視界をふさがれて、何が起きているのかわからなかった。
唸り声がやむのと、イーグルの身体がぐらりと揺らぐのは同時だった。重い音を立ててイーグルの身体が倒れる。うつ伏せに倒れたその背中から、真っ赤な血が流れ出していた。
「イーグル!」
慌ててイーグルの体を抱き起こす。しかし、イーグルは意識を失ってしまったのか、何も答えない。
「あら、違う子を狙ったのに」
その声に光が顔を上げると、黒いローブを全身にまとった女が立っているのが見えた。
「健気なのね。身を挺して守るなんて」
そう言って、その女性がくすくすと笑う。格好からして魔導師だろう。恐らく、彼女の魔法がイーグルと光を攻撃してきたのだ。
気付けば、ランティスが張ってくれた魔法の壁がなくなっている。ランティスの魔法が破られるなんて……きっと、只者ではない。恐らく、あの魔物の出現とも無関係ではないだろう。
「なんでこんなことを」
「あなたさえ仕留めれられれば、そっちの彼はどうでもよかったんだけれど……わざわざ自分から命を放り出すなんて、お馬鹿さんね」
その小ばかにしたような笑みに、カッと頭に血が上る。
「よくもイーグルを……」
光は自分の体の底から怒りとともに、マグマのようなエネルギーが込み上げてくるのを感じた。
***
「ヒカル! ヒカル!! 落ち着け」
聞き覚えのある声がして、光は我に返った。
「え?」
痛みを感じて手首を見ると、大きく振りかぶった光の手首を、大きな手が強く握りしめている。
「落ち着け」
声がする方へ顔を向ける。そこには、光を見上げる青い瞳があった。
「ランティス?」
その瞳を見つめながら何度も瞬きするうちに、光の前に屈みこんだランティスが、剣を振り上げた光の手首をつかみ、それを振り下ろさないよう止めているのだ、ということに気付いた。
「あれ、わたし…………」
一気に力が抜ける。すると、ランティスの手が光の手を優しく握り直して、そのままゆっくりと下におろした。
頭がぼうっとして、状況が理解できない。
何が起きたんだっけ? 思い出そうとして、すぐに思い当たる。
「あ、イーグル……イーグルは!?」
「イーグルは俺の精獣で避難させた。大丈夫だ」
安心しろ。その言葉を聞いて、気持ちがすっと落ち着いて行くのを感じた。状況を確認しようとあたりに視線をやると、焼け焦げた森の向こうで、半分くらいの大きさになった魔物がのたうち回っているのが見えた。
その隣で、件の女が、肩を上下に揺らしながら、こちらを睨みつけている。ローブはボロボロで、覆い隠されていた彼女の素顔もほぼ見えてしまっている。
よく見ると、ランティスの服もところどころ焼け焦げていた。
「え、これ、全部、わたし……?」
「怒りで歯止めがはずれたんだろう。こんなに強い魔法は見たことがない」
ランティスが背後の敵に目線をやりながら答える。
「おかげですぐに片が付きそうだ」
そう言ってランティスは、光の肩や髪をぽんぽんと叩いた。焦げ目がついた葉がハラハラと落ちていく。
ほっと安心したようなランティスの様子を見て、怒りのあまり暴走してしまった自分をランティスが静止してくれたのだと理解した。
恐らく、ランティスが止めてくれなければ、自分は「やりすぎ」ていたのではないか。
火事でも起きたかのように焼け焦げた森を見渡して、光は初めて自分のやってしまったことを理解する。
「ランティス、ごめんなさい、私……」
「お前が謝る必要はない」
そう言って、ランティスが光の頭を撫でる。
その掌の暖かさに、光はまだ戦闘が終わっていないにも関わらず、とても暖かい気持ちになる。
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それは、ランティスと、イーグルと、一緒に森に出かけた時のことだった。青々と茂る木々がそよ風に揺れる穏やかな森を散歩していると、突然、ランティスが足を止めた。
「どうしたの?」と光が聞く前に、ランティスが光とイーグルの肩をぐいと引き、彼の後ろに追いやった。光が事態を把握するよりも、辺りが暗くなる方が早かった。嫌な気配を感じて顔を上げると、目の前で巨大な魔物がぱっくりと口を開けている。どろどろと腐り落ちるような身体をしたそれは、ぞろりと体をうごめかしながら、低いうめき声を上げた。その醜悪な姿にぞっと身体が凍り付く。光を守るように光の肩を抱き寄せたイーグルに、今が非常事態なのだと、ようやく思考が追いつく。
ランティスが呪文を唱える声が聞こえて、光とイーグルの周りを魔法の壁が包み込んだ。魔法剣を取り出したランティスが空に飛びあがるのが見えた。空がカッと光り、稲妻が魔物の上に落ちる。だが、魔物の身体の一部しか崩れ落ちなかった。ランティスの魔法が一撃で聞かない魔物なんて見たことがない。その魔物の手ごわさを知り、光は加勢すべきかどうか逡巡した。
その時だ。イーグルが「ヒカル!」と叫んだ。
「え?」
気付いたら、周囲にごうごうという唸り声が鳴っている。何が起きているのか確かめようとしたが、光は自分に覆いかぶさるようなイーグルの身体に視界をふさがれて、何が起きているのかわからなかった。
唸り声がやむのと、イーグルの身体がぐらりと揺らぐのは同時だった。重い音を立ててイーグルの身体が倒れる。うつ伏せに倒れたその背中から、真っ赤な血が流れ出していた。
「イーグル!」
慌ててイーグルの体を抱き起こす。しかし、イーグルは意識を失ってしまったのか、何も答えない。
「あら、違う子を狙ったのに」
その声に光が顔を上げると、黒いローブを全身にまとった女が立っているのが見えた。
「健気なのね。身を挺して守るなんて」
そう言って、その女性がくすくすと笑う。格好からして魔導師だろう。恐らく、彼女の魔法がイーグルと光を攻撃してきたのだ。
気付けば、ランティスが張ってくれた魔法の壁がなくなっている。ランティスの魔法が破られるなんて……きっと、只者ではない。恐らく、あの魔物の出現とも無関係ではないだろう。
「なんでこんなことを」
「あなたさえ仕留めれられれば、そっちの彼はどうでもよかったんだけれど……わざわざ自分から命を放り出すなんて、お馬鹿さんね」
その小ばかにしたような笑みに、カッと頭に血が上る。
「よくもイーグルを……」
光は自分の体の底から怒りとともに、マグマのようなエネルギーが込み上げてくるのを感じた。
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「ヒカル! ヒカル!! 落ち着け」
聞き覚えのある声がして、光は我に返った。
「え?」
痛みを感じて手首を見ると、大きく振りかぶった光の手首を、大きな手が強く握りしめている。
「落ち着け」
声がする方へ顔を向ける。そこには、光を見上げる青い瞳があった。
「ランティス?」
その瞳を見つめながら何度も瞬きするうちに、光の前に屈みこんだランティスが、剣を振り上げた光の手首をつかみ、それを振り下ろさないよう止めているのだ、ということに気付いた。
「あれ、わたし…………」
一気に力が抜ける。すると、ランティスの手が光の手を優しく握り直して、そのままゆっくりと下におろした。
頭がぼうっとして、状況が理解できない。
何が起きたんだっけ? 思い出そうとして、すぐに思い当たる。
「あ、イーグル……イーグルは!?」
「イーグルは俺の精獣で避難させた。大丈夫だ」
安心しろ。その言葉を聞いて、気持ちがすっと落ち着いて行くのを感じた。状況を確認しようとあたりに視線をやると、焼け焦げた森の向こうで、半分くらいの大きさになった魔物がのたうち回っているのが見えた。
その隣で、件の女が、肩を上下に揺らしながら、こちらを睨みつけている。ローブはボロボロで、覆い隠されていた彼女の素顔もほぼ見えてしまっている。
よく見ると、ランティスの服もところどころ焼け焦げていた。
「え、これ、全部、わたし……?」
「怒りで歯止めがはずれたんだろう。こんなに強い魔法は見たことがない」
ランティスが背後の敵に目線をやりながら答える。
「おかげですぐに片が付きそうだ」
そう言ってランティスは、光の肩や髪をぽんぽんと叩いた。焦げ目がついた葉がハラハラと落ちていく。
ほっと安心したようなランティスの様子を見て、怒りのあまり暴走してしまった自分をランティスが静止してくれたのだと理解した。
恐らく、ランティスが止めてくれなければ、自分は「やりすぎ」ていたのではないか。
火事でも起きたかのように焼け焦げた森を見渡して、光は初めて自分のやってしまったことを理解する。
「ランティス、ごめんなさい、私……」
「お前が謝る必要はない」
そう言って、ランティスが光の頭を撫でる。
その掌の暖かさに、光はまだ戦闘が終わっていないにも関わらず、とても暖かい気持ちになる。