ラン光イーまわり
『あんまり無理しちゃダメですよ』
疲れ切ってベッドから起き上がれないランティスを見て、イーグルがくすくすと笑う。
いつもは眠っているイーグルの隣にランティスが立って会話を交わしているのに。今日ばかりは状況が逆だった。
『導師クレフがランティスはたまにとんでもない無理をするからってぼやいてました』
とんでもない無理をするのはお前の方だろう、と言おうとしたのだが、口が動かなかった。一言も喋れないほどに自分は疲れているのだろうか。しかし、疲れ切っている割に自分の身体が妙に軽く感じられた。この調子なら身体を起き上がらせるくらい造作もないことに思えたが、身体は言うことを聞かなかった。
何かがおかしい。そもそも、なぜ、寝台の上に転がされるほどに自分は疲れているのだったか……それもよく思い出せない。しかし、状況のおかしさに反して、心は妙に穏やかで、むしろ、今いる空間に心地よさを感じていた。
『ランティスが無理したら、ヒカルが心配しますよ』
イーグルはいつも、ランティスに自分の言うことを言い聞かせるために、ヒカルの名前を出す。そうすれば、ランティスが反論できないことを知っているのだ。イーグルは、ランティスの性格を本当によく熟知している。出会ってそんなに長い時間が経つわけではないのに。
『あんまり僕たちを心配させないでくださいね』
そう言って、イーグルがランティスの髪を撫でた。その感触よりも、その指の色の白さが嫌に目についた。旅先の国で見た、降りたての雪のように白い色。
確かに、イーグルは色が白かったが、ここまでだったか。
“白かった”
そこで、ランティスは、自分が過去形を用いていることに気付いた。
そして気づいた瞬間、イーグルの手の白さが絵具を塗り拡げるように視界のいっぱいに広がり、確かに見ていたはずの風景が霧散する。ランティスは何もない真っ白な空間に投げ出されて、気づいた。
ああ、俺は夢を見てい
「起きて下さーーーーーーい!!!!!!!」
耳元で鼓膜を破らんばかりに叫ばれて、ランティスの意識が夢の中から引きずり出される。目を開けると、部屋の明るさに目の奥が傷んだ。
「早くしないと、遅刻ですよ! ち・こ・く!」
声の主は、声の音量を下げないままに言葉をつづける。目を瞬かせながら腕に力を入れると、体がゆっくりと起き上がった。確かな現実の感触。
顔を上げると、薄茶の髪を短く切りそろえた少女が、寝台の横に立って、ランティスを見下ろしていた。
「今日は何の日か覚えてますか?」
「……」
夢の余韻を引きずった思考を、現実に引き戻そうと頭を何とか働かせようとするが、まだ頭は完全に覚醒していない。すぐに返事をしないランティスに、彼女ははあーと大きくため息を吐く。
「今日は、親衛隊と一緒に魔物討伐です。遅刻したら、親衛隊長に怒られます」
ああ、そう言えば……と呟くランティスに、彼女は「そう言えば……じゃないですよ! お前がなんとかしろって私が怒られるんですからね」と眉を顰める。
「導師がずーーーっとお昼寝してるから、このまま起きてこないんじゃないかって心配したんですからね」
「……どのくらい寝ていた?」
「昨日、精霊の森から帰ってから、一日ずーーーっと寝てました」
彼女は口では怒りながらも、内心はランティスを心配してくれていたのだろう。「もう、あんまり心配させないで下さいよ」とぶつぶつ呟いている。
「無理するからこうなるんです。もう年なんですから、無理しないでください」
「……」
「私、あいつは時々とんでもないことするから、ちゃんと見張っておけって、導師クレフにも言われてるんですからね」
導師クレフは、彼女にもそんなことを言っていたのか。『お前は時々とんでもないことをしでかすな』そう言って、ため息を吐く導師クレフの様子が頭の中にぼんやりと思い浮かぶ。その記憶のあまりの遠さにくらりと眩暈がした。セフィーロで過ごした日々は気が付けば何重にも折り重なって、導師クレフの元で研鑽を重ねた懐かしい日々も、セフィーロを出た自分の不甲斐なさも、柱をめぐる鮮烈な戦いも、今や「思い出」として現実感を失いつつある。その時、その瞬間の思いが全てとなりふり構わず生きてきたつもりなのに、「今」しかなかったはずの日々はいつの間にか遠い過去になっている。
「やっぱり、疲れてるんじゃないですか?」
彼女は黙り込んだランティスを見て、眉をひそめると、ランティスの顔を覗き込んでくる。
「……少し考え事をしていただけだ」
問題ない。そう言うランティスに、彼女は、「私ももう一人前なんですから、たまには頼って下さいね」と、赤い瞳を細めて、くすりと微笑んだ。その瞳の色と柔らかい微笑みは、ランティスにとって懐かしい人のことを思い起こさせる。
しかし、彼女は確かに、新しいセフィーロに生まれ育った若者で、彼女の瞳の中には常に、セフィーロの未来への希望が満ち溢れていた。そこには過去への郷愁など、一欠けらも存在していない。ランティスは、このセフィーロでそれなりに長い時を過ごしてきた。失われたもの、もう会えない人に思いを馳せるたびに、喪失感に心を引きずられそうになるのだが、こうして、彼女のような若い魔導師の瞳を見ていると、未来を見ることをやめるなと背中を叩かれている気分になる。
「さあ、もう準備しないと間に合わないですよ!」
いつもよりひときわ明るい声を出して、彼女が窓を開けた。部屋の中に涼やかな風が吹き込んで、彼女の色素の薄い髪を揺らす。
城の中よりも、城の外に出ることが好きな彼女は、グルグルと腕を回して「今日は討伐日和ですねー」と張り切ってみせた。
「今日も親衛隊長と導師のやり取り楽しみだなー」
そう言って彼女は悪戯っぽく微笑む彼女と目が合う。その目は、燃え上がる炎のように深い赤色をしている。
そうだ、彼女に似た力強い瞳をしたあの少女なら、きっと、どんなに過去が遠くなっても、過去を振り返ることはしないだろう。
「そういうことは俺に聞こえないところで言え」
新しいセフィーロには、今日も立ち止まっている暇などない。
ランティスは苦笑しながら小言を漏らし、寝台からゆっくりと体を起こした。
***
あとがき……というか設定の説明
相変わらず設定分かりにくい書き方ですみません……。
この話は、(例の)(あの素敵ラン光絵を描かれる)テン様に頂いた、
『ランティスがクレフの後を継いで導師になり、長い長い年月(クレフや光ちゃん、イーグル達ももうこの世からいなくなって相当の歳月が経つくらい)が過ぎた後に昔を思い返したり、セフィーロの過去と未来に想いを馳せたり…みたいなお話』
というリクエストにお答えするつもりで書きました。
なので、
・クレフも光ちゃんもイーグルももうこの世からいなくなってる
・ランティスが導師になってる
っていう設定で、出て来る「彼女」はランティスの弟子のつもりで書いてます。
この「彼女」を光ちゃんとイーグルを足して二で割った感じ(割れるのか)にしたくて、薄茶色の髪で赤い瞳っていう設定にしてみました。
親衛隊長はラファーガのつもりで書いてます。ラファーガとランティスは相変わらずあんな感じで、なんかもう名物みたいになってるっていう(笑)。
何か、いまいちリクエストにちゃんと答えられていない気がするのですが、テン様に捧げます。
こんな感じでよろしいでしょうか……。
セフィーロの暗い過去ばかり妄想してるので、未来を妄想するのは超楽しかったです。
素敵なリクエストありがとうございました!
疲れ切ってベッドから起き上がれないランティスを見て、イーグルがくすくすと笑う。
いつもは眠っているイーグルの隣にランティスが立って会話を交わしているのに。今日ばかりは状況が逆だった。
『導師クレフがランティスはたまにとんでもない無理をするからってぼやいてました』
とんでもない無理をするのはお前の方だろう、と言おうとしたのだが、口が動かなかった。一言も喋れないほどに自分は疲れているのだろうか。しかし、疲れ切っている割に自分の身体が妙に軽く感じられた。この調子なら身体を起き上がらせるくらい造作もないことに思えたが、身体は言うことを聞かなかった。
何かがおかしい。そもそも、なぜ、寝台の上に転がされるほどに自分は疲れているのだったか……それもよく思い出せない。しかし、状況のおかしさに反して、心は妙に穏やかで、むしろ、今いる空間に心地よさを感じていた。
『ランティスが無理したら、ヒカルが心配しますよ』
イーグルはいつも、ランティスに自分の言うことを言い聞かせるために、ヒカルの名前を出す。そうすれば、ランティスが反論できないことを知っているのだ。イーグルは、ランティスの性格を本当によく熟知している。出会ってそんなに長い時間が経つわけではないのに。
『あんまり僕たちを心配させないでくださいね』
そう言って、イーグルがランティスの髪を撫でた。その感触よりも、その指の色の白さが嫌に目についた。旅先の国で見た、降りたての雪のように白い色。
確かに、イーグルは色が白かったが、ここまでだったか。
“白かった”
そこで、ランティスは、自分が過去形を用いていることに気付いた。
そして気づいた瞬間、イーグルの手の白さが絵具を塗り拡げるように視界のいっぱいに広がり、確かに見ていたはずの風景が霧散する。ランティスは何もない真っ白な空間に投げ出されて、気づいた。
ああ、俺は夢を見てい
「起きて下さーーーーーーい!!!!!!!」
耳元で鼓膜を破らんばかりに叫ばれて、ランティスの意識が夢の中から引きずり出される。目を開けると、部屋の明るさに目の奥が傷んだ。
「早くしないと、遅刻ですよ! ち・こ・く!」
声の主は、声の音量を下げないままに言葉をつづける。目を瞬かせながら腕に力を入れると、体がゆっくりと起き上がった。確かな現実の感触。
顔を上げると、薄茶の髪を短く切りそろえた少女が、寝台の横に立って、ランティスを見下ろしていた。
「今日は何の日か覚えてますか?」
「……」
夢の余韻を引きずった思考を、現実に引き戻そうと頭を何とか働かせようとするが、まだ頭は完全に覚醒していない。すぐに返事をしないランティスに、彼女ははあーと大きくため息を吐く。
「今日は、親衛隊と一緒に魔物討伐です。遅刻したら、親衛隊長に怒られます」
ああ、そう言えば……と呟くランティスに、彼女は「そう言えば……じゃないですよ! お前がなんとかしろって私が怒られるんですからね」と眉を顰める。
「導師がずーーーっとお昼寝してるから、このまま起きてこないんじゃないかって心配したんですからね」
「……どのくらい寝ていた?」
「昨日、精霊の森から帰ってから、一日ずーーーっと寝てました」
彼女は口では怒りながらも、内心はランティスを心配してくれていたのだろう。「もう、あんまり心配させないで下さいよ」とぶつぶつ呟いている。
「無理するからこうなるんです。もう年なんですから、無理しないでください」
「……」
「私、あいつは時々とんでもないことするから、ちゃんと見張っておけって、導師クレフにも言われてるんですからね」
導師クレフは、彼女にもそんなことを言っていたのか。『お前は時々とんでもないことをしでかすな』そう言って、ため息を吐く導師クレフの様子が頭の中にぼんやりと思い浮かぶ。その記憶のあまりの遠さにくらりと眩暈がした。セフィーロで過ごした日々は気が付けば何重にも折り重なって、導師クレフの元で研鑽を重ねた懐かしい日々も、セフィーロを出た自分の不甲斐なさも、柱をめぐる鮮烈な戦いも、今や「思い出」として現実感を失いつつある。その時、その瞬間の思いが全てとなりふり構わず生きてきたつもりなのに、「今」しかなかったはずの日々はいつの間にか遠い過去になっている。
「やっぱり、疲れてるんじゃないですか?」
彼女は黙り込んだランティスを見て、眉をひそめると、ランティスの顔を覗き込んでくる。
「……少し考え事をしていただけだ」
問題ない。そう言うランティスに、彼女は、「私ももう一人前なんですから、たまには頼って下さいね」と、赤い瞳を細めて、くすりと微笑んだ。その瞳の色と柔らかい微笑みは、ランティスにとって懐かしい人のことを思い起こさせる。
しかし、彼女は確かに、新しいセフィーロに生まれ育った若者で、彼女の瞳の中には常に、セフィーロの未来への希望が満ち溢れていた。そこには過去への郷愁など、一欠けらも存在していない。ランティスは、このセフィーロでそれなりに長い時を過ごしてきた。失われたもの、もう会えない人に思いを馳せるたびに、喪失感に心を引きずられそうになるのだが、こうして、彼女のような若い魔導師の瞳を見ていると、未来を見ることをやめるなと背中を叩かれている気分になる。
「さあ、もう準備しないと間に合わないですよ!」
いつもよりひときわ明るい声を出して、彼女が窓を開けた。部屋の中に涼やかな風が吹き込んで、彼女の色素の薄い髪を揺らす。
城の中よりも、城の外に出ることが好きな彼女は、グルグルと腕を回して「今日は討伐日和ですねー」と張り切ってみせた。
「今日も親衛隊長と導師のやり取り楽しみだなー」
そう言って彼女は悪戯っぽく微笑む彼女と目が合う。その目は、燃え上がる炎のように深い赤色をしている。
そうだ、彼女に似た力強い瞳をしたあの少女なら、きっと、どんなに過去が遠くなっても、過去を振り返ることはしないだろう。
「そういうことは俺に聞こえないところで言え」
新しいセフィーロには、今日も立ち止まっている暇などない。
ランティスは苦笑しながら小言を漏らし、寝台からゆっくりと体を起こした。
***
あとがき……というか設定の説明
相変わらず設定分かりにくい書き方ですみません……。
この話は、(例の)(あの素敵ラン光絵を描かれる)テン様に頂いた、
『ランティスがクレフの後を継いで導師になり、長い長い年月(クレフや光ちゃん、イーグル達ももうこの世からいなくなって相当の歳月が経つくらい)が過ぎた後に昔を思い返したり、セフィーロの過去と未来に想いを馳せたり…みたいなお話』
というリクエストにお答えするつもりで書きました。
なので、
・クレフも光ちゃんもイーグルももうこの世からいなくなってる
・ランティスが導師になってる
っていう設定で、出て来る「彼女」はランティスの弟子のつもりで書いてます。
この「彼女」を光ちゃんとイーグルを足して二で割った感じ(割れるのか)にしたくて、薄茶色の髪で赤い瞳っていう設定にしてみました。
親衛隊長はラファーガのつもりで書いてます。ラファーガとランティスは相変わらずあんな感じで、なんかもう名物みたいになってるっていう(笑)。
何か、いまいちリクエストにちゃんと答えられていない気がするのですが、テン様に捧げます。
こんな感じでよろしいでしょうか……。
セフィーロの暗い過去ばかり妄想してるので、未来を妄想するのは超楽しかったです。
素敵なリクエストありがとうございました!
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