想い出のカケラ (調整中)
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やっと見つけたキミの手を
もう二度と離さないように・・・・
第17話 [兄]
*友ノ浦 VS 三船東戦の後、一足先に吾朗の家に向かった大貫だったが、今まで仕掛けた罠は苦渋にも自分に降りかかってしまう結果だった
吾朗によって追い返された大貫は、球場で言われた夏村の言葉を思い出した
大「・・・未架・・・・あいつの言ったとおりだったな」
そう呟いた大貫の背中は敗北者だった
樫「よーし! 今日はここまで!」
「「「ありがとうございました!!」」」
子供たちの元気のいい声が響き渡る横浜リトルの練習場
懐かしくグラウンドを眺めていた寿也に、樫本は気が付いた
樫「試合惜しかったな」
寿「ええ、でもこれが結果ですから」
グラウンドの階段に並んで座る寿也の顔を樫本はじっと見た
そんな樫本に不審を抱く寿也
樫「・・・にしては、やけに嬉しそうだなぁ」
寿「えっ・・そ、そんなことありませんよ・・(・.・;)」
妙に慌てる寿也を見て、樫本は何やらピンと来たらしい
樫「当ててやろうか?」
寿「(ドキッ)・・な、何をですか・・・?」
樫「夏村と仲直り出来たんだろ?」
ここは嬉しそうに笑うところだが、寿也は顔を赤くした
不思議に思った樫本は冗談交じりに聞いてみた
*
樫「・・・お前、夏村に何したんだ?」
寿「なっ////何もしてないですよ!/////やましいことなんて何もっ!!//////
(・・・思いっきり抱きしめたなんて口が裂けても言えない・・///////)」
さらに顔を赤くし、慌てて返す寿也だが樫本にはバレバレ
何かしたな・・と思わせるには十分すぎるほどの慌てぶりだ
樫「まぁ・・良かったな
二人の相談相手には苦労するからな」
寿「え?」
樫本は夏村からもよく話を聞いていたことを告げた
寿也は驚いていたが苦笑いをして、人が悪いなどとおどけて言った
樫「これで、あいつも安心して見守れるだろう・・・」
寿「あいつ・・・って?」
樫「なんだ、夏村から聞いてないのか?」
寿「・・・・?」
寿也は何のことだか全く分からなかった
夏村から聞くと言っても、あれ以来連絡は取るものの会っていない
本当に何も知らない寿也に樫本は重い顔をした
寿「夏村がどうかしたんですか?」
深刻そうな樫本を覗き込んだ
樫「寿也・・・こんな話、俺がしていいのかわからんが・・・・佑を覚えているか?」
寿「佑って・・・夏村の・・」
樫「未架佑・・・夏村の兄貴だ」
ゆっくりと話しだした樫本の表情は、険しく辛そうだった
寿也は妙に胸騒ぎがした
嫌な空気が漂っている中、そよそよと風が髪をなでていく
寿「・・樫本・・監督・・・?」
樫「・・・・死んだんだ・・・2年前に・・・」
寿「!!」
突然のことで、驚きを隠せなかった
*佑のことは寿也もよく知っている
横浜リトルで正捕手の4番だったのだ
寿也にキャッチングを教えたのは他でもない佑だった。夏村や寿也のバッティングを見ていたのも佑だ
そんな佑を尊敬し、目標にしていた。今もどこかでプロで野球をしている・・寿也はそう信じて疑わなかった
寿「・・・・」
樫「・・・2年前のちょうどこの時期だ
夏の甲子園優勝を果たした、その日に事故でな・・・」
言葉にならなかった
胸に何かが刺さるように痛い・・・
寿「・・夏村は・・・・?」
震えそうになる声を抑えて訪ねた
今の夏村からはそんな事、微塵(みじん)も感じられなかった
樫「・・あの頃のあいつは、正直見ていられなかった
どこを見ているのか、何を考えているのか全くわからなかった
まるで、生気を失くしたかのようだったからな」
寿「・・・・」
樫「葬式でも通夜の席でも、涙一つ流さなかったんだ
ただ、ずっと佑を見ているだけで・・・」
寿「ありがとうございます・・・もう充分です」
樫本の話を強制的に終わらせた・・いや、これ以上聞いていられなかった・・・胸が痛すぎて・・
寿也の手の甲に雫が落ちた
少し震える肩に、樫本は優しく声をかけた
樫「今度はお前が夏村の傍にいてやれ
あいつの分までな・・・」
寿「・・・・・はい」
少しの勇気があれば良かったんだ
ほんの少しあれば もっと早く僕達は逢えたんだ
こんなにも傷つかずにすんだんだ
キミの支えになってあげられたのに・・・
*
『フンフン・・・フ~ン フフ~ン♪』
上機嫌に鼻歌を歌いながら鍋の中身をかき回している夏村
食欲をそそるようないい匂い、今晩はビーフシチューかな?
軽快に鼻歌を歌っていると、それを止めるかのようにインターフォンのベルが鳴った
時刻は7時過ぎ、こんな時間に訪ねてくるなんて宅配便? セールス? どちらにしろ夏村の知り合いでないことは確かだ
そう思いながらパタパタと玄関へ向い、不用心にも扉を開けた
『はーい、どちら様・・・!!』
寿「不用心だなぁ・・インターフォンも覗き穴も確認せずに扉を開けるなんて!!
もし不審者だったらどうするの?」
『・・・寿が不審者になればいい』
思わぬ来訪者に対処ができず、わけのわからないことを発する夏村
そんな夏村を、かわいいと思ってしまうのは男のさがというものだろうか
『どうしたの? 急に来るなんて・・・』
しかもこんな時間に・・と言いながら寿也を家の中に招き入れた
内心ホッとした
あれから一度も会っていなかったから
ギクシャクしたらどうしよう・・なんて心配してた
でも・・大丈夫みたい! 普通に話せてる
ちょっと心は落ち着かないケド・・・
寿「今日は・・・佑兄に逢いに来たんだ」
『!!!』
少し前に樫本と話をしていたこと、佑のこと、ここへ来た経緯を話した
夏村の表情が少し曇ったが、精一杯笑顔を向けてくれた
*夏村の家は、吾朗の家ぐらい広い。さすが大人気のデザイナーの家だ
廊下を抜け広いリビングを通り、奥にある居間に案内された
八畳間ぐらいの広い和室、その一角に大きな仏壇が佇(たたず)んでいた
それを目にしたとき、さっきまでとは一変して、また胸が痛みだした
実際、こういうものを見ると”現実なんだ”と嫌でもそれを突きつけられる
本当はどこかで受け入れられない自分がいたんだ
恐らく、この胸の痛みはこいつが犯人だろう
『お茶入れてくるね』
夏村は、トトトッとキッチンへ向った
仏壇の前に座った寿也は、線香を立てて、手をあわせた
そして写真の向こうで優しく笑っている佑をしっかり見た
寿「・・・安心してください」
お茶をお盆に乗せて居間の前で立ち止まっている夏村がいた
一瞬、そこに座っている姿が、なぜだか佑とダブって見えたから
大きくて温かい背中・・・胸がきゅう~と締め付けられる、そんな感じだった
お茶をテーブルの上に置き、寿也の横に座った
『最近になって漸(ようや)くここに座れるようになったんだ』
寿「最近?」
『それまでは、こんな風にお兄ちゃんの前に座ったり、この部屋に入ることなんてできなかった』
切なく笑う夏村は、今何を思っているのだろう・・・
『時間ってすごいよね』
寿「え・・?」
『どうしようもない悲しみも、どうにもできない辛さも、癒してしまうんだから・・・』
仏壇の前に供えられている野球ボールを手に取って、胸の前で大事そうに握り込んだ
佑が最後に打ったウィニングボール
*
『でもね、本トは残酷なんだよ
だって・・・癒してはくれても、消してはくれないんだから・・・』
今でも消えることのない悲しみ
こんなもの、いっそのこと全部消えてしまえばいいのに・・・
寿也は知ってか知らずか、そっとウィニングボールと夏村の手を包み込んだ
寿「それはきっと、想い出にするためなんだよ」
『・・・・』
寿「消えてしまえば、覚えていることも思い出すこともできなくなっちゃうから
だから、消さずに残してあるんだと思うよ」
『・・・・そ・・っか・・・・・』
夏村は安心したような表情をして、そのまま寿也の胸に頭を寄せた
寿「み・・・・夏村/////?」
寿也は顔を少し赤らめて、胸の中にいる夏村にどう接すればいいのか困っていた
行き場のない手だけが空中をさ迷っている
『私、寿にぎゅってされるの好きだよ・・・なんか・・すごく安心するの』
夏村の挑発ぎみた発言は、寿也の理性を尽(ことごと)く打ち砕いていった
ギリギリと拳を握り、なんとか保っているが鼓動や言葉まで抑えられなかった
寿「僕も好きだよ」
『本ト!?』
夏村の真上から囁いた言葉に、ぱっと上を向いた
嬉しそうな夏村の笑顔がかなりの近距離にあったためか、寿也の理性が一瞬どこかへ吹っ飛んでいった
*深く考えもせずに話す鈍感娘は、迷惑じゃないかなぁって心配してたの(ーー;) などと違う心配をしていた
寿「夏村って本当に変わらないよね」
真直ぐに瞳を見てくる寿也の異変に漸(ようや)く気付いた夏村だったが、時すでに遅し
寿也の手は、頬と頭の後ろから首筋の辺りで夏村が逃げられないように捕まえていた
『と・・寿・・・・?』
寿「・・・僕がどんな風に夏村を見て来たか知ってる?」
『・・え・・・?』
考える暇もなく、寿也の顔が近づいてくる
ウィニングボールが、コロコロと静かな和室に転がっていった
*END*
◇あとがき◆
今回は、ほとんどオリジナルで書いてみました(>_<)
なんか寿くんが危ないわ・・・
狼になりつつある・・・(・。・;
このあとヒロインは無事に寿也を帰せるんでしょうか??
*07.7.15