想い出のカケラ (調整中)
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寿「あれ? 試合9時半開始になってる
10時半かと思ってたよ」
球場に遅れて来た寿也と倉本は冗談交じりに、試合終わっているんじゃないか? と話をしながら中に入って行った
そこで目にしたものは・・・
第19話 [進む道]
*寿也は自分の目を疑った
まさか、あの吾朗が19点も取られるなんて今までになかった
そして4回コールド負けということも信じられなかった
一体何が起こったのか全く分からなかった
海堂側ベンチには夏村の姿があった
しかし、その表情は浮かない顔だった
眉「どうした未架」
『・・・なんでもないよ・・・おめでとう』
眉「ああ・・」
眉村に一瞬笑顔を向けたが、すぐにグラウンドへ直った
三船ベンチには、放心状態の吾朗がいた
『(・・吾朗・・・)』
眉「・・・・」
選手控室
ベンチには、うなだれて座り込んでいる吾朗がいた
小森達はそんな吾朗に気を遣い先に控室を出た
*カチャと言うドアの開く音を聞き、吾朗はそちらへ顔を向けた
今の試合が信じられない、と言わんばかりの顔をした寿也が立っていた
そしてその真意を知るために、吾朗に何があったのか尋ねるが、何があったも何も見たままだった
海堂付属と戦って海堂の強さを肌で実感した・・・点差以上の力の差を
自分達は大したことない、と自分の力の無さを罵(ののし)る吾朗
こんなにも吾朗の怯えている姿を見るのは、初めてだった
言葉の出ない寿也を尻目に、後ろから高笑いが聞こえた
開けっぱなしのドアには、スカウトの大貫とさきほどまで試合をしていた眉村が立っていた
大貫は二人に嫌味を言うかのように、海堂と吾朗たちの野球の差を自慢げに話した
大「残念だが、君らに空けて用意しておいた特待生枠は今日付けでキャンセルさせてもらう!」
吾・寿「「・・・・!」」
大「それを伝えに来ただけさ」
出ていく大貫達の後を追って吾朗も外へ出た
歩いているはずの大貫達は、控室を出てすぐのところで立ち止まっていた
眉「未架、どうしたこんなところで?」
『・・・眉村・・大貫さん』
吾朗の様子を見にきたのだが、まさかこの二人がいるとは思いもしなかった
そんな夏村に吾朗や寿也も気が付いた
大「なんだ、海堂の控室は向こう側だぞ 迷ったのか?」
『ぁ・・ぃぇ』
ちらっと後ろを見た大貫は、夏村が何でここに来たのかだいたい予想はつく・・が、あえて質問をした
それは、敗北者に情けは無用だからだ
余計な同情は次の試合にも少なからず影響が出る
海堂では、してはいけないことだ
*
大「ああ・・・万一、気が変って海堂で野球をやりたくなったら、二ヶ月後のセレクションでも受けに来い
万が一、合格できれば入れてやる」
何も言えないで立っている二人に大貫は背を向け高笑いをした
眉村は、困っている夏村の肩を抱き、来た道を引き返して行った
それを黙って見ているしかできない二人に、ちらっと夏村は視線を送った
寿也だけは、それに気づいたのか目が合った気がする
中学野球の終わった3年は、いよいよ高校進学・・・つまり受験生へと変わってゆく
あんなにも毛嫌いしていた海堂高校に、父・英毅の言葉もあり行くことを決意した吾朗
その決意を寿也ならわかってくれる、そう思い話したが寿也の答えはそれとは正反対だった
学校帰り、偶然にもランニング中の吾朗に会った
公園のブランコでセレクションを受けることを聞いた
吾「なのによ! 寿也の奴、オレとならどこだっていいって言ってたくせに海堂だけはない・・とか言ってんだよ!・・・あいつなら、わかってくれると思ったのに」
怒っていたかと思えば、急にしんなりする吾朗に夏村は自分の思ったことを言った
『寿って我慢し過ぎる時あるよね・・・だから周りに誤解を生みやすい』
吾「・・・んなこと、わぁってるよ」
『寿が本トに海堂へ行きたくないと思ってる?』
吾「あいつが、そう言ったんだから・・・」
『私は違うと思うな・・・
だって野球の名門・海堂にピッチャー本田吾朗だよ! 寿にとってこれ以上ないってぐらい嬉しい話だよ?!
・・でも海堂は野球の名門校と同時に私立でもあるから・・・』
吾「!!・・・まさか、あいつ!」
夏村に言われ、ハッとした吾朗は寿也の家に全速力で走りだした
*寿也の祖父母は、自分達の年金だけでは寿也を高校・大学へ行かせてやれないと、再び職に就いたほどだ
特待生を引き下げられた以上、寿也が海堂へ行く術はなかったのだ
案の定、寿也はお金のことで祖父母に話すらしていなかった
そんな寿也に祖父は胸の内をぶつけた
自分の進みたい道に進みなさい・・・と
その言葉に寿也はどれだけ感謝しただろう・・・
温かい家族の応援に、寿也もセレクションを受ける決心をした
10月にあるセレクション・・・もとい野球部の入部テストに合格するために吾朗・寿也そして、小森は夏休み返上でトレーニングを開始した
中学3年最後の夏休みも残りわずか
清水と小森の企画で、三船野球部とソフト部で卒業旅行へ出掛けて行った
その頃、黙々とトレーニングに励む寿也はいつもの走り込みのコースを走っていた
公園の並木道を走っていると、向こうの方にぽつりと立っている三つ編みをした女の子が目に入った
寿「綾音ちゃん?」
名前を呼ぶと、びっくりした表情で振り向いた
振り返った綾音は寿也の姿が目に飛び込んだ瞬間、リンゴのように赤くなった
どうしたの? と聞く寿也に、お弁当の差し入れを持ってきたと言って、暫しの休憩をするためベンチに座った
おいしいと食べる寿也を見て、とても幸せそうに笑う綾音だったが一瞬、あの日のことが頭をよぎった
そしてつい聞いてしまった
綾『あの・・・先輩』
寿「ん? なんだい?」
綾『地区大会の時・・・そ、その・・・・・キス・・してましたよね////?・・誰かと・・・/////』
寿「(ドキッ)////!!」
突然の綾音の質問に寿也は、口の中のモノを危うく出すところだった
*見られていたことに今更ながら恥ずかしく思う寿也に、綾音はその女の子が別の誰かと公園で抱き合っていたことを話した
寿也には、その相手が吾朗だということはすぐにわかった
夏村の性格からして、まず間違いはないだろう
寿「あれは、僕が悪かったから・・・」
苦笑いする寿也に、綾音は納得がいかないのか俯いてしまった
綾『・・・あの人・・・・佐藤先輩の・・好きな人なんですか?』
寿也も鈍い方ではないので、綾音の気持ちには薄々気づいていた
なら、ウソをついて期待を持たせるようなことはしてはいけない。遠まわしにしろ断るのなら、自分の本当の素直な気持ちを答えるのが相手への礼儀だと思い話した
寿「少し前までは、そうだったんだけど・・・好きって言うのとは少し違うかな?
小さい頃から一緒にいるのが当たり前で、隣にいることが自然だったんだ
だからって、家族や友達なんかとは違う・・・うまく言えないけど、守ってあげたい、僕が守りたいって思える子なんだ」
夏村のことを想いながら話す寿也の表情は、今までに見たことのないくらい優しい笑顔だった
本当にその人のことを大切に想っているんだと思った
失恋は痛いけど、そんな先輩を見ていると私も幸せな気分になるんです
好きなんて言葉じゃ収まりきらないほど、その人のことを想っているんですね
「好き」ではなく「愛おしい・・」
綾『頑張ってください先輩! 応援してますから!!』
ペコリとお辞儀をして、ランニングに戻る寿也の姿をしばらく見つめていた
*長かった夏休みも終わり、3年生はいよいよ本格的に受験態勢に入った
バッティングセンター
キーンとバットに当たるいい金属音がしている
ガラガラとバッティング練習に吾朗と寿也がやって来た
中に入るやいなや、帰る客の気になる話が聞こえてきた
「おい見たか? 一番奥で打ってる女の子」
「ああ、140MAXのカーブだろ? あれだけバカスカ打たれちゃ、恥ずかしくて打てねぇよ」
二人は顔を見合せて、一番奥のブースに足を運んだ
カキーーン
_____________
大「未架、海堂に来ないか?」
『海堂・・・ですか』
大「お前のバッティングセンスは喉から手が出るほど欲しいところだが、それは叶わぬ夢ってもんだ
だが、俺はお前のマネージャーとしての力量も気に入っているんだ」
『すごいお褒めの言葉ですね』
大「褒めているんじゃない、事実だ
特待生枠を空けて待ってるぞ」
_____________
グッと力を強め、思い切りバットを振った
パカパ~ンとホームランゾーンに当った
吾「ナ~イスバッティン~!!」
噂の女の子は夏村だった
吾朗の声に驚いて振り返った
*
寿「珍しいね? こんなとこまで来るなんて」
『うん・・ちょっと気晴らしにね』
寿「クスクス・・そっか」
寿也が笑いを堪えているもんだから、夏村は目を細めて、何よ~・・とちょっと怒った風に言った
ごめんごめんと返ってくるが、顔は笑っている
寿「変わってないなぁ~って思って」
『失礼ね』
身長も伸びたし、胸だって大きくなったよ! と、きゅっと睨みつける夏村の胸を一瞬見てしまったことは内緒にしておこう・・・////
寿「相変わらず、バッティング上手いなって話! リトルの時から抜群に上手かったもんね! 夏村」
『そりゃぁ、男の子になんか負けたくないもん! 特に寿と吾朗には!!』
キミは昔から負けん気は強かったよね
でも、今のキミの笑顔は僕の心に刺さってくる・・
中学生になったキミを、僕はほとんど知らないから・・・
キミの進む道ですら僕は知らないんだ
寿「夏村は高校どこに行くの?」
『えっ(ドキッ)・・・ま、まだ決めてないのι』
寿也から目を逸らして答えた それと同時に吾朗が打ち終えて、寿也と交代した
煮え切らない顔で、寿也はバッティング練習に入った
*
吾「・・・なんで寿也には言わねぇんだ?」
缶ジュースをプシッと開けて、先ほどまで寿也が座っていた場所に座り問いかけた
夏村は困ったような顔で、バッティングをしている寿也を見た
『・・・せっかく海堂に行く決心がついて頑張ってるのに水なんてかけられないでしょ?
今は、セレクションに集中してるから、それを乱したくないよ』
そうすれば、寿なら必ず合格できる
それだけの実力があるのに、こんな些細な石ころに躓(つまず)かせたくない
吾「・・オレはむしろ、知らない方が気になると思うけど?」
『え?』
吾「さっきも聞いてただろ?」
『・・・(そう言えば・・)』
吾「それに今のあいつなら、んなこと言っても躓(つまず)きゃしねぇよ! 逆に、やる気になると思うぜ!!」
ニカッと笑う吾朗を、わからないと言った顔で見た
特待生は寿也の目標だったはず
いくら幼なじみでも、そんなことを知ったら今の寿也の決心に傷をつけてしまう・・・でも、違うの?
吾「夏村は気い遣いずぎなんだよ
海堂高校 野球部マネージャーなんて言ったら、あいつすっげー喜ぶぜ!!」
『そう・・かな・・?』
吾「そりゃそうだろ!
寿にとったら、夏村は大事な幼なじみなんだからよ! 同じ高校に行けるだけで嬉しいはずだって、絶対によ!!」
普段はおバカなことしか言わない吾朗だけど、こういう時はなんでかな? すっごく勇気づけられる
吾朗って意外と私や寿のこと見てくれてるんだなぁ・・
・・・ピッチャーってみんなそうなのかなぁ・・?
*バッティングセンターで吾朗と別れ、家が同じ方角の寿と歩きだした
『もうすぐだね! セレクション 自信はあるの?』
寿「短期間だけど、できるだけの体力強化もしたし、後は本番に呑まれないようにするだけかな?」
『クスクス・・あるくせに!』
寿「そうだなぁ・・夏村が応援してくれれば、受かる自信も出るんだけど・・・・夏村?」
冗談交じりに言う寿也の言葉に、夏村はその場に立ち止まった
不思議に思った寿也が、俯いている夏村の顔を覗きこんだ
『私・・さ・・・もうずっと前から、高校の内定取れてるんだ・・・』
寿「・・へぇ~、夏村はどこの高校に・・」
『海堂』
寿「え?」
『海堂高校 野球部マネージャー・・・特待生として・・・』
手が震えた
漂っている空気が私を締め付けてくるみたい・・
寿は、どんな顔をしてる?
どう思う・・・・?
寿「・・・すごいじゃないか!! さすが夏村だよ!!」
夏村の肩を両手で掴んで、自分のことのように喜んでいる寿也を見て、自分が思っていた展開とはまるで違っていたので、一瞬止まってしまった
『えっ?・・・お、怒らないの??』
寿「?何で怒る必要があるのさ」
『だって、特待生は・・』
寿「え? プッ あははは・・」
*寿也は突然笑い出し、夏村はわけがわからなくなった
寿「夏村は気を遣いすぎだよ!
僕のこと考えて、今まで黙ってたんだろ?」
『う、うん・・ごめん』
寿「謝ることないよ
あっ! でも、これからは、い・ち・ば・ん・に僕に教えてよ!」
寿には嘘はつけないなぁ・・・吾朗に教えたことバレてるんだ・・・
寿「夏村、遅いから送るよ!」
そう言って先を歩いていく寿也の背中は、前みたいな淋しさはなく、なんだか安心する
あの頃見ていた背中は大きくなっても、その優しさは変わらない
そんな寿だから、ついて行ける
走って寿也のところまで追い付き、手を繋いだ
寿「みっ・・夏村/////!!」
『えへへ! 久々に、手繋いで帰ろ!』
そう、変わったことなんて何もなかったんだ
あの頃と同じ・・・
寿も私も 進む道は違っても ここにいる
過去がどうであれ ここにいる事実に
嘘なんてないんだ
*END*
ーおまけー
寿「(夏村って、さりげに僕を誘ってるよ・・絶対/////
・・・ぁぁ、ぎゅってしたい・・したいけど、稚紗さんにバレたら殺されるしな・・・)
我慢の日々は続く寿也であった
◇あとがき◆
お疲れ様です!
漸くセレクションに突入できそうです!!
オリジナル入れると、何書いているのかわからなくなる・・・(だめだろう!)
ではでは、この辺で☆
*07.8.16