ラン光短編集(明るめ)
「ランティス、酔ってるの?」
水差しを持つ手を止めて問うと、ランティスが首を横に振るのが分かった。しかし、背中に感じる彼の体温は明らかにいつもより高い。
セフィーロに一泊したその夜、光がランティスの部屋に顔を出すと、彼は一人で晩酌をしているところだった。光も飲めるような年齢になってしばらく経つので、少しだけつき合おうかとも思ったが、彼はすでにかなり飲んでいたようで、心なしか顔が赤かった。
それで少しも酒が回っていないはずはなく、こうして、光が水を入れてあげようと席を立てば、後ろから光を抱き締めてくる。
「酔ってないはずないよ。いつもより体温高い」
そう言って腰に回された手に触れると、その手は「温かい」を通り越して熱くなっていた。
ランティスの酒癖は知っている。実際に見たことはないけれど、イーグルが時々、そのことを種にランティスがからかっていたし、ジェオなどは真面目な顔で「お前、もう、金輪際、ヒカル以外のヤツの前で酒飲むんじゃないぞ」と釘を刺していたりするから。
クレフもその妙な酒癖は知っていたので、「酔うと誰かれ構わず抱きつく」のは彼の昔からの癖なのだろう。
「確かに酔っているが……別に、それが原因で、こうしているわけではない」
耳元で囁く声は、酒のためか少し掠れていて、その艶っぽさに光の胸はどきりと跳ねた。首筋に熱い吐息がかかる。
彼がセフィーロにいる間、もしくは長い旅をしている間、幾度となく酒を飲む機会があっただろうが、ランティスは一体、何人の人に抱きついて来たんだろう……。そのことを考えると、光はどうしようもない嫉妬心に駆られた。
大きな体に抱き締められて、この低すぎるほどの低音に耳元で囁かれれば、少なからぬ女性の心がときめき、ぐらりと傾ぐに違いない。
そんなのいやだ。
光はランティスの熱くなった手を強く握りしめた。この逞しい腕も、抱き締められればふんわりと光を包む彼の匂いも、胸に耳を寄せれば聞こえてくる彼の鼓動も、自分だけのものであって欲しい。彼と出会ってもう長く経つけれど、そんなに頻繁に会えるわけでもない。会えない時間の長さと、遠い距離は光の胸を焦がし、時が経つに連れて光の独占欲は自分でも驚くほど激しく、大きくなっていた。
「ランティス、あんまり、他の人の前でお酒飲まないでね」
そっと彼の顔を見ると、ランティスは青い瞳で光の目をじっと覗きこんできた。顔には彼らしからぬ光をからかうような笑みが浮かんでいる。その含蓄ありげな視線に、光は所在なく顔を背けた。
ランティスが他の誰かに取られちゃうんじゃないかって、けっこう真剣に悩んでいるのに、そんな顔しなくてもいいじゃないか。
一人でむくれていると、ランティスの唇が光の耳に触れるのではないかと思うほど近く寄せられ、光はまたどきりとした。熱い吐息が耳にかかる。
何事かと光が尋ねる前に、ランティスは「妬いてるのか?」と小さな声で囁いた。
それは、普段の彼なら考えられないような台詞だった。「妬いてるのか?」その声は甘く耳朶に浸みこんで、光は頬がかっと熱くなるのを感じた。
反射的に、「そ、そういうわけじゃ……」と否定の言葉が口をつくが、ランティスはそれを無視して光の顎に手を添え、くっと彼の方を向かせる。
「違わないだろう?」
光の返事を待たずにランティスは光の唇を塞いだ。その口付けはいつもより深く、熱く、強引で、光の頭はくらくらした。柔らかい唇の感触は光の思考を溶かす。気付けば光の足は砕けて、ランティスに肩を支えられなければ立っていられなかった。
「……私、ランティスが私以外の人を抱き締めるのは、いやだ」
長い口付けが終わって光が呟くと、ランティスはふっと微笑み、光を安心させるように言う。
「俺にはヒカルしか見えていないから、もう酒を飲んだって、ヒカル以外の誰も抱き締めない」
「本当?」
酒癖なんて自分の意志じゃどうしようもないんじゃないかと光は訝ったが、ランティスが自信ありげに、セフィーロは意志の世界だから、どうにでもなる。と言うので、確かにセフィーロならそんなこともできるのかもしれない。と一応は納得をする。
「約束だよ?」
「ああ」
その頷きは力強く、光の心を安心させた。
ランティスの腕の中は私の特等席だ。
光はランティスの体温を感じながら、もう一度、今度は自分から唇を重ねた。
後日、歓談の席で酒が振る舞われた際、強引にザズに酒を勧められたランティスが海やタータに抱きついてその場は大騒ぎになった。
それを見た光が「ランティスのうそつき……」とランティスがどう弁解しても口を利かないほど不機嫌になったのは、また別のお話。
++++++
何か、甘めなのを書いてみたくなって書いてみました。
言うほど甘くないはずなのに、書いていて恥ずかしさに耐えきれなくなり、
最後に軽くオチがつくことになりました……。
しかし、あれですね。ランティスのあの酒癖は非常にネタにしやすいです。
水差しを持つ手を止めて問うと、ランティスが首を横に振るのが分かった。しかし、背中に感じる彼の体温は明らかにいつもより高い。
セフィーロに一泊したその夜、光がランティスの部屋に顔を出すと、彼は一人で晩酌をしているところだった。光も飲めるような年齢になってしばらく経つので、少しだけつき合おうかとも思ったが、彼はすでにかなり飲んでいたようで、心なしか顔が赤かった。
それで少しも酒が回っていないはずはなく、こうして、光が水を入れてあげようと席を立てば、後ろから光を抱き締めてくる。
「酔ってないはずないよ。いつもより体温高い」
そう言って腰に回された手に触れると、その手は「温かい」を通り越して熱くなっていた。
ランティスの酒癖は知っている。実際に見たことはないけれど、イーグルが時々、そのことを種にランティスがからかっていたし、ジェオなどは真面目な顔で「お前、もう、金輪際、ヒカル以外のヤツの前で酒飲むんじゃないぞ」と釘を刺していたりするから。
クレフもその妙な酒癖は知っていたので、「酔うと誰かれ構わず抱きつく」のは彼の昔からの癖なのだろう。
「確かに酔っているが……別に、それが原因で、こうしているわけではない」
耳元で囁く声は、酒のためか少し掠れていて、その艶っぽさに光の胸はどきりと跳ねた。首筋に熱い吐息がかかる。
彼がセフィーロにいる間、もしくは長い旅をしている間、幾度となく酒を飲む機会があっただろうが、ランティスは一体、何人の人に抱きついて来たんだろう……。そのことを考えると、光はどうしようもない嫉妬心に駆られた。
大きな体に抱き締められて、この低すぎるほどの低音に耳元で囁かれれば、少なからぬ女性の心がときめき、ぐらりと傾ぐに違いない。
そんなのいやだ。
光はランティスの熱くなった手を強く握りしめた。この逞しい腕も、抱き締められればふんわりと光を包む彼の匂いも、胸に耳を寄せれば聞こえてくる彼の鼓動も、自分だけのものであって欲しい。彼と出会ってもう長く経つけれど、そんなに頻繁に会えるわけでもない。会えない時間の長さと、遠い距離は光の胸を焦がし、時が経つに連れて光の独占欲は自分でも驚くほど激しく、大きくなっていた。
「ランティス、あんまり、他の人の前でお酒飲まないでね」
そっと彼の顔を見ると、ランティスは青い瞳で光の目をじっと覗きこんできた。顔には彼らしからぬ光をからかうような笑みが浮かんでいる。その含蓄ありげな視線に、光は所在なく顔を背けた。
ランティスが他の誰かに取られちゃうんじゃないかって、けっこう真剣に悩んでいるのに、そんな顔しなくてもいいじゃないか。
一人でむくれていると、ランティスの唇が光の耳に触れるのではないかと思うほど近く寄せられ、光はまたどきりとした。熱い吐息が耳にかかる。
何事かと光が尋ねる前に、ランティスは「妬いてるのか?」と小さな声で囁いた。
それは、普段の彼なら考えられないような台詞だった。「妬いてるのか?」その声は甘く耳朶に浸みこんで、光は頬がかっと熱くなるのを感じた。
反射的に、「そ、そういうわけじゃ……」と否定の言葉が口をつくが、ランティスはそれを無視して光の顎に手を添え、くっと彼の方を向かせる。
「違わないだろう?」
光の返事を待たずにランティスは光の唇を塞いだ。その口付けはいつもより深く、熱く、強引で、光の頭はくらくらした。柔らかい唇の感触は光の思考を溶かす。気付けば光の足は砕けて、ランティスに肩を支えられなければ立っていられなかった。
「……私、ランティスが私以外の人を抱き締めるのは、いやだ」
長い口付けが終わって光が呟くと、ランティスはふっと微笑み、光を安心させるように言う。
「俺にはヒカルしか見えていないから、もう酒を飲んだって、ヒカル以外の誰も抱き締めない」
「本当?」
酒癖なんて自分の意志じゃどうしようもないんじゃないかと光は訝ったが、ランティスが自信ありげに、セフィーロは意志の世界だから、どうにでもなる。と言うので、確かにセフィーロならそんなこともできるのかもしれない。と一応は納得をする。
「約束だよ?」
「ああ」
その頷きは力強く、光の心を安心させた。
ランティスの腕の中は私の特等席だ。
光はランティスの体温を感じながら、もう一度、今度は自分から唇を重ねた。
後日、歓談の席で酒が振る舞われた際、強引にザズに酒を勧められたランティスが海やタータに抱きついてその場は大騒ぎになった。
それを見た光が「ランティスのうそつき……」とランティスがどう弁解しても口を利かないほど不機嫌になったのは、また別のお話。
++++++
何か、甘めなのを書いてみたくなって書いてみました。
言うほど甘くないはずなのに、書いていて恥ずかしさに耐えきれなくなり、
最後に軽くオチがつくことになりました……。
しかし、あれですね。ランティスのあの酒癖は非常にネタにしやすいです。