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桜の木にも春を告げる蕾が付き始める中、夏村たちの新たな野球生活がスタートした
第24話 [夢島]
*
『じゃあ、行ってくるね』
稚『ああ、気ぃつけてな! 特に飢えた男共にな』
稚紗は煙草を口にくわえながら、新しい高校生活をスタートさせる夏村を見送った
元気良く玄関を出る夏村の肩からは大きな荷物がかかっていた
そして何故か、着ている制服はグレーの学ラン?
只今、世間では春休み真っ只中
海堂高校のグラウンドには大型バスが2台止まっていた
同じように何十人もの生徒が大きな荷物を持ち、集まっていた
その中には、セレクション組である三宅・寺門・泉の姿があった
泉「さすが推薦組はそうそうたる面子だな」
三「どいつもこいつも全国レベルのチームの主力やで!」
3人隅っこで他の部員の肩書を気にしていた
そこに同じ格好をした吾朗と寿也がやってきた
ビビる3人に対し、セレクション組ということを大声で言い出した吾朗
吾朗の呆れるぐらいの前向きな発言に3人は何も言い返せずにいた
寿也にいたっては、吾朗君らしいと笑いを漏らしていた
そんなセレクション組を見つめる小さな視線
時間になり強面(こわもて)な2人組が、全員速やかに持ち物検査を受け、バスに乗るように指示をした
野球部の施設も寮も本校にはないからである
*持ち物検査を担当しているのは、背の高い教官、乾
持ち物検査を受け、バスに乗り込む野球部員たち
没収されるものは実に様々
携帯・音楽機器・ゲーム機などなど・・・中にはエロ本を没収されている部員もいた
傍から見るとなんとも恥ずかしい奴らだ・・・三宅が良い例である(←なんでやねん!Σ)
寿也の荷物からは手ごろな大きさの紙袋が出された
何が入っているのか質問され、寿也は控え目に答えた
それは今朝、見送りに来てくれた綾音からもらったクッキーだった
乾「ははは、お前は今からピクニックか遠足にでも行くつもりか!? あん!?」
そう言い放ち、その場で紙袋の中身を下にばら撒きクッキーを踏み潰した
これにはさすがの寿也も怒らずにはいられない
乾に抗議していると、サングラスをかけ竹刀を持ったもう一人の教官・周防が寿也めがけて竹刀を振りかざした
誰もがその行動に驚いた
が、竹刀は寿也の顔の数センチ先で止まっていた
驚いたのは教官2人も同じであった
『ストップ』
乾「何だ貴様は!」
『いくらなんでもやり過ぎなんじゃないですか?』
周「・・・」
乾「何だと・・・監督」
周「これがここのやり方だ! 文句は言わせねぇ・・・いやなら尻尾巻いて帰るんだな」
寿也よりも遥かに小柄の少年が周防の竹刀を掴んで止めていた
周防はサングラス越しに睨みを利かせ、ドスの利いた声で忠告した
少年は押し黙り、周防をキッと睨んだ
『俺たちは犬や猫じゃありません、こんなモノ使わなくても一度口で言えば理解できます!』
少年は竹刀から手を離した
離れた竹刀を周防は自分の元に戻す
周「(・・・気に入らん目だ)
まぁいい・・これからてめーらが行くとこは、遊園地でも楽園でもねぇ! 地獄だ!!
クッキーみてーな甘ったれた気分は今のうちに捨てとくんだな!!」
寿也たちを嘲笑(あざわら)うかのように、怪しい笑みを浮かべる周防
そんな周防を臆することなく少年は睨みつけていた
*持ち物検査も終り、全員バスに乗り込んだ
先ほど寿也を助けた少年も乗り込み荷物を棚の上に上げようとしていた
だが、小柄なためか中々棚上に荷物が乗ってくれない
大苦戦しているとふっと荷物が軽くなった
あれ? と思い後ろを向いた
国「大丈夫?」
『・・・ありがとな!』
代わりに荷物を乗っけてくれたのは、くりっとした目が印象の国分だった
ちょうど隣同士だったため奥に座り国分は通路側に座った
国「あ・・あの、僕国分っていいます! 国分篤・・君は?」
『天宮蒼空、よろしく!』
国「(ドキッ)」
蒼空の笑顔に頬を赤らめる国分
か・・かわいいな・・・///
・・同じ男の子だとは思えない
蒼空の笑顔の餌食第一号である
そんな国分を余所に、外の景色をぼんやりと眺めていた
『・・・あの教官を見る限り、静香さんが猛反対したのがわかるかも・・・・・こりゃ、スパルタなんて次元じゃないかも・・・ね』
海堂高校厚木二軍寮 監督室
静『駄目よ、許可できません』
*監督室からは声の高い女性と、まだ幼さが残る可愛らしい声がぶつかり合っていた
静『あなたは選手じゃなくマネージャーなのよ!』
『それはわかってます・・それでも私は行きたいんです!』
室内には野球部のマネージャーである夏村の姿があった
夏村の前には、二軍の美人監督である早乙女静香が座っていた
『夢島に行って皆と一緒に生活すれば、選手たちの癖や習慣、メンタル面も把握できる! それはマネージャーとして知っておかなくちゃいけないことなんじゃないんですか!?』
静『・・それはそうだけど・・・』
夢島とはその名のごとく、海堂所有の島である
毎年、推薦組・セレクション組はこの夢島で基礎トレーニング・肉体強化を行うところだ
夏村はその夢島への参加を希望しているが、監督である静香に許可してもらわない限り、特待生の夏村が参加することは出来ない
夏村の押しに少々怯(ひる)む静香
だが、代わりに飛んできた低音の声
静香の隣に仁王立ちで立っていた体格のいい女・・・じゃなかった、トレーナーの泰造さん、一応性別は男である・・ι
泰「男ならともかく、あなたのような女の子があそこの過酷な練習についていけるはずないでしょ! それに周りは皆男なのよ、参加させることはできないわ」
『・・・男なら、いいんですか・・?』
泰「ええ」
冷たいようにも聞こえるが夏村を心配してのことだ
夢島の練習がどれほど過酷か海堂関係者なら知っているはず
なにより思春期の男子の中に可愛い子ウサギを入れられるわけもなく、夢島行きを反対している
『本当ですね!? やったー!』
泰「えっ?・・夏村ちゃん、まさか!」
『もう止めてもダメですよ♪ 泰造さんがいいよって言ったんですからね!』
夏村は何かを思いつき、くるっと身を翻(ひるがえ)した
その背後から夏村の考えを察した泰造が止めに入るが、勝ち誇った夏村を止められるはずもなかった
*夏村が監督室から出ようと、ドアノブに手をかけた時だった
後ろから静香の声が聞こえた
静『はぁー・・わかったわ、好きにしなさい
夢島の方の教官には一応、伝えておくから』
『ありがとうございます静香さん!』
静『・・・・一つ、教えてくれない?』
今度こそ出ようとしたが、そんな声が聞こえたためピタッと動きが止まった
静『どうしてそこまでして夢島へ行きたいの? そりゃ、その考え方は立派よマネージャーとして・・・・でも、普通ならそこまで考えないでしょ?』
普通の女子高生が、そんな危ない橋を自分の意志で渡るはずがない
でも、夏村はその危険な橋を自ら渡ろうとしている
その理由がどうしても知りたい静香
もしかしたらキレイ事を並べただけで、不純な動機かもしれない・・・そう思いたかった
だが、振り向いた彼女の言葉に静香は何も言えなかった
『・・・今この期を逃したらこの先、野球が出来ることは無いと思います・・・ただ・・野球がやりたい、野球が好きだから行きたいんです』
パタリと閉じるドアをじっと見つめている静香
泰「・・・なるほどね、海堂があの子をマネージャーに選んだ理由がわかった気がするわ」
静『・・・・そうね
でもあの子、大丈夫かしら・・・・
なんか鈍感そうだから・・食べられなきゃいいけど・・・・』
泰「大丈夫よ! そんなことする奴は、あたしが絞めてあげるからv」
一瞬、寒気がした静香であった
*野球部員たちを乗せたバスは、部員たちの予想していた厚木二軍専用練習場ではなく、とある港に着いていた
部員たちがざわめく中、乾は全員港に止まっている船に乗るように言った
そしてスタスタと2人は先に船に向かった
部員たちは何が何だかわからず、立ち尽くすしかなかった
平然としているのは蒼空一人だった
船は出航し、部員たちは各々不安を抱えながらも、どうしようもできない今の状況下で本を読む者・寝る者など不安を打ち消そうと気を紛らわしていた
それはセレクション組とて同じこと
ただ一人、吾朗だけは呑気に眠りこけていた
寿「あ!」
三「どないしたん?」
寿「ごめん、ちょっと行ってくるよ」
3人は頭に?を浮かべ、寿也の向かう先をじっと見つめていた
寿也の向かった先には、一人何やら格闘している蒼空がいた
寿「あの、ちょっといいかな?」
『ん?』
そう言って蒼空の前に腰を降ろした
寿「さっきはありがとう、おかげで助かったよ!」
『別にいいよ、それに困った時はお互い様だろ!』
寿「クスッ そうだね! 僕は佐藤寿也よろしく」
『天宮蒼空だ、よろしくな!』
何か不思議だな・・寿と自己紹介してるなんて
あの時はオドオドしてたのに(笑
でも、案外気付かないもんだね・・・幼なじみでも
天宮蒼空が夏村だなんて幼なじみの寿也でも気付いていない
そう、夏村が思いついたこととは夢島組に男装して潜り込むということだった
*
寿「あれ? どうしたんだい? それ」
寿也が指差したのは蒼空の指
蒼空は慌てて隠した
寿也はお構いなしに隠した手を引っぱりだして赤くなっている指を見た
蒼空の指には小さな木の欠片が刺さっていた
寿也が声をかけた時、何やら格闘をしたいたのはこれだった
寿「これ、もしかしてさっき竹刀で・・」
『・・・べ・・別に大したことじゃないから・・・はは』
寿「・・・ピンセットか針持ってない?」
『針ならあるけど・・』
寿「貸して」
蒼空はよくわからないうちに、寿也に針を渡した
寿也はその針を一度口に含み、蒼空の左手を取った
『お、おい』
寿「じっとしてて」
針で刺さっている部分をちょんちょんと取ろうとしているのがわかる
痛くないように優しく
やっぱり、寿は優しいなぁ・・・
こんな時間が私にとってはすごく安心する
最後にフッと息を吹きかけて、取れたよ! と言ってくれた
『あ・・りがとう///』
寿「どういたしまして」
これから行く地獄を忘れさせるほど場が和んでいた
私の試練は、まだ始まってはいなかった
*END*
*
◇あとがき◆
海堂編スタートしました!!
ヒロインは男装をして夢島組に潜入です☆
書いているうちに先のことを妄想してしまって、なかなかこの話が進まなかったんです(T_T)/~~~
いろいろと妄想を・・・(キャッv)
それでは海堂編も、皆様が楽しんでいただけるように頑張りますので、温かく見守って頂ければ幸いです☆
*08.1.1