想い出のカケラ (調整中)
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わがままは 言わないよ
第29話[バイバイ]
*夢島へ来て、漸くボールを使った練習が始まった
ちょっとしたトラブルはあったものの、ここまで生き残った連中全員、失格者無しにポジションテストに合格した
寿「一時はどうなるかと思ったよ」
吾「ま、まずは外野手から制覇していくぜ! ところで、未架はどこに受かったんだ?」
『俺は内野手』
吾「へぇ~、まぁ小せえお前には、うってつけだな」
少し小バカにしたように吾郎は、未架の頭をポンポンと叩く
カチンときた未架は、見上げざまに吾郎を睨んでやる
『俺は元々、内野手だ! アホ吾郎』
吾郎もカチンと来たのか、未架を締め付けにかかった
寿「やめなよ、吾郎君」
呆れた寿也は止めに入る
今じゃ見慣れた光景だ
特に仲の良いこの3人は、やはり夢島組の中でも目立っていた
騒がしさもあるが、特に野球のセンスが飛び抜けているからだ
だが、それを面白く思わない連中も中に入るものだ
有『ねぇ、あんた達』
木「あぁ?」
有『おもしろい情報があるんだけどさぁ』
――――――
寿「じゃあ、召集かかってるから僕は行くけど」
『行ってらっしゃい』
寿「寝ずに、ちゃんとお風呂入るんだよ?」
『わかってるって。 私、仮にも女の子ですけど?』
寿「ここに来てから、僕に何回も起こされているのは誰だっけ?」
あはっと苦笑いをする夏村に、もう一度注意して部屋を出て行った
ぽつんと一人だけ残った部屋に、盛大な溜息が響く
この部屋も当初は、十数人いた部員も日が経つにつれて、一人また一人と辞めていき、残っているのは片手で数えられるほどだ
寿也達バッテリー組はミーティングに呼ばれ、他の部員はお風呂タイム
ボーっと座っていた夏村は立ち上がり、窓から外を眺めた
ここへ来て4ヶ月か・・・
筋肉痛もだいぶ治って、生活にも慣れた
確実に力もついてきてる
だけど、所詮 私のやっている事は・・・
未来の無いこと
『・・・これで、いいのかな・・・・お兄ちゃん』
こんなことをしても結局、試合には出られない
に軍へ戻れば、マネージャーとして皆のサポートをして行かなくてはいけない
解っていた事なのに、なんか遣る瀬無いな
だけど
それだけ、私は野球が好きだっていう事だよね
それで いいよ・・ね
ガラガラ
『・・・・?』
*
寿「だいぶ遅くなっちゃったな」
ミーティングが漸く終わった寿也は時計を見た
時刻は11時を過ぎており、手早く教材を片づけ、部屋に向かった
有『寿也君! 丁度良かったぁ、少し手伝ってくれないかな?』
廊下で呼び止められた寿也は、少し表情が硬くなったが、そこにいた有里は教材を片づけているようだった
以前いざこざがあったとはいえ、女の子一人に片付けさせるには少し量が多く、大変そうだったので寿也は快く手伝う事にした
――――――
今夜は少し風が強く、古い校舎の窓ガラスをいつもよりも強く叩いていく
その一室には、人影が三つ浮かび上がっていた
『どういうつもりだよ!』
声を荒げた未架だが、今は身動きが取れない状況
木「ちょ~っと、面白い情報を仕入れてよぉ」
未架は、いつの間にか部屋にいた木村達に気づかず、坂口に後ろから捕まってしまったのだ
抵抗しようにも、力では敵う筈もなく、相手を威嚇するように目の前の木村を睨みつける
木「お前、オレ達と風呂の時間、特別にズラしてもらってんだよなぁ」
坂「そうそう、手術跡が見られたくないとかなんとか」
『だ・・だから、なんだよ』
木「いんや~、ただお前、いい体してんなぁ、と思ってよ
その鍛えた体、見せてくれよ」
ニヤリと不敵に笑う顔で、未架の顎のラインを指でなぞる
未架は顔を横に振り、木村の手を払った
木「ははっ! そうそう、少しは抵抗してくれねぇと面白味がねぇ」
『な、何言ってんだよ・・・お前変態か? ・・男に・・・こんなこと』
木「この状況でもシラを切れるとは、ずいぶん中身まで男になってんじゃねぇか
なぁ、未架ちゃん」
体中の血が引いていくのがわかる
バレてる
どうして・・・・
*
頭が真っ白になっている未架のシャツの裾からは、木村の手が侵入してきた
『っ!!!』
木「これは残念、晒しか・・」
いやだ・・・
気持ち悪い
初めて男に触られた肌は、虫が這っているような感覚だった
変な汗が背中を伝う中、木村の手はズボンへと伸びていく
木「上がこんだけガードしてんだったら、仕方ねぇ・・・下(こっち)を先に味あわせてもらうぜ」
ゆっくりと下ろされるズボンと下着に未架は、成す術もなく下唇を噛みしめ、ぎゅっと目を閉じるしかなかった
だが、次に声が聞こえた時、未架は瞑っていた目を開き、前を向いた
寿「その辺でやめときなよ」
木.坂「!!!」
その声に、木村も坂口も動きを止めた
部屋の入口には、腕を組んで扉に凭(もた)れている寿也の姿があった
木「・・・佐藤」
坂「何でお前がここに・・・・あいつが足止め」
木「坂口!!」
坂「っ!!」
寿「・・なんのこと」
思わず口走った言葉に、坂口は自分の口を押さえた
だが、寿也はそれを笑顔で返した
寿也お得意の、黒い笑顔で・・
2人はそれに、少々たじろいでいた
木「何だよ佐藤・・・・お前も、混ざりてえのか」
寿「冗談、僕にはそんな趣味ないから」
坂「なんだよ・・それ・・・」
寿「あぁ、それと監督たちには部屋を変えてもらうよう言っておくよ! 仲間入りしたくないからね」
木「何言ってやがる・・・こいつは!」
寿「僕と君たち、監督はどっちの言葉を信じるだろうね」
木「・・・・」
寿「それに、警察に行けばどうなるか・・わかるだろ?」
木「・・くそっ!」
坂「お、俺達は・・あの女に言われただけだからな!」
寿也のドスの利いた声に怯んだ、2人は暴露しながら部屋を出て行った
自分達はやらされていた、とでも言うかのように
2人が出て行った後、すぐに座り込んだ夏村に駆け寄った
*
寿「夏村!」
『はぁ~~・・・ありがとう・・助かったよ』
寿「なんですぐに大声を出さなかったんだ! もし僕が来なかったら」
『だって・・バレたら、もう夢島(ここ)にはいられない
みんなと野球が出来なくなるから』
寿「・・・・・」
どうして・・
どうして キミは こんな時でも野球をとるんだ
無理に笑顔を作ってまで・・・
服を直しながら、大丈夫! と言わんばかりに振る舞う夏村に、寿也の胸は締め付けられる思いだった
それなら いっそう・・・
『どうしたの? とし・・っ!!』
俯き加減の寿也の顔を覗き込んだと同じくらいだろうか
腕を引かれたと思ったら、寿也の腕の中に押し込まれていた
『えっ・・寿・・・?』
寿「・・・・もう・・いいじゃないか」
『ぇ・・』
寿「やめよう・・夏村」
寿の言っている意味が分からない
やめるって・・何を?
『なに・・言ってるの?』
寿「こんな危険を侵してまで、野球をやらなくてもいいじゃないか」
『でも・・・寿と、吾郎と、野球が出来るのは、今だけなんだよ!
大丈夫だよ!! こんなのへっちゃらだし! それに』
寿「僕が嫌なんだ!!」
急に大声になった寿也に、夏村の肩がビクリと弾んだ
痛いくらいに抱きしめてくる腕
まるで、どこにも行かないように、誰にも触らせないように捕まえているみたいだ
寿「・・・ごめん
邪魔はしたくなかった・・・けど、こんなことになるくらいなら、早くニ軍へ帰らせるべきだった
こんなに震えて・・作り笑いまでして・・・大丈夫なわけないだろ、あんなことされて」
『・・寿・・・』
寿「・・・お願いだよ 夏村」
消えそうな声
抱きしめる腕と 心臓の鼓動
全てで私を心配してくれてる
私の我儘に ずっと 我慢していてくれてたんだ
なら
これ以上 我儘は 言えない
・・・ね
*
――――――
次の日の早朝
船着き場には、2人の人影があった
『見送りなんて、よかったのに』
寿「僕がしたいだけだから・・・それに」
『ん?』
寿也は気まずそうに夏村から視線を外した
寿「ごめん・・」
『謝るなら、ここに残るけど?』
寿「・・それは、困るな」
眉を少し下げて微笑む寿也に、夏村もクスリと笑った
実際もう限界だったようだ
監督には、寿也にバレていたことも既に知っていたようだったから
ボーッと出発の汽笛を鳴らす船に、夏村は急いで乗り込んだ
ゆっくりと動き出す船と一緒に、寿也の足も前に進んで行った
『じゃあね、寿!! こっちに帰って来るときは、ちゃんとお出迎えしてあげるから!!』
寿「ぷっ・・うん」
大きく手を振る夏村に右手を上げて応えてくれた
どんどん小さくなる島を眺めながら、ここへきて4ヶ月の事が、走馬灯のように思い出されていった
色々あったけど、いい経験になったと思う
これで本職に身が入りそうだ
ありがとう 夢島
白いカモメが優雅に飛ぶ空には、曇り一つ無く、頬を優しく撫でてくれる風だけが吹いていた
・END・
→あとがき
10.4.28
◆あとがき◇
本当に長い間、お待たせいたしましたι
やっと夢島編の最後が更新できました!!
もう少し、細かく書きたかったんですけど、いじるとまた長引きそうなので、これで更新しました・・・
次回から数話は、特待生組みとのお話になります!
と、言う訳で、寿也君は出てこないと思われます(/_;)(たぶん・・)
代わりに、眉村が登場いたします☆
それでは、次回またお会いいたしましょう☆
*