……っていう夢を見たんだ。

「俺は……」
 ランティスはそうつぶやくと、言葉を選ぶように言いよどんだ。
「ザガートは、お前の方が導師に向いていると言っていたぞ」
 ランティスの青い瞳が動揺したようにゆっくりと揺れた。そのまま目線が外れて、目が伏せられる。その仕草は、彼の兄によく似ていた。
 彼らはよく似た兄弟だった。何よりもその低い声がそっくりだし、それではなく、黒く濡れたような髪の色も、高い背丈も、顔立ちも、強い心も、色々なところが実によく似ていた。きっと、この国にはランティスを見て、ザガートを思い出す者が幾人もいるだろう。それは、何よりも彼自身が痛感していることだと思う。
 しかし、実際に彼らに接し、言葉を交わし、同じ時を共に過ごせば、すぐに彼らに決定的に違う部分があることに気付く。ランティスの魔法が激しく大気を切り裂く一方で、ザガートの魔法は重く、何もかもを飲み込むように唸り、空気を震わせる。ランティスが無表情に見えて奥底に熱を隠している一方で、ザガートにはどこか、ひやりと震えるような冷徹さがあった。そして、そうした根本的な違いをお互いに良く分かっていたからこそ、二人はとても仲の良い兄弟だった。

「俺はザガートがあなたを継ぐところを見たいと思っていた」
 その低い声を雨音に紛れ込ませるようにして呟いた彼は、一瞬、どこか遠くを見るように目を細めた。その仕草も、彼の兄によく似ていた。
「……そうか」
 その一言を返して、そのままクレフは黙り込んだ。

 ランティスは、それが叶うことのない未来だということに、いつ気づいたのだろう。
 かく言う私は、いつ気づいたのだったか。どちらが先に自分を超えるのか、どちらが自分の跡を継ぐのか。気づ けば、思い描いた未来像は姿を変え、二度と叶うことのない郷愁的な虚像と化していた。

 結局、みな、気づくばかりで、それを変えることはできなかったのだ。
 そう思うと、競り上がる無力感に足元をすくわれそうになる。
 すっかり新しい一歩を踏み出したように見えるこの国の上で、まったく新しい国ができあがる過程を眺めながら、クレフの胸の中には、時に次々と郷愁や悔恨が浮かび上がった。あの幼い頃から見守って来た優しい姫や、自分の弟子が不幸な形で死んで行ったことを、事実としては認識していても、感情としては、そんなに簡単に受け入れられるものではないのだと思う。
 クレフは、それに耐えるように目を閉じた。頭の中には、ただ雨の音だけが響いた。
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