……っていう夢を見たんだ。

 雨足はどんどん酷くなり、今では数歩先の景色が見えないほどに激しい雨が地面をたたいていた。雨はざあっと大きな音をたてる。少し前まで聞こえていた鳥のさえずりや、風にそよいで木々がぶつかる音も、雨音にあっという間に掻き消されてしまった。すべての音や気配を飲み込むように降り続ける雨は冷たく、あたりの気温を一気に押し下げた。
 こんなに容赦のない雨を間近で見るのは初めてだ。ただ雨が降るだけでまったくかわり映えのしない風景も、その感慨だけで、いつまでも眺められそうな気がした。
 ……しかし、それも、こうして無事に雨をしのげる場所に避難することができたからだ。もちろん、本格的に雨に降られる前に魔法で雨をよけることも十分に可能ではあるのだが、ランティスの後をついて行った先には、雨を十分に防げるほどの大きな木が、幾重にも重なるように傘を広げていた。その下に飛び込めば、わざわざ魔法を使う必要もなく雨をしのぐことができそうだった。ランティスはよくこの森に来ているようだから、ここにこの木があることも知っていたのかもしれない。
「雨を予測できたのか?」
「……雨の匂いがしたので」
 付き合いの長い「愛弟子」の返事は相変わらずぶっきらぼうで愛想の欠片もなかった。彼はクレフから数歩下がった位置で、いつもの無表情で風景を眺めている。
 雨の匂い……それは、今のクレフの嗅覚では感じられないものだ。今、この国でそんな気配を察知できる者は、この国の外に出たことのある彼しかいないだろう。しかし、そのうち、この国に住むすべての人が、激しい雨が当たり前に感じられるようになる日も来るのかもしれない。
「それに、この森にはよく雨が降る」
 そう言ってランティスは地面の上にせり出した木の太い根の上に腰を下ろした。何度かこの森に足を運んでいるランティスは、森の地形も天気の変わり方も大体のところは把握しているはずだ。その彼が早々に座り込んだところを見ると、この雨はすぐに終わるようなものではないのだろう。そして、この男は雨が上がるまでは城に戻る気がないらしい。魔法を使えばいくら雨が降っていてもそれを防ぐことなど容易だが、こうして何か理由をつけては、少しだけ偵察の時間を伸ばして城に戻ってくるのが彼の常套手段なのだ。
 一瞬、何か小言を言いたくなったが、まあ、急いで帰って片づけなければならないような仕事もないのだから、雨の間くらいいいかと思い直した。崩壊が終わったばかりのセフィーロは忙しい。ランティス並の魔法力を持っている魔導師が他にいないので、彼に相当な負担を強いているのも事実だ。
 新しい始まりを迎えたセフィーロは大地そのものが安定せず、変形を続けており、昨日まで何もなかった場所に急に泉ができたり、森が生まれたり、川の位置が移動してしまったり、時にはいきなり魔物の巣が出てきたりするので、大地そのものを魔法で安定させながら、城の周りに町を作り、少しずつそれを大きくして行っている。その中で高い魔法力を要求されるような作業はクレフかランティスのどちらかで片づけなければならないのが現状だ。直弟子なので、知らず、要求も高くなっていると思う。それらの仕事を文句のひとつも言わずにこなしていることには感謝しなければならないだろう(文句がないのはもともと口数が少ないせいかもしれないが)。

 一度に大量の魔法力を使うとひどく心と身体が摩耗する。クレフ自身も相当疲弊している自覚はあった。


***


ねつ造設定多数。

雨ネタが好きな管理人。
セフィーロには嵐とかないから、セフィーロの面々が雨にびっくりするっていう設定が好きなんです。アニメの「危険な旅」の光ちゃんとランティスの会話、あれは素晴らしいですね。

魔法力が高いのがクレフとランティスしかいないから、二人でこなすしかないという設定は私の願望。クレフは城から離れられないので、城から離れる必要がある作業の際には「お前がやれ」とランティスをパシる。で、互いに相手が相当疲れてんなーと察すると仕事を代わったりする。
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