ラン光イーまわり
茂みが音を立て、中から小さな動物が飛び出してきた。腕の中にすっぽりと収まりそうなそれは茶色い毛に覆われて、長い耳がかわいらしい。今はその耳をピンと張りつめ、大きな目をくりくりと動かしながらこちらを伺っている。
「わぁ、かわいい」
ヒカルは歓声をあげてその生き物に近づいた。人間に慣れているのだろう。膝をついたヒカルが手を差し出すと、特に警戒する様子もなく、それは素直にヒカルの細い腕に抱き上げられた。ヒカルが頬ずりをすると、小さな舌でヒカルの頬を舐める。
隣を見ると、ランティスが目を細めてその様子を眺めていた。口元が緩み、穏やかな笑みを作っている。
イーグルが起きあがれるほどまでに回復してからどれくらい経っただろう。いつからか、ヒカルが遊びに来ると、ランティスは二人を城近くの森へ連れ出すようになった。その理由は容易に予想がつく。一つはヒカルが無類の動物好きなこと。森へ来ると必ず何らかの動物や精獣が顔を出すので、ヒカルはいつも喜ぶ。そして、もう一つは、イーグルも少しは外へ出て体を動かした方がいいこと。
もちろん、イーグルとて一人で城の庭をウロウロとすることはあるが、いくら庭が広いと言ってもさすがにいつも同じ場所では飽きてしまう。しかし、一人で城外へ出て歩き回ってもよいと言われるほどに回復しているわけではなかった。自分でいくら大丈夫だと思っていても、いつ眠気が襲ってきて倒れるか分からない。それに曲がりなりにもイーグルはオートザムの要人なので、一人でほいほい外を歩き回るわけにも行かない。ランティスは暇を見つけて時々外へ連れ出してくれたが、彼とてそれほど暇な身分ではない。特に最近は忙しいらしく、イーグルの部屋に来て話しているうちに、うつらうつらと眠り込んでしまうことが何度かあった。
そんな彼の久しぶりの休日。ヒカルが来る日に合わせて彼が休みを要請したのか、誰かが気を回してそこに休日を持ってきたのか。イーグルは後者だと予想しているが、とにかく、今日も彼は二人を森に連れだした。
いくら崩壊が終わったとは言え、森の中は危ない。数は少ないが魔物が出ることがある……いつかランティスがそう言っていたことがある。事実、ランティスは微笑みながらもどこか緊張をゆるめず、時々あたりを伺うように視線を動かしていた。
よく見ると顔色が少し悪い。このところ睡眠もろくに取っていないらしいので、本当は、城でゆっくりしていた方がいいことは知っていた。しかし、イーグルは敢えて彼の行動を止めようとはしなかった。
「ランティス、この子はなんていう動物なの?」
ヒカルが無邪気な笑顔をいっぱいに浮かべてランティスに聞いた。ランティスは、あの低い声で、それは最近、新しく見られるようになった動物だから、正式な名前はまだついていない、ということを手短に説明した。大人しく、非常に人なつっこいので、その動物を飼う人間も増えてきているという。
「かわいいですね」
イーグルが声をかけるとヒカルは今度はイーグルにその笑顔を向け、うん、と頷いた。まだまだ幼さの残る愛くるしいその笑顔にイーグルの口元も自然と綻んでいた。
ヒカルが強いことは知っている。あの時に見せた強い言葉や表情をイーグルはこの先一生忘れることはないだろう。しかし、目の前にいるヒカルは全体的にほっそりと華奢で、彼女が「強い人間」である前に一人の女の子であるのだということを思い出させる。
「僕にも抱かせてください」
イーグルが近づくとヒカルは素直にその生き物を差し出す。イーグルがそれを受け取ると、途端にその生き物が体を緊張させるのが分かった。
動物は敏感だ。イーグルが別に小動物など好きではないことも、かわいさに絆されてそれを抱きたいと思ったわけでもないことを知っている。イーグルはただ、ランティスはこのような行動を取らないだろうと思って、なんとなく行動を起こしただけだった。ランティスを見ると、さっきと同じ、柔らかい表情で二人のやりとりを眺めている。
イーグルがおざなりに頭を撫でると、その動物は耳を立て、小さな体をこわばらせて、放せ、と言うように身をよじった。
「ダメだよ、じっとしてなきゃ落ちちゃうよ」
なだめるようにヒカルがその動物に話しかけても、聞かない。それはイーグルから離れ、ヒカルの元へ戻ろうと体を伸ばした。
「嫌われてしまったみたいですね」
イーグルは苦笑して動物をヒカルの元へ返した。
「なんでかなぁ。こんなに大人しいのに」
動物の本能が自分を保護するものとそうでない者を見分けるのだろう。ヒカルの腕の中戻ると、それは安心したように耳を垂れた。ヒカルが頭を撫でると、くん、と鼻をならして気持ちよさそうに目を瞑る。
「ヒカルの腕の中の方が気持ちいいようですね。撫でてもいいですか?」
ヒカルはまた笑顔を浮かべ、頷いた。ヒカルの身長に合わせて身を屈め、そっと柔らかい毛並みを撫でる。動物は一瞬体を強ばらせたが、それだけだった。
「すっかり安心しきってますね」
そう言ってイーグルが顔を上げると、すぐ目の前にヒカルの顔があった。額が触れ合うほどの距離だが、ヒカルは気にした様子もなく、イーグルの目を見つめて「うん、連れて帰っちゃいたいくらいだ」と言った。
なぜ、この子はこんなにも警戒心がないのだろう。イーグルは思った。こんなに近くに男が顔を寄せてきたって、顔を赤らめることもしない。それはそれだけイーグルを信頼しているということで、イーグルはそれが嬉しくもあったが、同時に歯がゆくもあった。少し顔を寄せれば吐息がかかり、その唇を塞ぐことだってできるというのに。
なのに、最近のヒカルはランティスが頭を撫でたり、頬に触れたりすると、少し赤くなる。これまでは平然とランティスに身を任せていたというのに……それはほんの少しだけれど、しかし、明らかなヒカルの変化であり、成長だった。ランティスはそれに気付いているのかいないのか……恐らく気付いているのだろうが、敢えてヒカルへの態度を変えることもなく、いつも通りにヒカルに接しているようだった。
……もっとも、イーグルのいない場所ではどうだか知らないけれども。
ランティスはイーグルと二人きりの時、あまりヒカルのことを喋らない。
イーグルはちらりとランティスに目をやった。やはり、少し顔色が悪い。普段から彼をよく見ていないと分からないほど僅かな変化なので、ヒカルは気付いていないようだし、彼がヒカルには気付かれたくないこともイーグルは知っている。
イーグルは動物を撫でるのをやめ、体を起こすようにしながら、そっとヒカルの耳元へ顔を寄せる。ヒカルがきょとんとするのが分かった。
イーグルは息を吹き込むように、ヒカルにそっと囁く。
「僕はヒカルを連れて帰っちゃいたいです」
「え……?」
ヒカルの頬が赤く染まるのが見えた。その様子がいかにも初でかわいらしく、イーグルはくすりと笑った。
ランティスを見ると、さっきまでの微笑みが消えて、あの美しい青い目を不機嫌そうに細めてイーグルを見ている。
『分かりやすい人ですね』
イーグルは心の中で呟くと立ち上がり、ヒカルに悪戯っぽい笑顔を向ける。
「でも、だめですよ。あなたにもその子にも帰る場所がちゃんとあるんですから」
ね? と言うと、ヒカルの目が大きく瞬いた。少し身体を堅くしているヒカルを残してランティスの隣に戻ると、ランティスが何かを問うような視線を向けてくる。イーグルは人差し指を立てて片目を瞑った。
「ダメです、ヒカルに何を言ったかは教えてあげません」
ランティスの口が何かを言おうと動いたが、すかさず「無理をした罰ですよ」と付け加えると、彼は口を噤んだ。
「いくらヒカルを喜ばせたくても、無理はダメです。自分の体は労ってください」
「大丈夫だ、問題ない」むっとしたように眉を顰めて、言葉少なにランティスは言い切ったが、イーグルはその言葉を信用しなかった。
「何が大丈夫なんですか。そんなに顔色を悪くして」
ランティスはまた何かを言おうと口を開きかけたが、結局なにも言わなかった。何かを諦めたように空を仰ぎ、動物と戯れ始めたヒカルに目をやる。
「大丈夫。ヒカルはまだ気付いてませんよ。ヒカルを心配させたくないんでしょう? ばれないうちに、今日は早めに帰りましょうね」
イーグルが微笑むと、ランティスは不機嫌そうにその申し出を了承した。その様子を見てイーグルは満足げに笑みを作り、ランティスには聞こえないような声で呟く。
「ヒカルには隠せても、僕には隠せませんよ」
++++++
イーグルって、一度好きになると、恋人だろうと友人だろうと、独占欲すごく強そう。
というわけで、イーグルはランティスも光もどっちも独占したいんだ、っていう話を書きたかったんですが…………最後に失速;
私が今までに見てきた素敵イー光には遠く及ばないなぁと読み返して愕然としましたw
「わぁ、かわいい」
ヒカルは歓声をあげてその生き物に近づいた。人間に慣れているのだろう。膝をついたヒカルが手を差し出すと、特に警戒する様子もなく、それは素直にヒカルの細い腕に抱き上げられた。ヒカルが頬ずりをすると、小さな舌でヒカルの頬を舐める。
隣を見ると、ランティスが目を細めてその様子を眺めていた。口元が緩み、穏やかな笑みを作っている。
イーグルが起きあがれるほどまでに回復してからどれくらい経っただろう。いつからか、ヒカルが遊びに来ると、ランティスは二人を城近くの森へ連れ出すようになった。その理由は容易に予想がつく。一つはヒカルが無類の動物好きなこと。森へ来ると必ず何らかの動物や精獣が顔を出すので、ヒカルはいつも喜ぶ。そして、もう一つは、イーグルも少しは外へ出て体を動かした方がいいこと。
もちろん、イーグルとて一人で城の庭をウロウロとすることはあるが、いくら庭が広いと言ってもさすがにいつも同じ場所では飽きてしまう。しかし、一人で城外へ出て歩き回ってもよいと言われるほどに回復しているわけではなかった。自分でいくら大丈夫だと思っていても、いつ眠気が襲ってきて倒れるか分からない。それに曲がりなりにもイーグルはオートザムの要人なので、一人でほいほい外を歩き回るわけにも行かない。ランティスは暇を見つけて時々外へ連れ出してくれたが、彼とてそれほど暇な身分ではない。特に最近は忙しいらしく、イーグルの部屋に来て話しているうちに、うつらうつらと眠り込んでしまうことが何度かあった。
そんな彼の久しぶりの休日。ヒカルが来る日に合わせて彼が休みを要請したのか、誰かが気を回してそこに休日を持ってきたのか。イーグルは後者だと予想しているが、とにかく、今日も彼は二人を森に連れだした。
いくら崩壊が終わったとは言え、森の中は危ない。数は少ないが魔物が出ることがある……いつかランティスがそう言っていたことがある。事実、ランティスは微笑みながらもどこか緊張をゆるめず、時々あたりを伺うように視線を動かしていた。
よく見ると顔色が少し悪い。このところ睡眠もろくに取っていないらしいので、本当は、城でゆっくりしていた方がいいことは知っていた。しかし、イーグルは敢えて彼の行動を止めようとはしなかった。
「ランティス、この子はなんていう動物なの?」
ヒカルが無邪気な笑顔をいっぱいに浮かべてランティスに聞いた。ランティスは、あの低い声で、それは最近、新しく見られるようになった動物だから、正式な名前はまだついていない、ということを手短に説明した。大人しく、非常に人なつっこいので、その動物を飼う人間も増えてきているという。
「かわいいですね」
イーグルが声をかけるとヒカルは今度はイーグルにその笑顔を向け、うん、と頷いた。まだまだ幼さの残る愛くるしいその笑顔にイーグルの口元も自然と綻んでいた。
ヒカルが強いことは知っている。あの時に見せた強い言葉や表情をイーグルはこの先一生忘れることはないだろう。しかし、目の前にいるヒカルは全体的にほっそりと華奢で、彼女が「強い人間」である前に一人の女の子であるのだということを思い出させる。
「僕にも抱かせてください」
イーグルが近づくとヒカルは素直にその生き物を差し出す。イーグルがそれを受け取ると、途端にその生き物が体を緊張させるのが分かった。
動物は敏感だ。イーグルが別に小動物など好きではないことも、かわいさに絆されてそれを抱きたいと思ったわけでもないことを知っている。イーグルはただ、ランティスはこのような行動を取らないだろうと思って、なんとなく行動を起こしただけだった。ランティスを見ると、さっきと同じ、柔らかい表情で二人のやりとりを眺めている。
イーグルがおざなりに頭を撫でると、その動物は耳を立て、小さな体をこわばらせて、放せ、と言うように身をよじった。
「ダメだよ、じっとしてなきゃ落ちちゃうよ」
なだめるようにヒカルがその動物に話しかけても、聞かない。それはイーグルから離れ、ヒカルの元へ戻ろうと体を伸ばした。
「嫌われてしまったみたいですね」
イーグルは苦笑して動物をヒカルの元へ返した。
「なんでかなぁ。こんなに大人しいのに」
動物の本能が自分を保護するものとそうでない者を見分けるのだろう。ヒカルの腕の中戻ると、それは安心したように耳を垂れた。ヒカルが頭を撫でると、くん、と鼻をならして気持ちよさそうに目を瞑る。
「ヒカルの腕の中の方が気持ちいいようですね。撫でてもいいですか?」
ヒカルはまた笑顔を浮かべ、頷いた。ヒカルの身長に合わせて身を屈め、そっと柔らかい毛並みを撫でる。動物は一瞬体を強ばらせたが、それだけだった。
「すっかり安心しきってますね」
そう言ってイーグルが顔を上げると、すぐ目の前にヒカルの顔があった。額が触れ合うほどの距離だが、ヒカルは気にした様子もなく、イーグルの目を見つめて「うん、連れて帰っちゃいたいくらいだ」と言った。
なぜ、この子はこんなにも警戒心がないのだろう。イーグルは思った。こんなに近くに男が顔を寄せてきたって、顔を赤らめることもしない。それはそれだけイーグルを信頼しているということで、イーグルはそれが嬉しくもあったが、同時に歯がゆくもあった。少し顔を寄せれば吐息がかかり、その唇を塞ぐことだってできるというのに。
なのに、最近のヒカルはランティスが頭を撫でたり、頬に触れたりすると、少し赤くなる。これまでは平然とランティスに身を任せていたというのに……それはほんの少しだけれど、しかし、明らかなヒカルの変化であり、成長だった。ランティスはそれに気付いているのかいないのか……恐らく気付いているのだろうが、敢えてヒカルへの態度を変えることもなく、いつも通りにヒカルに接しているようだった。
……もっとも、イーグルのいない場所ではどうだか知らないけれども。
ランティスはイーグルと二人きりの時、あまりヒカルのことを喋らない。
イーグルはちらりとランティスに目をやった。やはり、少し顔色が悪い。普段から彼をよく見ていないと分からないほど僅かな変化なので、ヒカルは気付いていないようだし、彼がヒカルには気付かれたくないこともイーグルは知っている。
イーグルは動物を撫でるのをやめ、体を起こすようにしながら、そっとヒカルの耳元へ顔を寄せる。ヒカルがきょとんとするのが分かった。
イーグルは息を吹き込むように、ヒカルにそっと囁く。
「僕はヒカルを連れて帰っちゃいたいです」
「え……?」
ヒカルの頬が赤く染まるのが見えた。その様子がいかにも初でかわいらしく、イーグルはくすりと笑った。
ランティスを見ると、さっきまでの微笑みが消えて、あの美しい青い目を不機嫌そうに細めてイーグルを見ている。
『分かりやすい人ですね』
イーグルは心の中で呟くと立ち上がり、ヒカルに悪戯っぽい笑顔を向ける。
「でも、だめですよ。あなたにもその子にも帰る場所がちゃんとあるんですから」
ね? と言うと、ヒカルの目が大きく瞬いた。少し身体を堅くしているヒカルを残してランティスの隣に戻ると、ランティスが何かを問うような視線を向けてくる。イーグルは人差し指を立てて片目を瞑った。
「ダメです、ヒカルに何を言ったかは教えてあげません」
ランティスの口が何かを言おうと動いたが、すかさず「無理をした罰ですよ」と付け加えると、彼は口を噤んだ。
「いくらヒカルを喜ばせたくても、無理はダメです。自分の体は労ってください」
「大丈夫だ、問題ない」むっとしたように眉を顰めて、言葉少なにランティスは言い切ったが、イーグルはその言葉を信用しなかった。
「何が大丈夫なんですか。そんなに顔色を悪くして」
ランティスはまた何かを言おうと口を開きかけたが、結局なにも言わなかった。何かを諦めたように空を仰ぎ、動物と戯れ始めたヒカルに目をやる。
「大丈夫。ヒカルはまだ気付いてませんよ。ヒカルを心配させたくないんでしょう? ばれないうちに、今日は早めに帰りましょうね」
イーグルが微笑むと、ランティスは不機嫌そうにその申し出を了承した。その様子を見てイーグルは満足げに笑みを作り、ランティスには聞こえないような声で呟く。
「ヒカルには隠せても、僕には隠せませんよ」
++++++
イーグルって、一度好きになると、恋人だろうと友人だろうと、独占欲すごく強そう。
というわけで、イーグルはランティスも光もどっちも独占したいんだ、っていう話を書きたかったんですが…………最後に失速;
私が今までに見てきた素敵イー光には遠く及ばないなぁと読み返して愕然としましたw
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