想い出のカケラ (調整中)
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胸が やけに鳴り響いているのは
なぜだろう・・・
第26話 「野球への思い」
*午前中のトレーニングが終わり、水道で顔を洗っている未架の横に少し遅れて寿也がやって来た
ばしゃばしゃと洗う寿也の横顔を見て呟いた
『余裕そうだな』
寿「え? そんなことないよ、これでもかなり堪えてるよ・・」
言いながら蛇口を捻り水を止めタオルで顔を拭った
冗談っぽく逆にそう返してくる寿也に、苦笑いで答えた
冗談じゃない・・・ι
普通の女の子よりは鍛えられている私でも、こんなハードなトレーニングに余裕なんて持ってられない
身体が悲鳴を上げているのが自分でもよくわかる
2人して笑っていると後ろから忍び寄る一つの影
すると勢いよく後ろから抱きつかれた寿也は、驚きの声を上げた
有『何やってるの? 他のみんなはもう昼食とってるよ!』
寿「あ、はい、すぐに行きます」
有『わかった! あ~・・・と、天宮君も急いでね(^_^)』
そう言うやいなや、来た道を戻って行った
まるで嵐のようだ
『・・あの子、佐藤以外は眼中にないんだなι』
寿「そう・・かな・・・?」
『俺の名前、思い出さなきゃ出てこないくらいだぞ』
恨めしそうな目で見る未架に苦笑いで答える寿也と共に食堂へ向った
*彼女は、柴崎 有里
海堂高校普通科の3年生
何故こんな夢島なんて離れ小島にいるのかと言うと、この時期人手が足りないようで手伝いできていた
中学でも野球部のマネージャーをやっていて、しかもあの周防監督の姪っ子らしい
言うまでも無いが、全く似ていない
そして中学のマネージャーと言うのが、寿也のいた友ノ浦中学である
寿也が野球部に入部した時に、マネージャーをしていたのが有里だったというわけだ
午後のトレーニングが終わり、部屋に戻った頃にはとっくに日は沈み外は真っ暗だった
『はぁ~~~~~・・』
盛大な息を吐き、畳んである布団にダイブした未架
余程練習がきつかったのか布団の柔らかさに身体を預けていた
*時計を見ると、7班の風呂の時間帯だ
寿「じゃぁ、僕らはお風呂に行ってくるよ」
『いってらっさ~い』
寿「そのまま寝ちゃダメだからね?」
今にも寝そうな未架の意識を確認するかのように寿也は声を掛けた
ひらひらと手を振って答える未架に苦笑いを向けると部屋を後にした
ここでのトレーニングが厳しいのは知っていた
生半可な気持ちで挑んだわけじゃない
でも・・さすがにキツイな・・・
そこら中、筋肉痛だしι
もう一つ大きな溜息を吐いた未架は、眉を下げたが幸せそうに笑った
だけど・・・楽しいな
今だけ・・
今だけだから
どうか 私から 野球を奪わないで・・・
*
・・・
・・・・・
誰か 呼んでる・・・?
夏村
お・・兄・・・ちゃん・・?
寿「未架君!」
『・・・ん』
目を開けると、そこには寿也が懸命に自分を起こしている姿があった
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい
呆れ顔の寿也に叩き起こされ、風呂へ行くよう言われた
眠い目を擦りながらフラフラと部屋を出ていった
なんだろうな・・・
一瞬 寿がお兄ちゃんに見えたような・・・
頭を傾げながら、あまり深く考えず風呂場へ向った
*夢島での行動は、ほとんどが班別行動になっている
練習時、食事もちろん風呂の時間も班ごとだ
だが、未架だけは風呂の時間がズレている
さすがの教官たちも男と一緒に入れとは言えず、他の部員とは時間をズラしてくれたのだ
他の部員には、昔の事故の傷跡が酷く他人に見せられるものじゃない、という嘘の理由を伝えた
誰もいない脱衣所で砂や泥で汚れたユニホームを脱いでいく
『はぁー、苦しかった・・一日中これをつけてると案外苦しいもんなんだね』
胸を隠すために巻いていた晒を取ると、かなりの開放感に胸がピンと立つ
自分の胸をじーーっと見つめた夏村は、ムギュッとそれを掴んだ
『(なんか、またおっきくなってない?・・・これι)』
女の子の悩みの種でもあるその豊富な胸も、今の夏村にとってはただの邪魔なものである
まぁいっか・・とあまり興味のない夏村は、そのまま風呂場の扉を開けた
有『あら?』
『え・・・』
シーンと沈黙の続く中、目の前に現れた人物を一生懸命認識しようと停止中の頭を動かす夏村
チン! と閃(ひらめ)いたかのようにその人物の名前が出て来た
∑し、柴崎有里さん??!!!
『ごっ・・・ごめん!!』
ピシャリと勢いよく扉を閉めた
な・・何であの人が??!
ていうか、これはかなりヤバイんじゃ・・
かなりパニクっている夏村の後ろから声が聞こえ、さらにビクつく
*
有『謝ることないんじゃない? 女同士だし! 天宮さん』
心臓があり得ないぐらい大きく波打っているのが嫌でもわかる
しかも今の口ぶりからすると、前から知っていた風だった
焦りと不安から冷汗が出る
すると、有里はクスリと笑った
有『そんなに身構えなくてもいいのよ
教官から、あなたのことは聞いているから』
『そ・・・・・なんですか』
ゆっくりと後ろを振り向く夏村は酷く安心した
それならそうと一言告げてくれてもいいものを・・・心臓に悪い
寿命が縮まった思いだった
有里はそのまま夏村の横を通り過ぎて、身体の水滴を拭き取っていた
有『それより、あなた物好きね』
『え?』
有『だって、男装してまでこんな所に来ようなんて普通思わないでしょ?』
それは、ここへ来る前に二軍監督である静香にも言われたことだった
普通じゃない・・・
じゃぁ・・普通って何?
オシャレして着飾って・・それが普通なの?
有『もしかして、誰かの追っかけ?
あ、でもここまでいくと・・ストーカーっぽいよ?』
『・・・そうですね』
有里は馬鹿にしたような口ぶりで言い放ったが、俯いていた夏村の口元は不敵に笑っていた
『野球を追っかけてここまで来ちゃったんです』
夏村は綺麗に笑うと風呂場に入って行った
有『・・・何あの子』
嫌味で言ったつもりが、それをものともせずに笑って返されて面白くない有里は、下唇を噛みしめていた
*ズカズカと歩く夏村の足取りは、風呂場の中央付近で止まった
俯き加減の夏村の拳は、爪が食い込むほど握り締められていた
悔しかった
今まで私がやってきたことも、大好きな野球への思いも、全部が否定されたみたいだった
私は恐らく、社会の道理から外れたことをしている
でも、そこまでしなくちゃいけなくしたのは、その道理だ
それを分かっているから稚紗さんも何も言わず、私を送り出してくれた
私の我儘を聞いてくれた
だから、こんなところで挫けてなんていられない
例え今だけだとしても、今しかないから・・
野球が出来るのは、もう今しかないから・・・!
だからここまで来たんだ
野球が出来るなら、どこへだって・・・
野球は 私にとって
大切な 繋がりだから・・・
*
まだ3月の寒い中、ふと目が覚めた
真っ暗なはずの部屋の中は、ほんのりと明かりが灯っていた
明かりが強くなる方へ目を向けると、そこには古臭さを漂わせるスタンドが電球一つで淡い光を放っていた
その明りを頼りに、何やら作業をしているお隣さん
『おじいちゃんとおばあちゃんに手紙か?』
寿「あっ、ごめん、起しちゃった?」
紙にペンを走らせていたのは寿也だった
ころころと寿也の隣まで転がっていき聞いてみた
寿也は少し嬉しそうに答えていた
その優しい笑顔が、寿也が祖父母のことをとても大切にしていることがわかる
眠たい目を開け寿也の横顔を見た
『律儀だな』
寿「別にそんなんじゃないよ
僕の我儘を聞いてくれたおじいちゃんたちを少しでも安心させたいから・・・
せめて、僕が元気でやっていることぐらい知らせたくて」
『そっか・・・』
自分も送ってみるか・・・とも思ったが、手紙なんて送ったら安心させるどころか、変に誤解して殴り込みに来そうなので止めた
*いつの間にか静かになっていることに気付く寿也は横に目をやった
案の定、未架はスースーと寝息を立てて深い眠りに入っていた
寒いためか身体を丸めて、眉間に少し皺が寄っていた
寿也はその寝顔を微笑ましく思い、未架の下敷きになっている自分の掛け布団をそっと抜き、上に被せてあげた
すると、徐々に眉間の皺が取れていった
少しボサついた髪に触れて耳に掛けてやる
寿「(かわいいな・・)」
それは、ごく自然に出てきたことだった
そのことに驚いた寿也はブンブンと首を横に振った
な・・何を考えてるんだ僕は///
一緒の布団にいるせいか、熱が伝わってくる気がしてどんどん顔が熱くなる
た・・確かに、小さくて華奢で女の子みたいだけど
未架君はれっきとした男の子で・・・
って・・あ~~~もう! 何考えてるんだよ!!
ダメだ・・こういう時は寝るに限る
そうだ! きっと僕は疲れてるんだ!
と、自分で自分に暗示をかけ手紙とペンを片付けてスタンドの灯りを消した
その時の僕は 頭がいっぱいで重大なことに気付いていなかった
彼の口から聞くはずのない言葉を 彼は口走っていたのだから
*END*
◆あとがき◇
ヒロインの正体、さっそくバレてますねぇ
寿くんは寿くんで、何やらいけない道へ足を突っ込みつつありますVv
なんか・・楽しいな(*^_^*)
では、この辺で失礼します☆
*08.6.8